女性誌『Suits WOMAN』で注目を集めた「貧困女子」。これは普通の毎日を送っていたのに、気がつけば“貧困”と言われる状態になってしまった女性たちの体験談。

今回お話を伺ったのは、現在無職の掛井優子さん(仮名・32歳)。彼女は色が白く、細めの体型。病院の白衣のような素材感のブラウスと、色あせた黒のスキニーデニムをはいています。顔の肌質感がガサガサして、手の甲がシワシワしていて肌荒れが激しい。だからパッと見、40代半ばのように見えます。バッグは10年ほど前に大流行した日本のブランドのレザーバッグ。コンサバ女性が持つような愛らしいデザインなのですが、キャメル色の合皮の表面がめくれていて使い込まれています。

「都内の女子大学を卒業後、マスコミ関連会社に就職しました。漠然とマスコミに憧れがあったのですが、その会社しか入れなくて。でも、そこは壮絶なブラック企業だったんですよ。上司が銀行出身の人で、ものすごく猜疑心が強い人だったんです。朝7時に出社して、深夜まで仕事が山のようにあり、ささいな失敗でもみんなの前で怒鳴られたり、正座させられたうえに蹴りを入れられたりしたこともあります」

上司によるパワハラやモラハラを意識して、社員に対してきちんとした態度をとっているのは、社員が100人以上で創業から20年以上経った企業だけ、と優子さんは感じたそうです。

「小さい会社がブラックで社員をボコボコにしても、世論は“そんな会社にしか入れないヤツは暴言を言われながら殴られてもいい”と思っています。もし同じようなことを、一部上場企業が行なえば、社会全体で糾弾しますよね。大企業に入った人がいい環境で働けているのは、“世論が業績に響くから、社員をお客さん扱いしている”のではないかと思うこともありました。よく、“公務員は最高”みたいなことを言う人もいますが、大企業に比べれば社会から守られていないと感じます。なぜなら、公務員がひどい目に遭っても、世間の人は心のどこかで“ざまあみろ”と思っているから。自分たちの税金でのうのうと暮らしている公務員は苦しい思いをして、滅私奉公して当然だと絶対に思っています」

独自の論を展開する優子さんがそう思う理由とは?

「中学のとき、ものすごく勉強ができた男の子が、大学卒業後にある官公庁に採用されたんです。でもそこは、不眠不休で仕事をしてもこなしきれないくらいの雑用があり、1週間も家にも帰してもらえないところだったんです。さらに、上司の無理難題を受け入れ続けなければいけないブラックすぎる部署で、自死の道を選ぶ人も多いとか。同級生も必死で頑張ったらしいのですが、1年目でうつ病を発症。しかし、病院に行く時間すらなく、3年目に休職し退職。今は実家で引きこもっているそうです。その話を、その男の子の両親が週刊誌や新聞に持ち込んだらしいのですが、門前払いされたそうです。でもそれが、誰もが知る企業だったら、そのネタに飛びつくはずです。無視されたのは世間の人は、公務員が苦しい思いをしても当然だと思っているからだと思いました」

確かに言われるとそうかもしれませんが、冷静に考えるとそうとも言い切れない。優子さんの話を聞いていると、思い込みが強い性格だと思える部分がたくさんあります。ところで、新卒時の彼女の仕事はどのような内容だったのでしょうか。

「セールスのテレアポを1日50本かけるのが毎日のノルマでした。できないと“私は給料泥棒です”というゼッケンを翌日1日中つけなくてはいけないから必死でした。社員の管理をプライベートまでしたがる上司より先に帰れず、毎日帰宅時間は終電。タクシー代はもちろん出ないから、それを口実にみんな一斉に帰るんです。私はその上司と駅が近かったので、毎日のように一緒に帰っていたら、ある日、上司の家に強引に誘われて恋愛関係になりました。大嫌いな人でも、そういう関係が続くと相手の役に立ちたいとか、思ってしまうのが女です。たぶん好きになってしまうんでしょうね。上司のために成績を出したくて頑張っていたのですが、変わらず暴言は吐くし、一緒にいても全然優しくしてくれない。男性社員と話していると2人っきりになったときに怒鳴られたりすることもありました。公私ともに支配されて、生きることが不安になり、家から出られなくなって、2年目で退職しました。その後は派遣社員などをして4年ほど過ごしましたが、私のやるべき仕事じゃない気がして、28歳のときに、仕事をいったん休むことにしたんです」

優子さんの実家は、群馬県との県境に近い埼玉県なので、仕事を休んで収入が途絶えると、実家に帰らざるを得ません。

「実家に帰ればアルコール依存症の父親がいるし、母親は別の男性と同棲しているし、かなりひどい家庭なので、帰るのはどうしてもイヤで、近所のコンビニでバイトをしながら食いつなぐことにしました。当時から国分寺の家賃6万円の家に住んでいるので、なんとかなるかな……と思ったのですが、そんなに甘くはありませんでした。毎日多くの人に接するのですが、時には暴言を吐かれることも多く……仕事に出られなくなり、お金がなくなって、毎日廃棄のお弁当や、激安食パンにマーガリンをぬって食べていました」

マーガリンは100円ショップで購入して、1週間で使い切っている。

ある日突然、世の中が雑菌にあふれている気がして、手を洗い続ける日々が始まる〜その2〜へ続きます。