米国出身クリス・ウルフ選手を魅了した日本の女子プロレス…海外から見た魅力とは?

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 1980年代から90年代にかけて、日本に一大ブームを巻き起こした女子プロレス。現在は大手が解散し、複数の小規模団体が興行を行っており、静かな人気を保っている。海外メディアは、プロレスが持つドラマや興奮に憧れて、日本でレスラーとなったアメリカ人女性の目を通し、日本の女子プロレスの魅力や課題を伝えている。

◆女性が宙を舞いぶつかり合う。プロレスに衝撃
 31歳のクリスは、外国人として初めて、日本でキャリアをスタートさせた女子プロレスラーだ。ウェブ・メディア『Broadly.』によれば、彼女はフリーの写真家としてサンフランシスコで働いていたが、20代後半のときに休暇で来日し、そのまま帰国することなく英語教師となった。

 友達に勧められて見た「小さな女性たちがキラキラのコスチュームを着て宙を舞い、互いを投げ合い膝蹴りを食らわす。だけど誰も死なない」という、「アクションスターのような」女子プロレスのビデオに衝撃を受けた彼女は、女子プロレス団体「スターダム」に入団し、2014年8月にクリス・ウルフとしてデビューを果たした。ウルフはリングネームで、オオカミの頭としっぽを付けたコスチュームを着用しており、「飢えた黒い狼」のキャッチフレーズも持っている。

◆貧乏、文化の違いも乗り越える。プロレスは夢だ
 ウルフ選手は入門後、トレーニングに集中するため英語教師をやめ、住まいを他のレスラーとシェアし、貯金を取り崩して生活。電車代を節約しようと、稽古場まで4時間かけて歩く日もあった。「先輩には話しかけられるまで口をきいてはならない、先輩が帰るまで残って片付けをする、先輩より30分前に集合する」など軍隊のような日本の女子プロレス界の厳しい上下関係も受け入れた(ロイター)。試合の後には、ファンとビールを飲みに出かけるなど、リーグのスターとしてのサービスにも努めている(カナダCBCニュース)。

 毎週の興行で稼ぐのは250ドル(約2万6000円)ほどだが、プロレスをするのは「かっこいいから」で、お金は問題ではないとウルフ選手は話す。彼女は、女子プロレスという体と体のぶつかり合い、汗、派手なコスチュームに自分の夢を賭けたのだとロイターは伝えている。

◆内気な女性が爆発!プロレスは解放だ
 インドのウィーク誌は、日本の職場での男女格差は伝統的に大きいが、女子レスラーたちはその慣例に挑戦していると述べる。同誌は1970年代以降、女子プロレスは多くのスターやアイドルを誕生させたとし、彼女らの筋肉モリモリの見た目と身体能力が、日本の厳しいジェンダー規範への挑戦を助けてきたとしている。ワイルドできらびやかなコスチュームと並はずれたキャラが、スポーツ・エンタテイメントの演出と言われればそれまでだが、それでも彼女たちにとっては、リングは神聖な場所であり、社会のしきたりを振り払う場所であると説明している。

『Broadly.』のライター、ルーク・ウィンキー氏は、アメリカでも女子プロレスの「泥レス」や「ブラ&ショーツマッチ」は過去のものとなり、より本格的なものに移行しているものの、顔面への大振りパンチや危険な投げ技などをもろに受ける選手はおらず、荒っぽさでは日本は世界一だと述べる。また、細部に気を配ったリアリティ番組的なアメリカのものと違い、日本の女子プロレスにはシナリオはあるが自由もあり、女性がスポーツへの情熱を思う存分表現できる場だとしている。

 ウルフ選手は、「普段は優しくて内気な選手が、リング上で感情を爆発させる場面を何度も見た」と話しており、控えめで可愛いことを女性に期待する日本では、荒々しい乱闘が多くのレスラーにとってのはけ口なのかもしれないと述べている(ロイター)。

◆男性ファンのためのもの?興行的成功には仕方ない
 女子プロレスには女性の解放という側面もあるが、興行側からすれば金儲けであるのも事実だとウィンキー氏は指摘する。暴力や残忍さたっぷりの、女同士の絡み合いが見られる唯一の場所というのがビジネスモデルであり、性的にもギリギリの線だという同氏は、会場を埋め尽くす男性ファンが、その事実を物語ると説明する。女性の有り余るエネルギーの解放を促す場が、いやらしいお金のための見せかけと思われるのはフェアではないが、男の視線を振り払うのは容易ではないとも述べている(Bloadly.)。

 来場する男性のフェチ(性的嗜好)の対象となっていると感じたことはあるかと尋ねられたウルフ選手は、「それについてはよく考える」と答えたが、「短いスカートでお尻が見えていればカメラはよって来るもの」と割り切っているようだ。

 ウルフ選手は、ろっ骨への強烈なキックの中にある純粋さに、夢や希望、生きる力を湧き立たせるものを見つけたのだとウィンキー氏は述べる。辛さに堪えるのは自分の求めるものを得るためという彼女は、「自分と日本の女子プロレスは夫婦関係のトラブルを乗り越えたカップルのようだと感じる。ホントにこれでいいの?って自分に聞いてみる。多分常に愛し合っているわけではないけど、なんとか折り合いをつけてきた。だって一緒にいることは、価値あることだから」と、プロレスへの愛を語っている(Bloadly.)。