大手広告代理店 「下っ端」に回る過酷な仕事

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出版界の最重要人物にフォーカスする『ベストセラーズインタビュー』!第83回のゲストは、実に1000冊目の著作『ファーストクラスに乗る人の発想―今が楽しくなる57の具体例』(きずな出版)を刊行した中谷彰宏さんです。

中谷さんといえば、スマートかつ鋭い言葉で読者を鼓舞する作家であるとともに、俳優やコメンテーターとしても活躍する才人。就職活動の時に『面接の達人』にお世話になった人は多いかもしれません。

なぜそんなに多才なのか?そしてなぜこれほどまで多作なのか?その才能の原点に迫るインタビュー、最終回です!

■極秘ミッションにかかわったおかげでクライアントに“捕虜”に

――先ほど少しお話されていた、広告代理店時代の悲惨な経験の方もお聞きしたいです。

中谷:クライアントの新商品開発にかかわってしまうと大変でした。新商品開発の情報は極秘で、そもそも新商品を開発していること自体が秘密です。だから、僕の仕事について知っているのは博報堂の中でも直属の上司だけだったんです。

となると、会社のなかで「おまえ、仕事してないな」となる。冗談じゃないですよ、めちゃくちゃ働いているのに。だけど、それに対して反論もできないわけです、何しろ秘密だから。新商品開発って10年かかることも珍しくないので、その間はこの状態がずっとこの状態が続くんです。

そうしているうちに、唯一僕の仕事のことを知っていた上司がいなくなってしまうこともあるんですよ。そうなると本格的に捕虜です。新商品開発は、商品を作りながらCMも平行して作るので、試作品がテストでダメになるとCMもボツ。それで最初からやり直していたら、今度はクライアントの担当者が代わって、前の担当者と同じ仕事はしたくないと言い出した。それでまた一からやり直しです。結局世に出ないものを延々と作り続けることになるわけです。これは僕だけではなくて、同じような人が大勢いたはずですよ。

――それはきつい……。

中谷:世に出ないといっても、海外ロケをしたりして大掛かりにCMを作るんですが、こちらもオンエアされないことはわかっているわけです。でもそんなのは空しいから、ちょっと社内遊泳がうまい人は逃げてしまう。だから一番下っ端に回ってくるんです。

――博報堂を退職されたきっかけは何だったんですか?

中谷:僕は映画監督になりたかったので、映像の勉強をするために博報堂に入ったんです。だから、そもそも入った時からいずれは独立するつもりでした。

入ってみたらマーケティングをさせられたり得意先の交渉をさせられたりで、なかなか希望通りにはいかなかったんだけれど、独立するまでは我慢しようと思っていました。初めて会社に辞めたいと言ったのは28歳の時でした。でも、会社ってなかなか辞めさせてくれないんですよ。当時の上司が優しい人でその優しさに負けて辞めることができなかったというのもあったのですが、辞めさせてほしいということはそれ以降も度々言っていました。

本当に辞めることができたのは、大きな組織替えがあって新しい上司がきたのがきっかけになりました。「俺の奴隷になるかクビになるか、どっちか選べ」と言うんですけど、こっちとしては「待ってました」です。

――著述業をやりたくて独立したわけではなかったんですね。

中谷:今も自分が「作家」だという認識がないんですよ。病院に行く時は問診票の職業欄に「作家」と書きますけど、二文字で済むからそうしているだけ。

「自分の職業は○○だ」と決めるのではなくて、したいことをして、その結果世の中が自分をどんな職業にカテゴライズするのかはお任せします、という感じですね。

本を書き始めた頃、テレビに出る機会があって、その時に肩書が必要だと言われたんです。僕は「肩書はなくていいです」と答えたんですが、それだと紹介をする時に困るから、なんでもいいので肩書が欲しい、と。なんでもいいなら、ということで僕が「“壺作り”でお願いします」と答えて、それが実際に番組で使われた記憶があります。

――中谷さんが人生に影響を受けた本がありましたら、三冊ほどご紹介いただければと思います。

中谷:まず、石原慎太郎さんの『スパルタ教育』です。これは子どもの時に読んだんですよね。自分は子どもで「教育される側」なのに。

その中に「父親は夭逝すべきである」って書いてある箇所があるんですよ。つまり父親が早くに死んだほうが子どもは強く育つと。僕はそこを読んで「なるほど」と思ったので線を引いたんだけれども、それを後で親が借りて読んだ。

二冊目は『孫子の兵法』にします。中学生くらいの時はこういう本にドキドキしていました。「やっぱり革命家にならないといけないな」と思ったりして。

最後は漫画で、本宮ひろ志さんの『男一匹ガキ大将』です。主人公の戸川万吉の何がすごいって、彼本人は別に子分なんかいらないんだけど、何百人、何千人もの子分を従えた不良少年のボスが彼の子分になるから、結果的にものすごい数の子分ができてしまう。「このやり方だな」と思いました。一人ひとり子分を集めていたらなかなか数は増えないですからね。

――最後になりますが、今後の活動について抱負をいただければと思います。

中谷:『少女椿』にしても「あんな役もするんですか?」と担当編集者が驚いていました。今後も「中谷彰宏は何をするかわからない」と思われる感じでやっていきたいと思っています。

いつも(所属しているプロダクションの)マネージャーさんには「みんなが断った仕事があったら、僕がするから持ってきて」と言っているんです。そういうものが僕の仕事になるという感覚はありますね。(インタビュー・記事/山田洋介)

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