現時点でのVR映画の最高傑作は『Allumette』──2016年トライベッカ映画祭より

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VRアニメスタジオPenroseが制作したVRフィルム『Allumette』が、2016年5月に開催されたトライベッカ映画祭で大きな注目を集めた。その新たなる「VRの世界」に描かれた制作舞台裏を、同社CEOらに訊いた。

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VR映画『Allumette』を観始めて5分もしないうちに、VR映像スタジオ・Penroseの革新的なVRプロジェクトがいったい何なのかを実感した。

精巧な列車の模型が躍動し、3Dのオブジェクトとして目の前に浮かんでいる。この複雑な世界にはストップモーションのキャラクターたちが住んでおり、それらはすべてコンピューターで制作されているが、石造りの建物がもつ本物のような質感から人物の描写まで、デジタル3Dモデルには生命が吹き込まれているようだ。

この作品を観る人は、単なる「鑑賞者」ではない

『Allumette』は「位置トラッキングVRヘッドセット」での観賞用として制作されている。登場するキャラクター、あるいは小さな橋のある方向に頭を向けると、それらが近づいてくる。主人公を全方向から見られるし、らせん階段の近くから少女の後を追うこともできる。ミニスケールのヴェニスのような街の一角を歩き、好きな角度から景色を楽しんだり、X線画像のような透過した世界に入り込む。壁や窓にアタマを突っ込んで、重要なストーリーの内幕を垣間見れるというわけだ。

作品のなかに入り込むと、アンデルセンの童話「マッチ売りの少女」をもとにした胸が張り裂けそうなストーリー展開が待っていて、観ている者は自分がまるで映画監督であるように感じられる。

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観る人を惹きつける魔力

『Allumette』の鑑賞時間は、約20分間だ。顔にコンピューターを装着したまま長時間過ごすと一息入れたくもなるだろうが、むしろ作品の世界から離れたくなくなる。いったん現実世界に戻っても、また観たくなってしまう。

描かれた世界観が非常に美しいというのも、その理由のひとつだ。しかし、もっとも大きな理由は、この閉ざされたヴァーチャルな街で起きるすべてを見逃したくないと思わされることにある。VRの世界を体現する「没頭」という言葉がぴったり当てはまる。

オキュラス「Oculus Rift」やHTC「Vive」のようなVRシステムは、サムスン「GearVR」やグーグル「Cardboard」のようなスマートフォンシステムにはない、「位置トラッキング技術」を搭載している。こうした新しく強力なヘッドセットを使って、VRのなかで体を傾けたり、そして実際に歩いてみたりすることによってヴァーチャルな世界を探検することができる。

『Allumette』は、ゲーム以外でこうしたVR技術を巧妙に用いて「ストーリーテリング」を展開した最も素晴らしい例だ。

「前後・上下・左右といった自由度、6DoF(Six degrees of freedom)には無限の可能性があります」とPenroseのCEOで、『Allumette』の脚本監督を務めたユージーン・チュンは言う。「わたしたちが存在するこの現実世界に非常に多くの概念を加えていく。それはいろいろな意味でVRの究極の目的になっています。このVRという領域でどう動き、どう考えるか。Allumetteは『VRの本質』を考える作品でもあるのです」

VRの本質を考えることは、ある種のチャレンジだといえる。なぜなら、このVR体験を構築するための既存ツールがないからだ。トライベッカ映画祭に参加した多くのVRクリエイターによって、今年「Experiential Storytelling」部門の一部としていくつかVR映画が発表されたが、クリエイターが自身のプロジェクトをつくるための専用ツールを構築する必要性を挙げた。

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分かっているつもりで、分かっていないこと

Penroseチームは、これまでの経験と手腕に完全には頼ることができなかったという。CEOのチュンとテクニカル・ディレクターのジミー・メイデンは、PixarやDreamworks、Oculus Story Studiosなどで以前一緒に働いていたことがある。映画や舞台パフォーマンス、双方向ゲームの特徴を融合させる取り組みが進む一方で、優れたVRプロジェクトの理想とするスキルは単純にこれらを組み合わせればよいというものではなかった。

「映画をつくるためのこれまでのツールをそのまま流用するだけではダメなのです」とメイデンは言う。「ヴィデオゲーム1つとっても、すべて2D画面用につくられています。他領域のツールを使うのではなく、VR用に開発した専用ツールを使う必要があって、わたしたちはそれに挑戦しています。自分自身が分かっていると思う以上に何もわかっていないということを、積極的に認めて理解する必要があります。まだちゃんとわかっていないから、もう一度、どうやってやろうか考えよう!とね」

『Allumette』という作品は、走りながら手探りで学びを繰り返している。どう作品と向き合うか、手引きも案内もないのだ。ただ作品のなかに自分自身を見つけ、そこであちこち首を突っ込み動いてみて、何が起きているか見て回る。1回ではフルの体験を得ることはできなかったが、このプロジェクトでもViveコントローラやOculus TouchのようなVR専用インプットデヴァイスを開発している。これによって観る人は作品自体を身をもって体験できる。

RiftやViveといった高級なシステムがVRプロジェクトを拡張するなか、スマートフォンプラットフォームがまもなくそのギャップを埋めるとチュンは考えている。彼によると、今年の後半にもRiftやVive、そして近く登場するソニー「PlayStation VR」などすべての位置トラッキングヘッドセットで利用できるようになるという(モバイル端末もまもなくサポートされるかもしれない)。

「どうやってコンピューターで十分な『ヴィジョン』を手に入れるか。ViveやRiftが搭載する位置追跡テクノロジーやマーカーといったものがなくても、それが現実のものとなるでしょう」とチェンは語る。「この技術はまだ完全な精度ではありませんが、それを実現するための多くの興味深い挑戦が現場で行われています。わたしは乗り越えることができると思っています」

制作を手がけたPenroseのメンバーらへのインタヴューヴィデオ。