東京国際フォーラムの自販機では、常温品の売り上げはお茶72%、水24%、コーヒー4%だった/東京・丸の内(撮影/編集部・竹下郁子)

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 額に汗を輝かせ、キンキンに冷やした飲み物にのどを鳴らすなんてもう古い。むしろ「ぬるいから、好き」という常温飲料フリークが急増中だ。

 お茶を飲んで一言。

「ぬるいけど、好き」

 女優・波瑠が出演するキリン生茶のCMだ。キャッチコピーは「常温を楽しむ」である。

 東京のオフィス街のローソン。レジ前にどーんと常温飲料コーナーが設けられていた。水やお茶はもちろん、脱水症状に効果的な経口補水液や、塩分・糖分の補給にうれしいスポーツドリンクや清涼飲料など、約20種類がずらりと並ぶ。ローソンが常温飲料の全国販売を始めたのは2013年5月。以来、売り上げは伸び、種類も売り場も拡大し続けている。冷たいものを好まない中国人観光客にも好評で、空港内店舗には広い売り場を設けている。

 常温商戦のピークは夏だ。人気を支えるのは「冷房が利きすぎたオフィスでの冷えを解消したい」という“ワーク・クール・バランス”を求める声。ほかにも「結露で資料やかばんがぬれるのが嫌」「薬やサプリが飲みやすいから」など、さまざまなニーズがある。

●男性も4割が支持

 今春から自動販売機で常温飲料の提供を始めたのは、アサヒ飲料だ。自販機での売り上げは右肩下がりで、特に女性客の減少が目立つ。そこで健康や美容に気を使う女性をメインターゲットに、水、お茶、コーヒーの常温販売に踏み切った。現在は首都圏のオフィス、病院、マンションを中心に約65台を設置しており、年内に300台まで拡大する計画だ。

 参考にしたのは、ある電機メーカーが行った自販機に関する調査だ。女性で(1)常温飲料を買ってみてもよいと答えた人は約80%、(2)夏以外にも購入したい人は約75%と、かなりの支持。男性も(1)約40%(2)約50%と意外に高率だった。

 自販機や冷蔵ケースの冷たい飲み物の温度は平均5度。一方、常温の定義は、日本薬局方では20度プラスマイナス5度、JIS(日本工業規格)では20度プラスマイナス15度。アサヒ飲料の自販機は20度に設定している。

「自販機のメリットは、店頭販売と違い厳格な温度管理ができること。今後はスポーツジムの自販機には常温スポーツドリンクを置くなど、ロケーションに適した商品展開をしていければと考えています」(開発・自販機企画部・柴田篤さん)

 人気の常温飲料だが、健康にはいいのか? 『「体を温める」と病気は必ず治る』の著書がある石原結實医師は言う。

「冷えの弊害として、夏バテ、下痢、生理痛などがあります。これらをやわらげるための理想の体温は36.5度ですが、日本人の体温はここ50年で約1度も下がっている。この状況を少しでも改善するのに、常温飲料が効果的なんです」

●運動時は冷水がベター

 ただし、運動時や熱中症、脱水症状のときは要注意と言うのは、横浜国立大学教育人間科学部の田中英登教授だ。

「すぐに水分補給して体温を下げる必要があるときは、常温の20度より冷やした5度のほうが腸での吸収率が良く効率的です。ただ、まずは水分量を確保することが大切なので、冷たいものが飲みにくいと思ったら無理する必要はありません」

 日常生活では、ある程度温度の高い飲み物でも、汗をかくことで体温の上昇を抑えることが可能だという。

 腸での吸収率が高いのは、水やスポーツドリンク。お茶も水と同じくらい吸収がよいが、利尿作用があることも忘れずに。

「1日に必要な水分量は1.5〜2リットルと言われますが、もともと食事で1リットルとれ、基礎代謝で800ミリリットルの水分が体内でつくられます。あまり汗をかかないオフィスワーカーの場合、1日3食とって、午前と午後にそれぞれ500ミリリットルずつ水分補給すれば十分でしょう」(田中教授)

 中身や量もさることながら、容器にも要注意だ。魔法びんのサーモスが13年に行った調査では、夏の水分補給は約6割がペットボトル・缶飲料からだった。国民生活センターの別の調査では、ペットボトルには口をつけて飲むと答えた人が7割を超えた。実はこのいったん栓を開けたペットボトル飲料が曲者だ。

 国民生活センターは、ナチュラルミネラルウォーター、緑茶、スポーツドリンクなどのペットボトル飲料を対象に、手や口腔内などからの汚染が予想される細菌を5度、20度、30度の3段階の温度で培養し、1〜2日後の経過を観察した。

 すると手などから汚染する大腸菌は、水やスポーツドリンクではほとんど変化がないのに対し、緑茶では1日後に20度で881倍、30度で1千倍に急増した。緑茶は中性に近いため菌が増殖しやすいのだという。一方、口腔内の常在菌で口内炎を引き起こすカンジダアルビカンスは、温度が高いとどの飲料でも増殖した。

●サーバーの水も要注意

 食品などから汚染する黄色ブドウ球菌のように、温度が高いほど経過時間とともに減少するケースもあった。総じて言えるのは、5度で保存したときには菌数はほとんど変化しないか、減少する傾向があったことだ。

 ここから得られる教訓は「宵越しの常温は持たない」。飲み残しは冷蔵保存し、早めに飲んだほうがよいだろう。気温30度の炎天下でペットボトル飲料を持ち歩いた場合、1時間後には20度、5時間後にはほぼ30度まで温度が上昇することも覚えておきたい。

 同様に注意が必要なのが、ウォーターサーバーだ。麻布大学生命・環境科学部の古畑勝則教授が、家庭や事務所などで使用中のサーバーの水140検体を調査した結果、30%から水道水の基準を超える一般細菌が検出された。従属栄養細菌(エネルギーの供給を他者に依存する細菌)では、73%が厚生労働省が定める目標値を上回っていた。これらの細菌は健康な人には影響がないとはいえ、古畑教授はこう指摘する。

「ミネラルウォーター自体は食品衛生法の基準がありますが、サーバーを通して出てくる水には何の基準もないのです。水を冷蔵保存するタイプのサーバーからは細菌が検出されなかったので、気になる人は購入時に確認するとよいでしょう」

(編集部・竹下郁子)

AERA 2016年8月1日号