プントリネアHPより

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 これは、彼女なりのバッシングへの反論ということなのだろう。『NEWS23』(TBS)でキャスターに復帰する雨宮塔子が本日発売の「婦人公論」(8月9日号/中央公論新社)のインタビューに応じ、復帰を決意するまでにあった子どもたちとのやりとりを公開した。

 雨宮に、「母親失格」の異様なバッシングが起こったことは、先日、本サイトでもお伝えしたとおりだ。

 雨宮はフランスでパティシエの青木定治氏と結婚して2児をもうけたものの、2014年3月に離婚しているのだが、今回、キャスター復帰に当たって、フランスにいるその前夫に子どもたちを託す決断をしていた。

 ところが、これに対して、青木氏の妻が「2人の子供を押しつけておいて、自分は帰国するなんてあまりに身勝手。私はベビーシッターじゃない!」と憤慨していると、「女性自身」(光文社)7月19日号が報じた。

 記事はただの伝聞だったが、ネット上では、「中山美穂と同じ臭いがする」「離婚だけでも身勝手なのに仕事のために子供を捨てるなんてあり得ない」「雨宮のわがまま」「最近子供捨てる母親増えてきたわ」「ニュースキャスター失格だな!」といった激しいバッシングが巻き起こったのだ。

 しかし、今回、「婦人公論」に掲載され、「子どもをパリに残して、45歳の再出発」というタイトルが付けられていた雨宮のインタビューを読むと、一連のバッシングがいかに的外れであるか、そして子どもと離れる決断をするだけで「母親失格」と攻撃する日本社会の価値観がいかにナンセンスであるか、がよくわかる。

 そもそも、今回の雨宮の決断は、彼女の子どもたちから提案されたものだった。当初、TBSからのオファーがあったとき、雨宮のいちばんの気掛かりは子どもたちの学校のことだったという。そのことがあったため、即答できずに「お断りするなら誠意を持ってお伝えしないと」とも考えていた。

「最初に言われたのも『学校がかわっちゃうの?』という台詞でしたから、それ以降、あまりこの話には触れないようにしていました」

 たしかに、パリで生まれ育ち、パリの学校に通う小学生と中学生の子どもにとって転校、しかも異国の地である日本への転校は、抵抗があるのは当然だろう。客観的に見ても、人生を左右しかねない問題である。

 だが、子どもたちは苦悩しながら、母親の人生を後押しした。ある日、12歳の娘が泣きながら雨宮にこう言ったという。

「でもママ、この仕事は諦めちゃダメだよ」
「ママはママの人生を生きてほしいけど、自分たちはこの環境を変えたくない」

 12歳の雨宮の娘は自分の意思をはっきりと表明したのだ。それだけではなかった。子どもたちの意志を知った雨宮のフランス人のパートナーは、雨宮にこう言ったという。

「子どもたちの面倒を見る心構えはできているよ」

 しかし、子どもたちは再び自分たちの意志を伝えてきたという。「その気持ちは嬉しい。でも、パパという選択肢はないの?」と。そのため前夫であるパティシエの青木定治氏に話したところ、引き受けると即答してくれたことから、雨宮の決心が固まったのだ。

 日本で起こった"子どもを捨てた"といったゲスなバッシングがいかに事実無根であるかがよくわかるだろう。

 しかも、重要なのは、この雨宮の話がたんに「心温まる親子のいい話」「感動物語」として語られているわけではないことだ。

 親と子どもが依存しあうのではなく、お互いの意思をきちんと伝え合う。フランス社会にはこうした自立した親子関係が根付いていることを雨宮は提示している。

 その結果、母親と子どもが離れて暮らす決心をしただけで「母親失格」「子どもを捨てた」とバッシングを繰り広げる、日本の母親観がいかに歪であるかが浮き彫りになったと言えるだろう。

 おそらく、こうした母親観の背景には、日本社会の母親への育児押し付け、母性神話がある。そして、この価値観はたんに女性を社会から疎外するだけでなく、子どもを過保護にし、子どもの自立を妨げる弊害を生み出しているのだ。

 実は、雨宮は自分の体験に寄せるかたちでそのことも語っている。雨宮自身も以前は母子密着的な価値観からまったく抜け出せず、幼稚園の壁によじ登って子どもの様子を覗いたこともあったほどだったという。そして、雨宮はそのとき、フランス人から言われた言葉と、フランスの母親像をこう語っている。

「フランス人からは、『あなたは子どもとの距離が近すぎる』と言われてしまって。長期で子どもと離れたことがないので実際どうなるかわかりませんが、子どもが大丈夫でも、私のほうがキツいかもしれません」
「フランスでは、女性は母親であると同時に妻であり女であるという部分がないといけない、という考え方。だから女性は女である自分を楽しむために(ベビーシッターを雇うなど)赤字を覚悟で子どもを人に預けて、外へ繰り出します。そういう母親を見ているから子どもも親離れがしやすいし、母親にも働いてほしいと思えるようになるのでしょう」

 フランス的な考え方すべてが正しいわけではないが、しかし、日本の母子密着に代表される母性神話にもとづいた考え方が子離れ、親離れを阻み、「子の面倒は母親がみるのが当たり前」という育児問題を生み、女性の社会進出を拒んでいることは否めない事実だ。

 ところが、安倍政権の周りにいる保守勢力はむしろ逆に、この母性神話を強化し、いびつな母子密着をさらにエスカレートさせようとしている。

 こんな封建時代へのノスタルジー的価値観に支配されているかぎり、少子化問題が解決することなど絶対にありえないだろう。雨宮のインタビューは、歪な母性神話に縛られていない女性がニュース番組に登場することへの期待とともに、日本社会の残念な現実をあらためて我々に突きつけたというべきかもしれない。
(伊勢崎馨)