■連載/阿部純子のトレンド探検隊

 1975年にエルサルバドルに渡ってから、海外を中心に約40年もの間、栽培技術者としてコーヒー栽培に携わりコーヒーハンターの異名を持つ川島良彰さん。川島さんが創立したミカフェートは、コーヒー豆の輸入、販売、カフェやショップの展開など、世界から集めた良質なコーヒーを日本の消費者に届けている。

 川島さんは2008年にミカフェートを創業、コーヒー文化をワイン文化と同じ地位に上げることを理念に、ワインと同様コーヒーも、地域や農園を精選し、輸送方法によって決まる品質ごとのピラミッドがあり、同社では1杯2000円の高級なものから1杯100円のリーズナブルなものまで扱っている。すべてのグレードのコーヒーを大切にしながら、リーズナブルでもそのグレードで一番品質の高いものにすることを目指している。

 今回ミカフェートで初となる焙煎に関するコーヒーセミナーが開催された。講師は同社で品質管理と焙煎を担当している、シニアロースターの近藤 洋介さん。奥深い焙煎の世界を垣間見ることができたセミナーの内容を紹介したいと思う。

焙煎の仕方によって同じコーヒーでも味が大きく変わる?ミカフェートのコーヒーセミナーで焙煎の奥深さを知る

◆コーヒーの実から生豆になるまで

 意外と知られていないがコーヒーはフルーツだ。完熟した実(コーヒーチェリー)は食べられるし、コーヒーとしても完熟を使った方がおいしくなる。栽培はおいしい豆ができる条件である、昼夜の寒暖差が得られる標高の高い場所で栽培されているほど品質が高い。

 品質の分かれ道となるポイントのひとつが収穫。良い環境で栽培された豆でも、未成熟の豆が混入すると渋みが出たり、えぐみが出るなどカップクオリティーが下がる。ミカフェートの豆はすべて完熟豆を手摘みしている。

焙煎の仕方によって同じコーヒーでも味が大きく変わる?ミカフェートのコーヒーセミナーで焙煎の奥深さを知る

 採った完熟豆は素早く次の工程に移らないと発酵してしまいコーヒー豆としては使えなくなるため、収穫したその日のうちに果肉除去してパーチメントと呼ばれる種を取り出す。パーチメントの表皮を剥いたものがコーヒーの生豆となる。

 品質を左右するもう一つの重要なポイントが乾燥。通常は乾燥させるために大きなドライヤーを使い、3日間で乾燥工程は終了する。しかし、より品質を保つのに適しているのが天日乾燥で、天日だと1週間から10日かかる。カビが発生するリスクもあり、頻繁に上下を返す必要があるなど手間がかかるので、天日乾燥はコストが上がる。

 次の工程が休息。水分がある状態から乾燥を経ることで豆はストレス状態にあるため、休ませないと劣化が早くなってしまう。ミカフェートでは、温度と湿度を管理した状態で、2か月間休息させる。その後、パーチメントを脱穀して生豆を取り出し、選別作業を行う。選別にはサイズ、色、密度などさまざまな行程があり、この行程でもまたグレード分けするのが基本の作業となる。

◆鮮度が命の生豆を細心の注意を払って管理する

 選別された生豆は、一般流通の場合、麻袋に直接生豆を入れ、温度管理がされていないドライコンテナで運ばれるため、中米から日本に届くまで約45日かかる。赤道を通るのでコンテナの中は60度にも上がるため劣化が避けられない。生豆は鮮度が命なので、ミカフェートはすべて麻袋の内側に特殊なプラスチックバッグに入れて生豆を詰め、麻袋の臭いや油分が豆に移らないようにした状態で、温度管理ができるリーファー(定温)コンテナで輸送。トップブランドの「Grand Cru Café」に関しては空輸している。

 日本に到着したら小分けしてリパックし脱酸素剤を入れて生豆保管庫で定温保管する。今回は特別に生豆保管庫も見学させてもらった。「ここは川島が国内で一番好きな場所」(近藤さん)とのことで、中に入るとひんやりとする。生豆専用保管庫で年間18℃に保たれている。

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◆焙煎とは生豆のポテンシャルを発揮させ、好みの分かれ道ともなる

 焙煎とはコーヒーの生豆を焼く作業のこと。豆によって性格が違うのでポテンシャルをどう伸ばすのかは焙煎のやり方に左右される。また、焼き具合を表す焙煎度合いによる味の違いは、個人の好みで変わる。生豆を火にかけると最初は酸味が作られる。さらに甘みが加わり、苦味も加わってくる。中煎りや深煎りなど、焙煎度合いを決めるのは各会社の考え方や客の求めるものにより異なる。

