「ポケモンGO」愛好者に向けた仙台育英高の小粋な注意書き

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 巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

第17回 やんわり注意しようという心意気や良し

「本校のポケモンは、進路達成に向けて真剣に勉強しておりますので学習の妨げにならないように捕まえないでください。校長」by仙台育英高校

【センテンスの生い立ち】

 海外では爆発的人気となっていたスマートフォン向けのゲーム「ポケモンGO」が、日本でも2016年7月22日に配信を開始。その前日の21日昼すぎ、宮城県の仙台育英高校の校門に「ポケモントレーナーの皆様へ(ポケモンGOの愛好者様へ)」で始まるメッセージがが掲げられた。そこに校長名で書かれていたのが、上のセンテンス。このちょっとユニークな注意喚起はたちまちSNSで拡散し、テレビニュースや新聞などでも取り上げられた。

【3つの大人ポイント】

・ひとひねりすることで威圧的な気配を出さずに警告している

・やや意味不明なところが、無理しているっぽくて微笑ましい

・話題になったことで、結果的に学校のイメージを向上させた

 7月7日に登場して以来、世界的に大旋風や大騒動を巻き起こしている「ポケモンGO」。最初に配信されたのは、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドの3か国でした。もしオーストラリアで「ポケモンGO」をプレイする機会があったら、SNSに「豪でポケモンGO!」とアップしたいもの。あるいは、もし吉田豪さんや永井豪さんや若林豪さんがプレイしていたら「豪がポケモンGOを!」ですね。……すいません、話がそれました。

 日本でも多くのポケモンファンや新しい物好きたちが、上陸を心待ちにしていました。そして7月22日10時過ぎ、唐突に配信がスタート。現在22日の午後ですけど、SNSへの書き込みなどを見ると、さっそくスマホ片手にモンスターを探し求めている人たちが、街にもオフィスにもあふれているようです。私も勇んでダウンロードしたものの、仕事が詰まっていて外に出られず……。でも部屋の中で、イーブイとゼニガメをゲットしました。

 配信される前から、政府が注意を喚起する声明を出したり、文化施設や教育現場でも警戒の声が上がったり、任天堂の株価がえらいことになったり、尋常じゃない注目のされ方をしていました。すでに偽アプリも登場しているようです。この先、称賛や批判の声をたっぷり受けながら、ブームはますます盛り上がるでしょう。

 ネット上でも、街のあちこちにモンスターがあふれる前から、歩きスマホが増えることをことさらに憂いて「良識がある自分」をアピールしたがったり、あえて関心がないことをわざわざ強調して「ちょっと違うオレ」を見せようとしたりする、まあ言ってみれば一種のモンスターが多数発生していました。とくにゲットしたくはありませんが、事あるごとにそういうことを言いたがるみなさんにおかれましては、いつもどおりにお元気で何よりです。

 そんな狂騒状態の中、一服の清涼剤となってくれたのが、配信前日の21日に宮城県で有数の進学校である仙台育英高校の校門に貼られた一枚の紙。別の校舎の校門にも、同じものが貼られました。そこには「ポケモントレーナーの皆様へ(ポケモンGOの愛好者様へ)」と呼びかけながら、こう書かれていました。

「本校のポケモンは、進路達成に向けて真剣に勉強しておりますので学習の妨げにならないように捕まえないでください。校長」

 大人気になるであろう「ポケモンGO」を意識しつつ、何かを警告しようとしているようです。ただ、ここに書かれている「ポケモン」は、生徒のことだと素直に思っていいのか……。愛好者がこの学校の生徒を捕まえても仕方ないので、何か別の意味もありそうです。

 報道によると学校側は、外部の人がキャラクター目当てに校内に入らないでほしいという意味と、生徒たちは校内では勉強に専念してほしいというふたつの意味を込めたとコメントしているとか。うーん、ちょっとわかりづらいですね。ただ、そんなわかりづらさからも、学校というお堅いところが、一生懸命に慣れないユーモアを発揮しようとしているケナゲさや微笑ましさが感じられます。

 ストレートに書くなら「部外者の立入禁止」とか「学内でのスマホゲーム禁止」といった感じでしょうか。たぶんゲームの話だからということで、威圧的な表現を避けて、やんわり表現しようとした意図や志は、ひじょうにアッパレ。しかも、校長先生という権威を遠慮なく振りかざしてもいい、一般的にはそうしがちなイメージがある立場の人の名前で書かれているところが、この貼り紙の味わいをさらに増していると言えるでしょう。

 社会生活の中では、どうしても注意や警告が必要な場合があります。管理する側の立場にある人が、威圧的な言葉を使って警告しても、誰も責めはしません。しかし、それだと当たり前すぎてインパクトや説得力も欠けてしまいます。他人に何かメッセージを伝えるときに、どうにかもうひとひねりできないか、何か工夫の余地はないかと頭を絞る姿勢は、とても大切。それが自分の人生をより充実させ、今よりも素敵な社会を築く第一歩です。ちょっとぐらいすべっても外しても、頭の固い人に怒られても、まあいいじゃないですか。

 仙台育英高校は、きっとそんなつもりはまったくなかったでしょうけど、この貼り紙によって日本中から好意的なイメージをゲットしました。私たちもこの貼り紙に込められた思いから、人生をよりよく、より穏やかに、より実り多く生きるためのヒントをゲットさせてもらいましょう。ユーモアの発揮の仕方は、自分なりのやり方を見つけるとして。

【今週の大人の教訓】

流行りものに乗っかっておく腰の軽さは、けっこう大事かも

文=citrus石原壮一郎