ドアを開け閉めするだけじゃない。「ドアマン」という仕事人から学ぶ、プロフェッショナルの流儀。

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ドアマンという職業を知っているだろうか。ホテルやレジデンスのドアをひたすら開け閉めする、あのお仕事。表舞台に出ることのない仕事人からこそ、彼らから学べる姿勢というものがある。

「住民にドアを触れさせない」

ホテルやレジデンス(居住)ビルの玄関で、燕尾服のような制服に身を包んだスタッフが、笑顔でドアを開ける。統計によると、ニューヨークで働くドアマンの平均年収は3万5,000ドル(約350万円)。「ロビーに突っ立って、ドアを開けるだけでそんなにもらえるのか」と思うなかれ。

ドアマンの仕事の幅は広く、深い。試験や資格こそないが、空気を読む力など高いコミュニケーション能力が求められる。

日本ではまだ馴染みが薄い職業だが、ここニューヨークでは、ドアマンビルに住んでいることは、ちょっとしたステータスでもある。マンハッタンの居住ビルのドアマンたちには「住民にドアを触れさせない」というポリシーもあるらしい。

さて、ドアマンの仕事は、住人や客を迎え入れ、送り出すだけではない。人の出入りを注意深く観察し記憶するのも、保安管理と信頼維持、両方の点から重要な仕事だ。いまビル内にいる人、いない人を把握できていればいるほどいい。また、届いた荷物の管理、言いつかった用件やトラブルを、的確な判断で冷静に片付ける。何よりも、「ビルの顔」として常に誠実であることが求められる。

面白いのは、仕事の得方。自分の働きをアピールすることこそが出世の定石ともいえるアメリカ社会だが、ドアマン業界(サービス業界全般といえるかもしれない)では、「ヘッドハンティング」だ。

ドアマンの求人は大きく市場に出ることはなく、新しいホテルやレジデンスビルが完成する頃、現存の中から優秀なドアマンを探す。「あのビルのあいつがいい」という、評判ベースの引き抜き合戦が行われるのだ。

「いつも誰かが見ている」ことを意識

実際に、高級ドアマンの仕事ぶりって、どんなものなんだろうか。セントラルパーク近くの高級レジデンス、「Grand Tier」に勤務するドアマンを訪ねてみた。

制服負けしない凜とした立ち姿が、その存在を際立てる。ドアの内側から通りを見つめる眼差しは鋭いが、過度な緊張感はない。フロントデスクにいようと、彼らの意識は常にドアの前方と後方にある。25年のキャリアを持つというチャーリーは、静かに語る。「わたしたちの仕事は、このビルのクオリティーを体現するものだから」。

「いつ誰が見ているか分からないからしっかりやれ」という、小さい話ではない(そうであっても教訓にはなるが)。お天道さまが見ているという言葉があるが、チャーリーが周囲への心配りを意識したのは、自身がひざの手術のため1週間ほど休んだ後、職場へ戻ったときだったという。

「最近見なかったけれど、どうしてたの?」

住民ではない。ビルの前をいつも歩いているという通行人が声を掛けてきたのだ。「気づかないだけで、常に誰かが見ていてくれていたことに気付いたのです。こんな素晴らしいことってないでしょう?そうと知ったら、下手な態度で仕事はできません」と微笑む。

自意識過剰ではなく、他者に与える印象を意識して自らを律するために、胸を張り背筋を伸ばす。この姿勢こそが、プロフェッショナルの流儀だ。

「誰かがどこかで働きを見ている」。ドアマンのヘッドハントは評判ベースであると前述したが、出世のためだけではなく、プロとしてその意識を持つのと持たないのでは大違い。ドアマンだけでなく、どんな職種のプロにも教訓となる姿勢だ。ではドアマンとして、住人やコミュニティーと良好な関係を築くコツとはなんだろう。

つかず離れず。絶妙な距離感を保つ

住民の家族形態は様々、年齢も様々だ。人間も十人十色。「適切な距離感をどう学ぶ?」と聞くと、「とにかく感じて学んでいくしかない。“too much(やり過ぎ)”だったら、相手の顔と態度で分かる」と、若手のペドロは答える。「失敗した」と感じたら軌道修正し、ベストな関係を築くために日々、誠実に冷静に仕事で示していくしかないという。  

住民とドアマンが、ハイファイブ(手を掲げてたたき合う)やフィストバンプ(こぶしをぶつけ合う)で気取りのない対等なあいさつを交わす姿を見ると、「いいレジデンスなのだろう」と思う。そんな日常の一コマが、ここニューヨークにある。「誰かが見ている」そう意識するだけで仕事の質も人間関係も向上するならば、一つやってみようじゃないか。

HEAPS

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