「未来のラジカセ」をつくろう──『ラジカセ for フューチャー』編著者2人、語る

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6月に刊行された『ラジカセ for フューチャー』を皮切りに、その編著者2人が「オリジナルラジカセ」製造をスタートさせ、21世紀のいま、世に放とうとしている。同書の紐解きにはじまり、「未来のラジカセ」を生み出そうという企みに至った経緯まで、彼らに語ってもらった。

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ヴィンテージ家電の販売、レンタルを手掛ける日本唯一のショップ・デザインアンダーグラウンドの「工場長」にして、自身も家電蒐集家として知られる松崎順一。最近ではNHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」に登場する家電の時代考証にも関わる彼が、編集者/プロデューサーの熊谷朋哉とともに上梓した『ラジカセ for フューチャー』は、しかし懐古趣味的なラジカセ解説本ではない。それは「ラジカセの未来」についての本だ。

刊行とタイミングを同じくして彼ら2人がスタートさせたのが、オリジナルのラジカセの開発からカセットレーベルの立ち上げまで、ラジカセを軸とした活動だ(加えて松崎は、元プラスチックス/MELONの中西俊夫、スネークマンショーに参加した椎名謙介とともにラジカセバンド「Tycoon Tosh + The Ghetto Blasterz」を結成、自ら音楽活動にまで身を投じている)。

いま、ラジカセおよびカセットテープのカルチャーが注目を集めている。そんななかで、ラジカセを「ただの家電から意識拡大を促す装置へと存在意義を立ち返らせる」という2人の真意を、その放談から紐解く。


これは「ラジカセの『化けの皮』を剥がす」本である

熊谷朋哉(以下K):これまでの松崎さんの活動は、懐古的な視点で語られることが多いように思います。ですが、松崎さんご自身はもっともっと危険な方なんですよね。ぼくには、その危うさやラジカセ/カセットというメディアやカルチャーのもっているポテンシャルがまったく重なって見えました。だからこそ、その両者の過激な部分を明確にしておきたいと思っていました。

松崎順一(以下M):そもそもラジカセは日本で発明されたこともあり、日本人にとってポピュラーすぎる存在です。だから、いま日本で見直すと「懐かしい」という感覚に収斂しがちです。でも、たとえばトム・サックスをはじめとするさまざまな海外のアーティストが「日本のラジカセはやばい」と気づいている。それはなぜかというと、ラジカセの文化的/歴史的な立ち位置を俯瞰して見ることができているから。ラジカセは実はもっと不思議で危ないものなんですよ。

例えば、戦後に欧米文化がどんどん入ってきて「アメリカンカルチャーがかっこいい」ものになったように、実は日本にも面白いモノはいっぱいあって、その世界的な可能性を再認識してほしいと思ったのです。その最たるものがラジカセで、熊谷さんはぼくの考えをいちばんよく理解してくれた。じゃあ、一緒にラジカセの化けの皮を剥がしに行こうか、と。

K:宇川直宏さんや中西俊夫さん、EP-4の佐藤薫さん、ヤン富田さんら、本に出ていただいた方と一緒に、まさに皆でラジカセやカセットのもつ不思議な力を再発見する旅をした感覚ですね。

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ラジカセ for フューチャー: 新たに根付くラジカセ・カセット文化の潮流』(松崎順一 + 熊谷朋哉)〈誠文堂新光社〉では、宇川直宏をはじめとする多彩な面々が集い、ラジカセのもつ魔力について語る。

M:ぼくは、ラジカセを家電製品とかオーディオ製品の枠から切り離したいんです。だからこの本では、ラジカセは使い方次第で世の中を塗り替えるようなモノにもなり得るということを言いたかった。それはやはり、ラジカセは外部からの受信ができて、その録音と発信ができるものだからです。そしてそこには使い手一人ひとりの「念」を乗せることができる。

