「ポケモンGO」のヒットは、任天堂を救いはしない

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社会現象ともなったスマホゲーム「Pokémon Go」(ポケモンGO)。しかしそのヒットは、必ずしも任天堂の苦難を救うものではない。

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「Pokémon Go」(ポケモンGO)は史上最も成功したモバイルゲームのひとつだといえるだろう。しかし、任天堂が抱える問題を解決するものだと誤解してはいけない。

このモバイルアプリで、プレイヤーは外に出かけて、うろつき回りながら仮想のモンスターを捕まえコレクションする。App Storeのランキング第1位に、ゲーム史上最速で躍り出た。ある時点においては、1日あたりのアクティヴユーザー数が『キャンディ・クラッシュ・サーガ』よりも多く、つまり米国国内で史上最も多くプレイされたゲームとなった。

ポケモンGOは、任天堂がつくったわけではない

任天堂はかつて、ゲームボーイとニンテンドーDSでポータブルゲーム市場を手中に収めた。市場を創造したといってもいい。しかし、スマートフォンとモバイルゲームの隆盛によって、それらの製品に対する世間の関心は薄れていった。

この傾向は同社の資産価値についても同じだったが、(短期間ではあるが)ポケモンGOはこの流れを逆転させた、7月6日の米国でのリリース以降、任天堂の株価は2倍以上、32,000円を超えた。これは広く成功を収めたWiiリモコン以来見られなかった数字で、ソニーの時価総額を上回りさえした。

しかし、任天堂の株価は上昇したときと同じくらいのスピードで、同じ週の水曜日には13パーセントも急下降した。

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この乱高下の原因は、一部の投資家の無分別な資金投入に見出すことができる。つまり、任天堂がポケモンGOを配信しているわけではない、ということだ。配信元はNiantic Inc.(ナイアンティック)であり、任天堂の関連会社である株式会社ポケモンは、ライセンス料と開発運営協力に伴う対価を受け取ることになっている。よって、確実にそのゲームでいくらかは稼いでいるわけだが、実際にいくら稼いでいるのかは誰も知らない。さらにいえば、任天堂が開発したわけではないから、任天堂の経営方針が「ハマった」わけではない。

ポケモンGOは、任天堂とファンの間にある深い溝を代弁している

わたしはこれまで、任天堂のファンは「Wii」の空前の成功(2006年)と「Wii U」の同じくらい空前の失敗(2012年)の間に、モバイルに移行してしまったのだと言ってきた。

とはいえ、任天堂が「モバイルに進出するべきだった」という多数派の意見には賛同しない。彼らの意見の多くは「スーパーマリオブラザース」などの懐かしいゲームをApp Storeに移植することを意味したが、こうした動きは短期的にみて金銭的カンフル剤になりこそすれ、長期的メリットにはつながらない。こうした古いゲームは、特定のデヴァイス専用につくられたゲームほどには面白くないものだからだ。

任天堂がするべきだったのは、消費者がどんどん慣れていったという事実を受け入れることだった。現実に適応することを拒んだがために、同社は「3DS」やWii Uといった古くさいデヴァイスを生み出した。ポケモンGOの常識外れの成功は、その現実を浮き彫りにする。任天堂のライセンスにもとづいたこの無料のモバイルゲームは、最近の10年では最も成功した「任天堂関連製品」だ。

とはいえ、この成功は、任天堂が開拓できていなかった顧客が想像よりはるかに大きいという潜在的な可能性を証明するものでもある。ポケモンGOは任天堂のゲームではないが、それをプレイしている誰もが、任天堂製品を購入しうる、眠れる顧客なのだ。

眠れる顧客を満足させる任天堂製品はどこにあるだろう?

任天堂は、ユニバーサル・スタジオのアトラクション(マリオをテーマにしている)に大規模な投資を行っている。ユニバーサル・スタジオは先日、大阪にある「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」(USJ)のハリー・ポッターアトラクションよりも多額の資金を、そのプロジェクトにつぎ込むと発表した。また、任天堂はライセンス商品を長編映画にするため、映画部門を立ち上げようとしている。

そのほかにも、大々的に宣伝されている「NES Classic Edition」も注目すべきだろう。1980年代の30点のメガヒットゲームを備え、価格は60ドルだ。NESクラシックは現実に対する「降伏」であり、「任天堂は自社の古いゲームをモバイルに放出するべきだ」という声への答えである。任天堂は買い手がいるところ(例えば小売店の「アーバン・アウトフィッターズ」で手頃なプレゼントを買っている人たち)にゲームを供給するわけだ。つまり彼らは、プライドを隠して新しいことに挑戦しようとしている。

もちろん、ほんとうのキーアイテムは、秘密裏に進む「NX」に特化されたゲームプラットフォームだ。最近「ジャストダンス」シリーズ(2009年から展開されている「欧米で最も成功した」Wii向けサードパーティ製ゲーム)をNXに導入することを発表したユービーアイソフトのCEO・イヴ・ギユモは、この任天堂の次世代プラットフォームを見て、「業界にはるかに多くのカジュアルプレイヤーを連れ戻す」だろうと述べている。

任天堂はこのスマホ時代に、ハードウェア専用ゲームで成功できるか?

おそらく、NXは、ある程度は成功するのだろう。しかし、失敗したなら任天堂は大きな困難に直面する。

任天堂独自アプリの「Miitomo」は(リリース直後には大成功をおさめるように思えたが)コケた。シミュレーションRPGシリーズ「ファイアーエムブレム」や、魅力的なキャラクターを用いたシミュレーションゲーム「とびだせ どうぶつの森」のモバイルヴァーションも開発されているが、それらが成功する保証はない。

ポケモンGOの顕著な成功は、任天堂の保守的な経営陣を確実に覚醒させ、モバイルゲームの可能性に目を向けさせた。しかしだからと言って、任天堂が一夜にしてモバイルソフトウェア制作の達人になるわけではない。

※ 一部ゲームタイトルの誤りを修正[2016/07/25 16:45]