 焙煎の違いとは簡単にいうと焼くことにかける時間の違いで、豆の持っている性質で焼く時間が変わる。そのため焙煎工は豆のポテンシャルを知っておかなければならない。また、味の安定性はとても重要で使うマシンも選ぶ必要がある。ミカフェートで使用している焙煎機はドイツの老舗メーカー「PROBAT(プロバット)」のもの。プロバット社製ドラム式焙煎機を使った焙煎工程も見学させてもらった。

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「プロバットは鉄板がしっかりしていて厚く、外気の影響を受けにくいので同じ味を再現でき、焼けた豆の温度は200度ぐらいあり、出来る限り早く冷まさないと香りの成分が揮発してしまう。プロバットは冷却の性能が非常に高いのでそれも利点となっている」(近藤さん)。

 何度で何分間焼くのか、火力等の調整など、すべて細かく管理されている。温度が1度違うと味が変わってくるとのことで、同じ味になる状況を保ちながら焙煎を行う。焼きあがった豆はさらに欠点のある豆を取り除くソーディング作業を行う。

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◆香り、味のチェックをして商品化を決めるカッピングルーム

 焙煎が終わった豆の品質評価をするテイスティング作業をカッピングという。カッピングルームは味を確かめる場所で、早く味がみられる利点がある。粉の分量を計って湯を入れ3分経ってからかき混ぜて、香りと味のチェックをする。淹れる人によって味に差異が出るドリップではないのでブレが少ない。スプーンですくって「じゅる」っと音が出るほど強くすすって味をみる。結果次第では再度焼き直しをしたり、温度を変えて焼くこともあるという。

焙煎の仕方によって同じコーヒーでも味が大きく変わる?ミカフェートのコーヒーセミナーで焙煎の奥深さを知る

 エル サルバドルの「パーカス」を203度、205度、207度で焼いたもの3種類をカッピングしていた。実際に参加者も試す機会を得たが、2度の違いは焼く秒数にするとほんの少しだが味に大きな違いが出ることがわかった。甘み、酸味、苦味の味のバランスをみてミカフェートのコーヒーとして出すにはどの焙煎度合いがいいかを調べる。ちなみに今回決定したのは203度。中煎りにあたる。

 カッピングにも資格があり有資格者同士で飲んでディスカッションして最終的な焙煎度合いを決めていく。今回の場合は、品質を見るのではなく商品化のためのカッピングなので他の銘柄とのバランスもみて決めていくそうだ。

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◆3種類の焙煎度合いでローストされたコーヒーをテイスティング

 セミナーの最後は焙煎度合いで変わる味の違いを確かめるために、参加者全員でテイスティングを行った。使われた銘柄は6月20日に発売されたペルーの「ラグリマ デ アンデス」。ライト、ノーマル、ダークの3種類(各税込1650円)で、それぞれ200度、206度、215度で焙煎したもの。

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 ドリップされた3種類を、味、香り、色を確かめながらテイスティング。ダークは一番強く苦味を感じるとのことで、ライト、ノーマル、ダークの順番に味見していく。熱いうちは香りを意識して、温度が冷めてくると酸味、味の厚み(ボディ)を意識して飲むとよりわかりやすいという。

焙煎の仕方によって同じコーヒーでも味が大きく変わる?ミカフェートのコーヒーセミナーで焙煎の奥深さを知る

 まずは浅煎りのライトを口に含んでみる。フルーツのような香りで強く感じるのは酸味。さっぱりとした爽快感があり、自分のように1日数杯飲むというタイプには、軽くて飲みやすい味なので向いていそう。冷めてくるとより甘みを感じるようになる。

 ノーマルはミカフェートらしい味として楽しめるもので、しっかりしたボディでありながら苦みも少なく、万人向けの飲みやすいタイプ。ダークは酸味が少なく甘みと苦み重視の味わい。苦味があるとはいえさほど深く焼いていないので後味は悪くなく、特徴を残した感じの焙煎度合いだ。ダークをアイスコーヒーにすると甘みと酸味が残ってとてもおいしくなるとのことで、ジュースのような感覚で飲めるそうだ。

【AJの読み】その日の気分や飲むタイミング、回数で焙煎度合いの違うコーヒーを楽しんでみる

 コーヒーは焼き過ぎると、どんな種類のコーヒーでも同じような味になってしまうため、深煎りのフレンチローストやイタリアンローストになると、コロンビア産やブラジル産など産地の違いがわかりにくくなる。逆に浅煎りだと特徴がはっきりと現れるので、素材の品質がダイレクトに出る。とはいえ、コーヒーはどんどん劣化していくので、劣化したコーヒーを浅煎りすると飲めないような味になってしまうとか。それをマスキングして本来の味を隠すために深煎りするケースもある。

 セミナーでもあったように、焙煎の違いは生豆が持つ本来の性質を引き出す一方で、味の好みは個人により千差万別。その日の気分や、飲む回数、シーンなどに合わせて、焙煎度合いの違うコーヒーを楽しんでみるといいかもしれない。

文/阿部 純子

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