K:そう、ラジカセは文化的装置であって、人間というもののメタファーでもあるのですよね。その部分に焦点を当てたこの本は、基礎テキストでありながらも、ラジカセの未来を予言するものでもあるつもりです。そしてわれわれがイヴェントを開き、あるいはあえて自分たちでオリジナルのラジカセを開発しよう、カセットレーベルを立ち上げようとするのも、ラジカセのもつ不思議さ、危険さを体験してもらうとともに、われわれの機械との付き合い方、文化のあり方を問い直す試みです。

機械と人間が、いま再び関係し合う

M:ぼくらの目指すオーディオ装置は、ある意味ではインテリア製品に近いと思っています。それは例えば、ハイレゾのただただ高音質な音楽体験で得られる感覚とはまったく異質のものです。スペックではなく、味わえるもの、そして持つことの喜びを感じられるもの。レーベルから出すカセットも、基本的にはアナログで、自分たちの好きなデザインで、好きな音楽しかリリースしません。世間の意見も聞かず、自分たちが「これがいい」と思えるものしか製品化しない。マーケティングは結果的に無難なモノしか生まないんですから。

K:エッジィさに欠けたモノにしかならない。結果として消費者にとっての魅力もなくなってしまうわけですよね。

M:ぼくは、最近の家電が世の中で最も面白くなくなってしまったジャンルだと思っているんです。例えばファッションは、日本でも世界中でも、若手の刺激的なブランドやデザイナーがいっぱい出てきているし、ほかのプロダクトも然り。だけど、こと家電に関しては全然面白くないんです。

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(右)松崎順一|JUNICHI MATSUZAKI
家電蒐集家。デザインアンダーグラウンド工場長。足立区をホームグラウンドとして家電再生活動を続ける「レトロフィッター」「家電系ガジェッター」「家電考古学者」として国内・海外を問わず、過去1970年代以降の近代工業製品(主にラジカセ)をこよなく愛し、発掘・蒐集・整備・カスタマイズ・企画イベント・ラジカセを使用したアート展等を中心に2003年から活動中。現在は、NHK朝の連続テレビ小説「とと姉ちゃん」において、家電の時代考証も担当する。dug-factory.com

(左)熊谷朋哉|TOMOYA KUMAGAI
編集者、プロデューサー。株式会社スローガン代表取締役。アート/音楽系の書籍や広告/イベント/展覧会等を数多く手がける。編著書に『Yellow Magic Orchestra×SUKITA』『四代目 市川猿之助』『坂本龍一+編纂チーム/いまだから読みたい本・3.11 後の日本』『デヴィッド・ボウイ・アーカイヴ』『中西俊夫自伝/プラスチックスの上昇と下降、そしてメロンの理力』『プラスチックス/情報過多』『ラジカセ for フューチャー』等多数。展覧会に『Time - David Bowie by Masayoshi Sukita』等多数。slogan.co.jp

K:家電が面白くなくなったのは、デジタル技術によって商品がコモディティ化した(商品の差別化が難しくなった)からだと思います。これからは、コモディティ化しないモノにしかモノづくりの意味はなくなってくるんじゃないかな、と。ラジカセもテレビもパソコンもスマホも普及していない時代であれば、それを所有する単純な喜びもあったけれど、いま、それを求めることはできません。

だからこそ一周したうえで、所有や使用、鑑賞することの喜びをもてるモノを誰もが求めているのではないかと思います。そしていまは経済的、技術的条件のバランスが絶妙で、マーケティングを超えたモノづくりがちょうど可能になっている時期とも思います。

M:まず最近のオーディオ機器、とくにポータブルプレイヤーは「これでなければならない」という欲求を生み出しません。素材もペラペラのプラスチックで、似たようなデザインしかなければ、選択基準はスペックだけになってしまう。はっきり言ってどれでも同じだし、どれでもいいんですよ。だからこそ、ぼくらは持ったときの肌触りや使ったときに温もりが感じられるような、人とモノとのコミュニケーションが生まれるハードをつくりたいんです。

K:機械はすべて人間の活動の映し鏡であり、メタファーですから。かつてのアップルはそのあたりにとても自覚的でしたよね。例えばモノとのコミュニケーションという話をMacintoshで考えると、「Mac OS」は、松崎さんにとっては人格を感じられるものですか?

