乳がん予防・治療に期待。 睡眠ホルモン「メラトニン」でがん細胞増殖阻止

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質の良い睡眠を得るために必要な条件の一つに睡眠ホルモン「メラトニン」が十分に分泌されていることが挙げられます。メラトニンとは脳の松果体という部位から分泌されるホルモンの一つで、メラトニンが分泌されることで夜に眠気が訪れ身体が休まるのです。
またメラトニンは「若返りホルモン」とも呼ばれ、抗酸化作用が強いため細胞の新陳代謝を促すほか、病気や老化の予防にも役立っています。そんなメラトニンが、なんと「乳がん治療にも一役買う」という研究報告があります。

メラトニンの分泌量が少ないと乳がんになりやすい!?

メラトニンの分泌量と乳がんリスクの関係性については多数の研究があり、分泌量が少ない人ほど乳がんリスクが高いことが明らかになっています。例えば2009年に発表された看護師の健康調査研究では、2000〜2002年にがんを発症していない女性看護師を対象に長期間の観察を行いました。その中から、2006年5月末までに乳がんに罹患した閉経期後の女性357人と、対照となる533人のメラトニン代謝物濃度を比較したところ、尿中のメラトニン代謝物濃度が高いほど、乳がん発症リスクは下がることが明らかになったのです(※1)。
 
また、閉経後の女性であってもメラトニンの分泌量が多い人のほうが乳がんの発症リスクが低いこともわかっています。先ほどのグループの中で、追跡期間中に乳がんを発症した178人と健常の対照グループ710人を比較したところ、こちらでもメラトニン量が多いほど乳がん発症リスクは低くなっていました(※2)。

メラトニンががん細胞増殖を阻止する!

メラトニンにはもう一つ、乳がん治療にもうれしい作用があることに注目が集まっています。
 
乳がんの治療といえばホルモン療法が主流で、それに使われるホルモン薬として「タモキシフェン」が有名です。しかしタモキシフェンにはほてり、体重減、視力低下、視野の異常といった目の問題、生理不順、息切れなどの副作用が報告されています。また子宮がんや脳卒中、肺血栓のリスクも指摘されており、タモキシフェンにがん細胞が慣れて耐性がついてくると、効果がなくなってしまうという側面も。そこで役立つのがメラトニンです。
 
メラトニンには強い抗酸化作用がありますが、がん細胞の増殖を阻止する働きがあることなども報告されています。イランのタブリーズ・ユニバーシティ・オブ・メディカルサイエンスの研究チームが「メラトニンを効率的に体内に送ることでタモキシフェンの作用を効果的にできないか」という研究に取り組んだ結果、ナノ粒子にメラトニンを閉じ込めて使用する「ナノ構造脂質キャリアNLC(メラトニン入りNLC)」を開発することに成功しました。
 
メラトニンには優れた側面がある一方で、物質としては非常に不安定で分解が早いため、治療で使用するのであれば何度も投与しなければならないというデメリットがありました。しかしメラトニン入りNLCを使用することで、メラトニンを少しずつ放出し、長時間持続させることに成功したのです。そしてタモキシフェンとメラトニン入りNLCを併用した治療を行った結果、タモキシフェンとメラトニンそれぞれを単独で投与した場合より、がんの細胞死が2倍も増大したそう(※3)。
 
これらの成果から今後は、ナノ化したメラトニンを併用することで、乳がん治療においてタモキシフェンの投与量を減らし、副作用のリスクを軽減できるのではないかと大きな期待が寄せられています。また、この治療法は乳がん以外のがんへの適用も検討されているそう。今後の研究次第では、メラトニンががん治療に欠かせない存在になる日がくるかもしれません。

あなたの睡眠の質は大丈夫? メラトニンの分泌が減る習慣、増える習慣

夜勤の多い看護師や国際線のフライトアテンダントのように、体内時計が乱れやすい職業の人は乳がん発生率が高いという説があります。これは、夜間に強い光を浴びることでメラトニンの分泌量が低下するからではないかと指摘されています。
 
睡眠のために必要なメラトニンですが、十分に分泌させるには、日中にしっかり活動しておくことが大切。朝日を浴びて体内時計をリセットすることもポイントです。また、夜間のパソコンやスマホの使用が思わぬ悪影響を及ぼしている可能性も否定できません。
 
メラトニンは美容にも良いホルモンです。睡眠の質が向上するとともに、乳がんのリスクを減少させてくれるというなら、たくさん分泌させたいもの。朝はきちんと朝日を浴び、夜間は薄暗いなかでリラックスした時間を過ごすようにして、メラトニンの分泌を促しましょう。
 
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参考
EurekAlert!
Sleep hormone helps breast cancer drug kill more cancer cells
※1 Schemhammer ES, et.al; Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2009 Jan;18(1):74-9
※2 Schemhammer ES, et.al; J Natl Cancer Inst. 2008 Jun 18;100(12):898-905
※3 Sabzichi M, et.al; Colloids Surf B Biointerfaces. 2016 Apr 22; 145:64-71

photo:Thinkstock / Getty Images