『この方法で生きのびろ!(草思社文庫)』(ジョシュア・ペイビン、デビッド・ボーゲニクト、倉骨 彰:訳/草思社)

写真拡大

 ワニに襲われたらどうすればいいのか、自宅に小包爆弾が届いたらどうすればいいのか、銃撃戦に巻き込まれたらどうすればいいのか。そんな非日常な危機的状況に置かれた時にどうやって身を守ればいいのかがその道のプロによって大真面目に解説されているのが『この方法で生きのびろ!(草思社文庫)』(ジョシュア・ペイビン、デビッド・ボーゲニクト、倉骨 彰:訳/草思社)だ。本書はアメリカで出版されてベストセラーになったものを翻訳したものだが、ワニの鼻を殴るぶっ飛んだ表紙イラストは私の心を一瞬で鷲づかみにした。おふざけ要素満載のネタ本に見える上に本書の帯には「全米ベストセラーのちょっと笑えるサバイバル本」と書かれているが、本書は決してウケ狙いのスタンスではない。文面は至って真面目で、ウケを狙ったような比喩表現もなく解説と無関係な余計な一文なども一切存在しない。そう、彼らは危機的状況から身を守る方法を大真面目に解説しているのだ。まあ、そこがおもしろいのだが。

 本書は「脱出・突入」「防御・攻撃」「跳躍・落下」「緊急事態」「突発事態」の5つの項目から成っている。ワニ、サメ、毒ヘビ、爆弾、銃撃戦、飛び降り、遭難、そんなワードがひしめく本書ではあるが、絶対に起こらないであろう状況ばかりをまとめたものというわけでもない。本書の定めた40パターンの危機的状況は大きく2種類に分類されている。ひとつは地震や遭難などといったもしかしたら自身の身に降りかかるかもしれない状況、そしてもうひとつは「飛行機を代行操縦、不時着させなければならなくなった時」のようにほぼ絶対にあり得ないような状況だ。後者はアクション映画の主人公がよく体験するような状況が多く、現実的な目線で映画のワンシーンを検証・考察する感覚で楽しめる内容となっている。この知識が生きていく上で直接役に立つ可能性は極めて低いが、本書を読んでからアクション映画のスタントシーンなどを見てみると、もしかしたら以前とは違った発見ができるかもしれない。演出重視でリアリティを無視した映画のアクションシーンに対して野暮なツッコミをいれるのもまた一興である。

 彼らが大真面目なのは、危機的状況というのは人命がかかっているからだ。ハンガーを使ってロックされた車のドアを車外から開ける方法や、マッチなしで火をおこす方法、適切に喉を切開して呼吸の止まった人を救う方法などといった知っておいて損のない情報も真面目に解説されている。また、本書にはわかりやすい図解も入っており、言葉だけではわかりにくい箇所もしっかり補完されているのが特徴だ。そして、この図解なのだがモデルの人間の顔が真顔だったり構図がスタイリッシュだったりと非常にシュールな仕上がりになっているのが笑いを誘う要因になっている。また、表紙のワニを殴っているイラストも数ある図解のうちのひとつだ。

 本書で解説されている状況は普通の人生においてまず起こりえないものが多いが、100%自分の身に起こらないとは言い切れないのも人生である。しかし、プロが解説しているからといって、不用意にワニに立ち向かったり橋の上からごみ収集車の荷台に飛び降りたりしてはいけない。あくまで「助かりたいならこうしろ」という気休めであり、本書どおりに実行したからといって上手くいくことが約束されているわけではない。もしそれで大怪我を負ってしまっても本書の関係者や私は責任を負いかねるのでそこはご了承願いたい。また、「結局役に立たないじゃないか」と思うかもしれないが、少し待っていただきたい。本書の知識が無駄になるのだとしたら、それはあなたが平和な暮らしを享受できている証なのである。

文=Nas