M:人格を感じられたのは、クラシックと呼ばれる「OS 9」までですね。クラシック環境では自分で環境/機能をいじることができたんですよ。それが「OS X」からは、細かいカスタマイズがあんまりできなくなった。

同じことがすべてのプロダクト、とくにクルマに顕著で、昔は壊れたら自分でボンネットを開けて修理できたのが、いまでは絶対に触ることができません。不具合があるから修理しますっていっても、ボンネットを開けてプラグを出してコンピューターを接続してアップデートするだけ。だからいまのクルマって、運転していてもただハンドルに手を添えているだけで、人間の感覚がそこには介在していない感じがするんですよね。このことの微かな不快さを、ぼくらは感じ始めていると思うんです。いま一度、機械と人間の理想的な関わり方が問われているんじゃないかな。

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当時のテクノロジーの髄が詰めこまれた名機「SONY CFS-F70」。PLLシンセサイザーチューナーを搭載するなど、アナログからデジタルへの移行といった時代性を感じられるのも魅力。

K:ぼくらもオリジナルラジカセやカセットレーベルをつくるうえで、人間とプロダクトのちょうどいいところを探している。まさに、チューニングですね。

M:単純にデジタルはダメだ、アナログにすべて回帰しようというわけではありませんからね。ヴィンテージはこれまで同様に提案し続けるけど、新しいオリジナルラジカセは昔のモノを復刻するわけではないので、過去はきちんと学びつつ、現代のテクノロジーも便利なところはもちろん使います(編注:彼らの「オリジナルラジカセ」は、今秋のリリースを目指しているという)。

ラジカセを「再体験」するために

K:ラジカセとカセットに深入りするにつれて、ぼくらには身体があるということを再認識しました。ラジカセから流れる大音量のカセットの音を聴くと身体で「なんだこれ!?」と実際に感じられると思いますし。そしてわれわれの身体はデジタルに残された微かな不快さを感じられるほどには敏感なものなんだな、と。

M:いまや、ほとんどのひとが、ダウンロードした音楽を携帯端末とイヤホンで聴きますけど、デジタルデータで音楽を聴いているのは、ゼロイチの信号を確認する作業でしかありません。空気の介在するスピーカーで音を鳴らすという行為は、音楽を「身体で」聴く上ですごく大切だと思います。そして単純に、カセットで聴く音ってふくよかなんです。

K:ヴァイナルもブームを経て、定着しましたが、目指す方向性自体はちょっと違うかもしれませんね。カセットのもつ独特のコンプレッション感とか、ハイファイとローファイが混じっている感じというか。あの音には一種のアジテーションの感覚がある。

M:ヴァイナルは、すべてメーカーでプレスされた同じ音をもった商品ですからね。でも、カセットの場合、100人いたら100人それぞれが使っている機材もテープもその相性も全てが違うので、自分の音になるんです。さらには消すことも、重ねて録音することもできる。CD-Rで焼いた「コピー」とはまったく違うわけです。

カセットの重要な部分は「編集」にこそあって、たとえばレコードのアルバムをカセットにダビングしたときに、「おまえはここで切ったのか」とか「俺はB面の3曲目をここに入れちゃった」ということがあったと思うんです。カセットは、収録できる分数も違うし、「メタル」だったり「クローム」だったりということもある。さらにはそのインデックスをそれぞれにアレンジすることもできた。世界にひとつのアルバムができ上がるというパーソナル感が強まる点が、ヴァイナルとは違います。

K:カセットは、パーソナルなメディアなんだと思います。そしてデジタルと違い、コピーされると劣化する。そこにこそ、新たな可能性がある、と。

今回の『ラジカセ for フューチャー』内、宇川直宏さんと松崎さんの対談で、宇川さんが次のように話してくれたんです。

「十数回ダビングされて原音が劣化し、もはや憑依体となった世界は、様々な人が自宅で録音した念が籠もっていて、本当に近寄れなかったですよ。(中略)しかしもうこれらは「音」ではなく、潜在意識にうったえかける「気配」のことなので、個人の意識レベルの中でしか体感できない。心霊といっしょですよね。簡単には共有できない」

