NHK 大河ドラマ「真田丸」(作:三谷幸喜/毎週日曜 総合テレビ午後8時 BSプレミアム 午後6時)
7月17日放送 第28回「受難」 演出:土井祥平


秀次の悲劇


秀次(新納慎也)が関白の座を放棄して、大坂城へきり(長澤まさみ)を訪ねてやってきた。
きりに叱咤され「うっとおしい」と言ってしまう秀次。だが、きりは「はい わたしはどこへ行ってもうっとうしがられます」と開き直る。
秀次が消えた聚楽第はパニック。信繁(堺雅人)は刑部(片岡愛之助)に報告しに伏見城へ向かう。
そこでは、信幸(大泉洋)が昌幸(草刈正雄)から城の普請を押しつけられていた。
信幸は、信繁に気を遣われて官位をもらったことが不満。父からも弟からもないがしろにされ真田家の長男としての立場がないと苛立つ信幸と、秀吉(小日向文世)から必要とされていないと疑心暗鬼に陥っている秀次が一瞬、気持ちを通わせる場面が28回の前半部分のハイライトだ。
高野山に逃げ込んだ秀次は「生まれ変わったら、もう2度と叔父上の甥にはなりたくない」と言う。
それを受けて信幸は「殿下とは比べものになりませぬが わたくしもふりまわされて今日までやってまいりました。あまりに大き過ぎる父、わたしの声だけがなぜか聞こえぬ祖母、病がちなのかどうかよくわからない最初の妻、決して心を開かぬ二度目の妻、そしてあまりにおそろしい舅・・・」と見事に客観的に自分を語る。
「それは難儀であったのう」と秀次。思いを共有するふたり。外は黄昏。
振り回される相手として、自分の話だけして信幸の話を聞かずに行ってしまうことが何度かある弟・信繁の名まえは出ない。

その弟が来ることが勘で分かる信幸に「良き兄弟だな」と秀次。そんな会話のおかげか、信幸は官位を返すのを留まり、弟にも心を再び開く。秀次、亡くなる前にいいことをしたといえるのではないだろうか。
信幸は悪い方向へ行かずに済んだが、秀次は結局、悪い思い込みに取り込まれてしまう。自害した秀次を見つめる大泉洋の表情が悲しみを増幅させた。
大泉洋の表情といえば、母・薫(高畑淳子)が公家の出であることがどうやら嘘らしいことが判明した時も傑作だった。

それにしても、なぜ、この回で、まさかの薫の出自の嘘を描くのか・・・。それは後々思いがけないところに共振していくが、とりあえず、この流れで感じたのは、「あまりに大き過ぎる父、わたしの声だけがなぜか聞こえぬ祖母、病がちなのかどうかよくわからない最初の妻、 決して心を開かぬ二度目の妻、そしてあまりにおそろしい舅・・・」さらに「出来すぎた弟、公家の出と嘘をつく母、それを家康に知らせようとする稲、それを止めるこう」と信幸の苦労はますます絶えそうにないということだった。

秀吉VS信繁


28回の後半は秀吉のターン。秀次が自害したことを知って、激怒。
秀吉「わしを怒らせたらどんなに怖いか孫七郎に見せてやる」
寧「あの子はもう死にました」 
うーん悲しい・・・。
そして秀吉は落書き事件(20回)の時と同じく、秀次の関係者を皆殺しにしてしまう。

唯一隠し部屋に隠れていた、たか(岸井ゆきの)を「からくり屋敷には慣れておりますもので」と信繁が救う。秀吉との駆け引きも、堺雅人VS 小日向文世の演技が炸裂、28回の見どころのひとつになった。
秀次を思って泣いてる秀吉のもとに、信繁がやってきて、刑部の娘・春(松岡茉優)を嫁にもらう代わりにたかを側室にさせてほしいと頼む。
「ならぬ!」と厳しい秀吉の言葉にかぶせるように「どうか!」と食い下がる信繁。目がうるうるの秀吉から目をそらさない信繁。この「ならぬ」「どうか」のタイミングが最高。編集ではなく、実際堺が食い気味に台詞を発したんじゃないだろうか。

秀吉「まことにその娘と思いおうとるのか?」
信繁「刑部様のご息女と一生手をとりあって生きていくつもりでございます」
涙ひとすじぽたり、そして、笑顔にたり。そして「おまえもすみにおけんな 男子ができたら殺せとはいわん、すぐに仏門にいれろ」と言う秀吉。交わされる言葉と平行して語られていない言葉がその場を支配している。ああ、なんて劇的なんだろう。
言葉と裏腹なのは、きりも同じ。「冷や汗ものね」と秀次からもたらされたマリア様の絵をみながら泣く。
秀次がきりを側室にするのをやめたのは、きりを巻き込みたくなかったのからだった。
「あの方は決して愚かな人ではなかった」と信繁。そこにも夕日が・・・。
でもきりに関してはシリアスで終わらせない。「追い打ちをかけるようですまんが」と切り出す信繁。
きり「ふたり? なにそれ」
たか「そういうことと合いなりました」
きり呆然
「なによーー」
大坂城にきりの叫びが響く。

夕日と嘘


悲劇と喜劇がからまりあいながら、いよいよ28回の最大のハイライトへーー。呂宋助左衛門(松本幸四郎)の見せ場だ。彼と大河ドラマ「黄金の日日」は近藤正高さんの熱いレビューをご覧いただくとして、28回で描かれた夕日と嘘が呂宋助左衛門のターンで最大の力を発揮する。

「夕日」は、彼が登場前に黄金に輝く「夕日」が映った。そして「嘘」は、ルソンではただ同然の代物を日本の大名たちに高値で売りつけるある種の「嘘」を助左衛門は行っていて、それを彼は「戦い」と言う。
大好きな過去の大河ドラマの登場人物を出すために、全体のバランスを考え抜いた構成だなあと思う。
きっと薫も公家の出と嘘をつきながら生き抜いてきたのだろう。
夕暮れ、人生の黄昏を感じる時間。でも、夕日が地平線に落ちた後にはマジックアワー(人生で最も輝く時間)が現れることを「ザ・マジックアワー」(08年)を撮った三谷幸喜は知っている。

どうでもいいけど、堺の商人って書いてあると堺雅人と空目してしまいます。
(木俣冬)