理想的な結婚を適齢期にした沙織、32歳。

誠実で、外見も稼ぎも良い夫と安定した結婚生活を送り、3年になる。

今回は、離婚と再婚を繰り返す友人の結婚式に出席する。そこで目の当たりにした光景とは?

前回 vol.12:金しか取柄のない外銀マンを夫に選んだ女。その理由はまさかの…?




勝ち組CAの女友達の結婚式出席に悩む理由


今回の結婚式ばかりは、出席しようか相当悩んだ。というのも、理香は結婚式を挙げるのが3回目なのだ。

2度ならまだ分かる。しかし3度目にして、またしてもそれなりの規模で結婚式と披露宴を開催するというのは、いささか理解に苦しむ。

理香はCAをしている。近年東京恋愛市場でCAの市場価値は下がったなどと言われているが、その上位数パーセントに位置する女たちは相変わらず勝ち組のようだ。

彼女が何より人目を惹くのは、真珠のように艶やかで真っ白い肌だ。さらに長身であるにも関わらず、骨格が細く華奢な身体つきをしている。顔は取り立てて派手ではないが、高度なメイク技術と上品な仕草、そして高く柔らかい声色は昔から多くの男たちを魅了していた。

加えて、理香は少し天然、というか若干頭の弱い女だ。そんなところも男たちの好むところなのだと思う。今回の結婚式にしても、満面の笑みを浮かべて某外資系ホテルで結婚式を挙げることになったと報告されたのだ。

「あのホテルは新しいから、結婚式に参加したことがある人もまだ少ないでしょう。お料理も一番グレードの高いのを選んだのよ。みんな楽しみにしていてね。」

このタイプの女は、3度目の結婚式にまさか周囲の者たちがウンザリしているなどという発想がない。「結婚式=誰もが手を挙げて出席したいもの」と信じているのだ。裏を返せば、素直で性格の良い女なのである。

理香との付き合いは長く、未だに定期的に開催される女子会のコアメンバーだ。招待されてしまえば、よっぽどの理由がない限り断るのは憚られる。

「あんたはまだヒマだからいいじゃない。私は週に二日しかない貴重な休みを潰されるんだからね。」

朋子は相変わらず憎まれ口を叩いたが、結局私たちは揃って出席することになった。何だかんだ言いながら、女たちは義理堅いのだ。


同じ友人の3度目の結婚式。そこで感じた嫌な予感とは…?


3度目の結婚式を挙げる女。歴代の夫たちはどんな人物?


理香の1人目の夫は学生時代から付き合っていた同い年の広告代理店の男、2人目は3つばかり年上の外銀マンだった。どちらも「接待という名の夜遊び」が仕事の一部という種の男だ。彼らは定期的に家を留守にするCAという理香の職業を存分に利用し、夜遊びが一線を越えてしまったことが何度かあったらしい。

理香はもちろん我慢できずに、不仲が続き離婚に至った。2度も同じ失敗を繰り返した彼女だが、男性不信になど陥らずにサッサと見つけた3人目の夫は経営者だそうだ。単純に、理香はモテる女なのだ。

「全員初婚だっていうのが凄いわよねぇ。結婚したくてもできない女が溢れてるっていうのに。」

朋子が遠い目をして呟いた。私は、本当にその通りね、というセリフが喉まで出かかって飲み込んだ。

―離婚した女って、案外モテるのよ。ふふふ。

以前、そう理香に耳元で囁かれたのを思い出す。悪戯っぽく微笑む彼女は、確かに低い声で愚痴る朋子よりずっと可愛らしかった。私が男でも、きっと理香を選ぶだろう。




結婚式で毒づく独身女に感じた、嫌な予感


チャペルに入場した新郎は、真ん丸に太った背の低い男だった。元夫たちは中々の好青年だったのを、つい思い出してしまう。

「あら、今回は顔で選ぶのはやめたのね。理香も学んだじゃない。」

声を全く潜めずに朋子が言った。肘で小突くと、「何よ、3回目なんだから緊張感もないでしょ。」と屁理屈を言う。つくづくよく喋る女だと感心する一方、やはり未婚の女に3度目の結婚式は流石にキツいのかもしれないと思った。

続いて入場した理香は柔らかなシフォン素材のウェディングを身に纏い、相変わらず白い肌が一層輝いていて素晴らしく可愛かった。満面の笑みは天使のようで、私もつい笑顔になってしまう。3度目の結婚式だなんて信じられないほど、理香はあまりに初々しい花嫁オーラを身に纏っていた。

