太宰治が愛した若松屋。直筆原稿のレプリカが展示されている(撮影/写真部・堀内慶太郎)

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 鰻について触れた文芸作品は数多い。最も古いのは万葉集で、大伴家持が詠んだ。近代日本の文豪も、贔屓の店を作品に登場させている。彼らが愛でた鰻店を紹介する!

■太宰治
「この、うなぎも食べちやはうか。」(略)「ええ。」「半分づつ。」 [メリイクリスマス]
<若松屋>
昭和21年頃に三鷹市で屋台として始まった店。太宰はここで、鰻だけでなく賄い飯もつまみつつ酒を飲んでいた。『眉山』には〈若松屋といふさかなやがあつて、そこのおやぢが昔から僕と飲み友達〉との記述も。店内には来店時の写真や『斜陽』の初版本などが飾られている。現在は又吉直樹が通っている。鰻重大串3500円(税込み。以下同)
東京都国分寺市東元町2−13−19/営業時間:17:00〜21:30L.O. /定休日:水、第3火

■泉鏡花
何であろうと三人が風説(うわさ)とりどりの中へ、へい、お待遠様、と来たのが竹葉(ちくよう) [婦系図/おんなけいず]
<竹葉亭本店>
永井荷風『断腸亭日乗』、夏目漱石『吾輩は猫である』にも登場するなど、文人に愛され続けてきた。創業は江戸末期(1865年頃)で新富町にあったが、関東大震災後に現在地に移転した。京都から大工を呼んで建てた築90年の建物は風情がある。炭の香りも伴う鰻は、皮がパリッ、身はしっとり。銀座店、横浜そごう店もある。鰻お丼B3132円
東京都中央区銀座8−14−7/営業時間11:30〜14:30L.O.、16:30〜20:00L.O. /定休日:日祝

■谷崎潤一郎
今もあるはずの、小網町の喜代川という鰻屋の鰻もよく御馳走になった [幼少時代]
<うなぎ喜代川>
谷崎は子供の頃を回想した『幼少時代』で、叔父から玉ひで(鶏料理店)の親子丼と喜代川の鰻をご馳走になったことを、嬉しそうに記している。渡辺淳一もこの店の常連で、『化身』の中で主人公が若い恋人に白焼きで酒を飲む楽しさを教える場所として登場させている。建物は、昭和2年築の木造2階建て。うな重3240円〜、白焼き3240円
東京都中央区日本橋小網町10-5/営業時間:11:00〜14:00、17:00〜20:00L.O. /定休日:日祝

■夏目漱石
或る人に奴鰻を奢ったら、御蔭様で始めて旨い鰻を食べましてと礼を云った [虞美人草]
<やっ古>
寛政年間(1789〜1801年)の創業で、勝海舟とジョン万次郎とが連れ立って来店したことがあると伝えられている。漱石は『彼岸過迄』にも登場させている。他に岡本綺堂、久保田万太郎も足を運んだという文士御用達店。鰻はしっかりと蒸すからだろう、とても柔らかいのが特徴。タレは甘さ控えめだ。うな重桜4100円、うなぎハム1050円
東京都台東区浅草1−10−2/営業時間:11:30〜20:45L.O. /定休日:水(祝日の場合は営業)

■齋藤茂吉
あたたかき鰻を食ひてかへりくる道玄坂に月おし照れり
<花菱>
茂吉は、29年間の日記の中で鰻を食べた記述が902回も出てくるといわれる無類の鰻好きだった。最も気に入りだったのが、大正末期に道玄坂に創業した花菱で、青山の自宅から散歩がてらに来店、入り口そばのテーブル席で、一番小さな鰻丼(現在は鰻重になっている)を食べた。1日に2回訪れたこともあるという。鰻重中3564円、うまき1944円
東京都渋谷区道玄坂2−16−7/営業時間:11:30〜14:30L.O.、17:00〜21:30L.O./定休日:日祝

週刊朝日  2016年7月29日号