■連載/Londonトレンド通信

 サンダンス映画祭がロンドンに帰ってきた。

 サンダンス映画祭は、毎年1月に開催されるアメリカ最大級のインディペンデント映画祭。主催者ロバート・レッドフォードの代表作『明日に向って撃て!』での役名サンダンス・キッズから命名されている。

 古くはコーエン兄弟のデビュー作『ブラッド・シンプル』が審査員大賞を受賞、近年ではジェニファー・ローレンスの出世作ともなった『ウィンター・ボーン』が初お披露目されたのもこの映画祭と、ここから世に出た秀作も少なくない。

 その映画に音楽イベントを加えた「サンダンス・ロンドン・フィルム&ミュージック・フェスティバル」は、2012年から6月に開催されてきた。それが昨年のお休みを経てリニューアル。グリニッジのO2アリーナからウェスト・エンドのピクチャーハウス・セントラルに会場を移し、映画のみに絞った「サンダンス映画祭ロンドン」となった。

 新会場、新名称での第一弾となる今回から、衝撃の4本をご紹介したい。

『The Greasy Strangler』はイライジャ・ウッドがプロデュースした衝撃の珍品。

Courtesy of Sundance Institute
Courtesy of Sundance Institute

 直訳すると「油っぽい絞殺魔」となるタイトル通り、油まみれのコメディーホラー。2人暮らしの父子、中年の息子が運ぶ食事に「もっと油を!」、異常に油を欲する老人が食すのは油絡めベーコン、油浸しホットドッグ、油がけグレープフルーツ! その食以上に気色悪いのが、父と息子の間に1人の女性が割り込んでの三角関係。殺人シーンより、ロマンスシーンの方がおぞましいほどだ。

 だが、悪趣味な映画というだけでは片付けられない何かがある。その証拠に、この映画をサポートした勇気あるプロデューサーはイライジャ・ウッドだけではなかった。イギリスでのカルト人気がワールドワイドになりつつあるベン・ウィートリー監督なども名を連ねている。

 ウィートリー監督は『ハイ・ライズ』が8月公開予定。今をときめくトム・ヒドルストンを主演にシエナ・ミラー、ジェレミー・アイアンズなどスターを配し見所の多い『ハイ・ライズ』だが、もっと小粒の『キル・リスト』や『サイトシアーズ』の方がウィートリー監督の個性がダイレクトに感じられる。

 同様に、もしホスキング監督が成功して大きな映画を撮るようになっても「『The Greasy Strangler』の方が個性が強烈に出ている」と言うことになるかもしれない。

『Goat』は実際にあった衝撃的事件の映画化。

Courtesy of Sundance Institute
Courtesy of Sundance Institute

 ブラッド・ランドが学生寮での体験を綴った同名回想録をアンドリュー・ニール監督が映画化。先輩により伝統の名の下に行われたことが新入生の死にまでつながる様を描く。

 トラウマとなった19歳の時のある事件から、マッチョな伝統が息づく学生寮で自分を試そうとするブラッドの心の動きをベン・シュネッツァーが好演。兄のブラッドより先に寮に暮らし、一定の地位を築いている弟をニック・ジョナス(元ジョナス・ブラザース)が演じるほか、プロデューサーの1人でもあるジェームズ・フランコがかつての寮生として登場する。

 先輩による後輩へのしごきが事件化することもある日本では、身につまされる人が多そうだ。

『Author: The JT LeRoy Story』は衝撃の偽者ドキュメンタリー。

Courtesy of Sundance Institute
Courtesy of Sundance Institute

 近年の文学界における最大の偽者事件と言われるJT・リロイをジェフ・フォイヤージーク監督が追う。

 ドラマチックな半生を著した少年作家リロイは、常用しているサングラス越しでも少女のようにも見える愛らしいルックスもあいまって、熱狂的に迎えられた。その半生とは、娼婦の母の下、幼い頃から男娼として売られ、虐待を受け続けた不幸な生い立ちからドラッグに安らぎを求めるようになったというもの。

 そのリロイが実在しないと内輪からばらされる。小説を書いていたのは少年とは似ても似つかないオーバーウェイト気味の女性ローラ・アルバート、リロイになっていたのはアルバートの義妹サヴァンナ・クノープだった。ちなみにアルバートはその後、胃を小さくする手術を経て減量に成功、今では顔出しして小説を書いている。

 リロイにだまされたのは一般読者だけではなかった。セレブがこぞって愛の手を差し伸べた。マドンナが留守電にメッセージを残し、U2から招待を受け、ガス・ヴァン・サント監督とも近づきになる。薄幸の天才少年というような存在を、人々がどれほど愛するものかも見ることができる。だます側とだまされる側の需要と供給が合致して生まれた幻の少年作家とも言えそうだ。

『Weiner』は衝撃のスキャンダル議員ドキュメンタリー。

Courtesy of Sundance Institute
Courtesy of Sundance Institute
 
 舌鋒鋭く相手をやり込めるアンソニー・ウィーナー元下院議員は将来を嘱望された政治家だった。だが、勢いがあるのは弁舌だけではなかった。ブリーフの上からも自身の勢いがわかる写真を複数の女性に送りつけたことで議員の座を失った。

 ウィーナーが再起をかけ出馬したニューヨーク市長選を追ったドキュメンタリーは当初ウィーナーが一番人気で、そのまま市長の座を獲得し「感動ドキュメンタリーになるのでは」(エルシー・スタインバーグ&ジョシュ・クリーグマン監督)とも思われたが、2度目のスキャンダル発覚。

 今度はブリーフもはぎとった写真を女性に送っていた。この段階で撮影を止めずに続行させるウィーナーは並の神経ではない。もちろん大ダメージとなったスキャンダル後の選挙戦は、選挙事務所の面々、遊説先の有権者、そして妻であるフマにも当然影響を与え、感動ドキュメンタリーの数倍面白いものになった。

 作り手が予期しなかったものが撮れたドキュメンタリーはたいがい優れたものになるが、この映画もそういう1本。サンダンス映画祭米ドキュメンタリー部門審査員大賞を受賞した。

文/山口ゆかり

ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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