そのとき朋子は、普段の上から人を小馬鹿にする態度とは少し違う、傷ついたような表情を一瞬見せた。そしてあまり喋らなくなったので、私は嫌な予感がしていた。


「やばい」と察知したときには手遅れだった、朋子の崩壊


理香の宣言通り、披露宴も素晴らしかった。料理のグレードも会場のセンスも抜群だ。初めは新郎の外見が若干不釣り合いに思えたものの、彼は性格の良さそうな男だった。新郎新婦は始終幸せそうな笑顔を浮かべており、二人の愛情がよく伝わってくる。

三度目の正直で、きっと理香は本物の幸せを掴んだのだろうと思った。

余興はCAたちによる動画だった。理香の同期の女たちが制服を着て踊っている。これを観るのも既に3度目だ。前回と前々回との違いが全く分からずに少しシラけた気分になったが、出席者の男たちは色めき立った様子で鼻の下を伸ばしているように見える。皆、やはり制服には憧れがあるのだろうか。

そんなどうでもいいことを考えているときだった。

「シャンパンお代わり。すぐなくなっちゃうから、ギリギリまで注いでください。」

突然に、私は「やばい」と危険を察知した。朋子が酔い始めていたのだ。

ウェイターを呼び止める声は乱暴で、目が座っている。あと少し我慢してくれと願ったが、朋子は理香が両親への手紙を読んでいる最中に大泣きをした。声こそ我慢していたが、ヒックヒックと体が大きく揺れていた。

朋子を知らぬ他人の目には、花嫁の3度目の両親への手紙で涙を流す友人として、相当なお人好しに見えたかもしれない。しかし勿論それは違う。

やはり30歳を超えた独身の女が、同じ女の結婚式を3回も祝うなど、きっと拷問に近いものがあったのだ。酔いが回ったことで、朋子の心は折れてしまった。普段は強気な彼女の心境を思うと胸が痛くなった。

私は朋子の肩を抱き、何とか彼女が爆発してしまわないようにフォローした。披露宴は無事終わったが、二次会はパスして二人で飲むことにした。


朋子の心が折れてしまった理由は…?




誰もが手放しで人の幸せを祝えるわけではない。女友達への配慮は重要


「何であんな馬鹿そうにヘラヘラした女が何度も結婚できて、私はフラれるのよ。冗談じゃないわよ!」

私の自宅に移動し、引菓子をやけ食いで頬張りながら朋子はいつまでも涙と鼻水を垂れ流していた。顔はすでにパンパンに浮腫んでいる。自慢のエミリオ・プッチのドレスも台無しだ。

話によると、数日前に社内の年下の恋人に「朋子さんは強いから、自分は必要ない」という月並みなセリフで別れを告げられたらしい。

「でも、よく頑張ったじゃない。エラいわよ。朋子はあんなチビデブじゃなくて、妥協しないでイイ男と結婚して幸せになるのよ。」

本音だった。そう言うと、朋子はさらに声を上げて泣き、私に抱きつきワインを一気に飲み干した。

このご時世、次から次へと3度もプロポーズされる女など中々いない。しかしそれ故に、恋愛に苦戦する30過ぎの女の苦悩も理香には分からないのだろう。

彼女に罪があるとまでは言えないが、独身の女友達を3度も自分の結婚式に呼ぶなど、やはり少々頭の悪い女だと再確認した。誰もが手放しで人の幸せを祝えるわけではない。

他にも独身の女たちはいたし、いくらでも配慮の仕方はあったはずだ。結婚式において、女友達への配慮は最重要事項だと思う。

何と言っても辛いときに支えになるのは、やはり女友達なのだから。

【今日の推定結婚式明細】(最高5つ星)
総額:¥5,515,000

ドレス:¥450,000 (★★★★)
飲食代単価:¥2,720,000=単価¥32,000×85人 (★★★★★)
ウェディングケーキ:¥127,500 (★★★★)
装花:¥440,000 (★★★★)
引出物:¥467,500=¥5,500×85人 (★★★)
司会:¥80,000 (★★★)
会場(挙式料、室料、会場装飾・演出、音響照明、ペーパーアイテム、介添え料、お色直し美容費、メイク・ヘアリハーサル含む):¥1,230,000 (★★★★)
余興:(★★)
センス:(★★★★)

【指輪】
婚約指輪:¥1,400,000(★★★★)
結婚指輪:¥450,000(★★★★)