これはすごく面白い話で、ラジカセ/カセットから、人の存在、念、霊の話まで行き着くことができたのは、今回の本の収穫だったと思います。ある音を受信する、録音する、聞く、感じる、共有するということは、ある意味では超自然現象なんですよ。原子や分子の固有振動数とか、周波数の問題になってくると思いますけれども。

M:宇川さんのおかげで話がどんどん広がりましたよね。ぼくも古くからの心霊現象研究家で、昔から無線をやっているので、霊の存在はつまりは周波数的な現象であるだろうとは予測していました。でも、霊魂が見える/見えないというのはどういうことなのかなと、周波数の問題を夏休み特別スペシャル『怪奇! あなたの知らない世界』を観ながらずっと考えていて…。

K:あれは周波数は関係ないんじゃないですか(笑)。単にB級の再現ドラマだったじゃないですか。

M:いや、お釈迦様とはいわないまでも、徳の高い人からはきっとある種の高周波が出ていて、昔の人間にとっては、それが金色に輝いているように見えていたんじゃないかと思うんです。それが仏像では周りに輪が出ていたこととして具現化しているし、千手観音のように手がたくさんあるというのも同じだと思うんです。

昔の人は五感が研ぎ澄まされていたので、たとえばUFOのように現代人が見える/見えないものも、ある意味では自分がラジオになることで受信できていたんだと思うんです。そしてそれをカセットのように記憶し、外に発信していた。その意味でも、ラジカセは人間に近い。

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新宿にあるBEAMS JAPAN 4Fフロアに常設されている、デザインアンダーグラウンドのコーナー。数々のヴィンテージラジカセが並び、実際にラジオも受信する。

M:だから、人間とはなんなのか?という問いを本質的に考えていった結果のひとつがラジカセだと思うんです。その思いが人間を軸にした製品として立ち現れる。だからある意味、ぼくらがやろうとしているのは、ラジカセを本尊とした、ひとつの宗教ですよ。

K:ラジカセがお寺で、カセットが声明(しょうみょう)でもある、と。

M:とすると、カセットはお香でもあるかもしれません。お香は清めのために焚きますよね。カセットで音楽を聴くという行為も、自分の五感を清める行為とも言えます。宗教における本尊が自分を託す、共存する存在であるように、カセットで音楽を流すことでラジカセという本尊と一体になることができる。

人間はラジカセであり、ラジカセは人間である。ラジカセやカセットの持つ機能の本質は、人間が本来もっている本能、ポテンシャルを引き出す装置なんです。

展覧会「ラジカセ for フューチャー」
Exhibition: Cassettes and Ghetto Blasters for the future

会期:
7/22(金)〜7/31(日)
11:00-20:00(月曜日は休館)

会場
Tokyoarts Gallery(東京都渋谷区東2-23-8)

問い合わせ先・チケット購入
Tokyoarts Gallery
tel. 03-6427-6665
tokyoartsgallery.com

監修:
松崎順一+熊谷朋哉

参加者:
大和田良、宇川直宏、中西俊夫、椎名謙介、FDSTASKI〈HIPHOP最高会議〉ほか

1.EVENT「松崎順一・カセット怪談+降霊会」:

日時:
7/23(土)18:00〜20:00(17:30 OPEN)

出演
松崎順一

料金
1,000円(税込)

2.LIVE「FDSTASKI+YOU THE ROCK★+MAMMOTH」

日時:
7/24(日)12:00〜14:00(11:30 OPEN)

出演
FDSTASKI+YOU THE ROCK★+MAMMOTH

料金
1,000円(税込)

3.LIVE「Tycoon Tosh + The Ghetto Blasterz」:

日時:
7/30(土)17:00〜19:00(16:30 OPEN)

出演
Tycoon Tosh + The Ghetto Blasterz

料金
1,500円(税込)

上記イヴェント・ライヴの会場/問い合わせ先
Tokyoarts Gallery(東京都渋谷区東2-23-8)
tel. 03-6427-6665
tokyoartsgallery.com