写真提供:マイナビニュース

写真拡大

Android Oneとは
ワイモバイルが7月5日、「Android One」を搭載したスマートフォン「507SH」を発売することを発表した。元々新興国向けのプログラムだったAndroid Oneを、ワイモバイルが採用して端末開発するにまで至った理由は、一体どこにあるのだろうか。そしてAndroid Oneの導入で、スマートフォンの価格は大きく変わるのだろうか。

○そもそもAndroid Oneとは?

1GBのデータ通信と、10分間限定の音声通話300回分が付いて、月額2,980円から利用できる「スマホプランS」や、iPhone 5sの販売などによって、ここ最近急速に人気を高めているのが、ソフトバンクがサブブランドで展開しているワイモバイルだ。

ワイモバイルは分かりやすい料金に加え、音声通話に強みを持つこと、そして全国にワイモバイルショップを構えている安心感などもあって、ワイモバイルは価格とサービス品質にこだわるフィーチャーフォンからの乗り換えユーザーなどを獲得。1,000円を切る価格でサービスを提供するMVNOが急増する中にありながらも強みを発揮している。

そのワイモバイルが7月5日に新戦略として打ち出したのが、グーグルが提供する「Android One」を採用したことである。実際ワイモバイルは、Android Oneを採用した日本初のスマートフォン「507SH」を、グーグル、シャープと共に開発。7月29日に発売するとしている。

だがそもそも、日本ではそもそもAndroid One自体に馴染みが薄く、OSとしての「Android」と何が違うのか、わからない人も多いのではないだろうか。そこでまずは、Android Oneについて簡単に解説しておこう。

Android Oneは、グーグルがさまざまなスマートフォンメーカーと協力し、最新のAndroid OSが利用できるスマートフォンを開発するためのプログラムである。それゆえAndroid Oneを採用したスマートフォンは、発売より18カ月間、最低1回はAndroidのメジャーアップデートが保証されているほか、セキュリティに関するアップデートも毎月実施されるという。

Android OneとNexusシリーズとの違いは、グーグルが関与する度合いの違いにある。NexusシリーズはOSからソフト、さらにはハードに至るまで、あらゆる部分でグーグルが大きく関与して開発されている。だがAndroid OneはOSのアップデート保証など条件はあるものの、それさえ守っていればハードやアプリなどでメーカー独自の機能を追加することも可能であるなど、メーカーの独自性を打ち出す余地がやや大きい。

実際507SHも、防水・防塵性能が備わっているほか、ワンセグも利用できるようになっているなど、いわゆる“日本仕様”のいくつかが搭載されている。おサイフケータイだけは、OSのアップデートを保証する上での技術的理由から搭載できなかったとのことだが、Nexusシリーズにはない独自性が打ち出されていることが分かる。

Android One誕生の背景
○ワイモバイルはなぜAndroid Oneを採用したのか

そもそもAndroid Oneが生まれた背景には、最近グーグルを悩ませている、OSの分断化の問題があったといえるだろう。

AndroidはiOSと異なり、グーグルはOSを提供するのみで、実際のハードを開発するのはサムスン電子やソニーモバイルコミュニケーションズなどの端末メーカーである。そうした水平分業化が多彩なハードを生み出したとともに、新興国のユーザーも購入できる低価格スマートフォンを増やし、スマートフォンの大衆化を進めた大きな要因となり、Androidの強みの1つとなっているのは確かだ。

だが一方で、グーグルがハードに関与する度合いが小さいことから、iOSのようにOSのアップデートを管理しきれず、新しいOSにアップデートできないAndroidスマートフォンや、それを利用し続けるユーザーが増加。結果的に最新OSの普及が進まず、セキュリティ面で問題を引き起こしたり、新OSの利用を前提とした新しいサービスが広まらなかったりするなど、さまざまな問題をもたらしている。

特に低価格のスマートフォンは、最低限のハード性能で開発されることが多いため、発売時点のOSのバージョンで使い続けることを前提に設計されていたりすることも多かった。そうしたことからグーグルは、主として新興国向けの低価格端末を開発するメーカーに向け、最初からOSのアップデートを保証するAndroid Oneのプログラムを提供することになったわけだ。

その新興国のメーカー向けプログラムであるAndroid Oneを、ワイモバイルがあえて日本で採用した理由は2つあると考えられる。1つはやはり、OSの分断化に対処する狙いだ。

実は日本で発売される、日本メーカー製Androidスマートフォンの多くも、OSのアップデートがあまりなされないことが多い。その理由はハード性能ではなく、主にメーカーが独自に搭載している機能やアプリの動作を、新しいバージョンのOSで検証するのに時間や手間がかかってしまうため。日本ではキャリアが中心となってハード・ソフト両面で独自の機能を追加することが多く、それがOSアップデートの妨げとなってしまっているのだ。

そうしたことからワイモバイルは、ある程度日本で必要とされる機能を搭載しながらも、OSのアップデートを可能にし、長期的に利用できる端末を開発・提供するため、Android Oneを取り入れたと考えられる。ワイモバイルは今後も継続的にAndroid One端末を投入するとのことで、今後Android One搭載端末の投入を主軸としていくことが分かる。

●ワイモバイルの狙いは?
Android Oneを採用しても端末は安くならない

そしてもう1つの理由はブランディングだ。実際、ソフトバンクの執行役員で、ワイモバイル事業推進本部本部長である寺尾洋幸氏は、「Android OneをiPhoneに並ぶ主力ブランドに育てていきたい」と話しており、Android Oneをブランドとしても活用していく考えを示している。

実はソフトバンク、ひいてはワイモバイルとグーグルの関係は意外と深い。2013年にワイモバイルの前身の1つであるイー・モバイル(イー・アクセス)が、グーグルの「Nexus 5」を販売し、これがヒットして以降、歴代のNexusシリーズのスマートフォンをワイモバイルやソフトバンクで販売するなど、協力関係にある。

そうしたことからソフトバンクとグーグルとの関係の強さを打ち出すべく、あえてAndroid Oneを前面に出す戦略に出たといえよう。Android Oneのブランドを前面に押し出すことで、ソフトバンクとグーグルという大きな企業が関わっている安心感を打ち出すのが大きな狙いとなっているわけだ。

一方で、これまで新興国向けであったAndroid Oneを採用したからといって、端末価格が劇的に安くなるわけではない。507SHはボディデザインやスペックを見る限り、auの「AQUOS U」をベースに開発されたミドルクラスの端末となるが、価格は一括で51,840円、MNPで12,960円。総務省の施策の影響で実質0円での販売ができないとはいえ、日本仕様を取り入れていることなどもあってか、劇的に安いわけではないことが分かる。

それだけに、最近増えている海外メーカーのSIMフリースマートフォンなどと比べると、価格面での競争力はあまり高いとはいえない。それでもなお、ワイモバイルがAndroid Oneを採用したのには、価格を重視することよりも、防水やワンセグなど馴染みのある機能を備え、なおかつOSのアップデートにも対応する、安心感をユーザーに与える狙いが大きかったといえるだろう。

MVNOのサービスやSIMフリースマートフォンは、価格は安いもののサポート面などが弱く、安心感の面ではいまいちだという声も多い。また先に触れた通り、ワイモバイルの人気には、適度な価格で安心感のあるサービスやサポートを提供していることが大きく影響している。それだけにワイモバイルはAndroid Oneの導入で安心感を追求し、MVNO同士の価格競争とは一線を画したい考えがあるといえそうだ。

(佐野正弘)