『CREWでございます!スチュワーデスお仕事日記』(御前モカ/秋田書店)

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 乗り物好きの小生ではあるが、実は飛行機に未だ乗ったことがない。当然、キャビンアテンダントに接する機会もなく、テレビや雑誌などで見る華やかなイメージしか持ってなかった。しかしこの『CREWでございます!スチュワーデスお仕事日記』(御前モカ/秋田書店)を読んで、そのイメージが表面的なものでしかないことを思い知らされた。タイトルにCREW(クルー)とあるのは作者自身「キャビンアテンダントCAなどという呼称には一切馴染まなかった」ためで、本書ではCREWの呼称に統一されている。各航空会社でも、そう呼ぶことが多いそうだ。

 作者の御前モカ氏は元キャビンアテンダントでありスチュワーデススクール講師のキャリアを持っているが、小生も最初はその絵柄から、作者が現役時代の思い出話をネタにした軽いエッセイと思っていた。しかし実際に読むとその経験から描かれる迫真のエピソードは、巷のギャグ4コマ漫画とは一線を画することが分かる。ページの端々からにじみ出る緊張感は、幾多の修羅場をくぐってきた熟練者が描くからこそだろう。

「CREWとは戦場(いくさば)に立つ侍の如し」──モカ氏はこれこそがCREWの魅力であり本質だと語る。それが端的に分かるエピソードが第5話「ヒヨコ問題でございます!」だ。

 ヒヨコとは入社から5年目までの若いCREWを指す。ある日、モカ氏はエコノミークラスの責任者として乗務するのだが、ともに配置されたのが経験の浅いヒヨコ3人。このイメージとして作中では自身を完全武装の鎧武者、ヒヨコたちをピクニック気分の足軽として描いており、これだけで既に圧倒的な戦力差を感じる。それだけ実務経験が重要な仕事なのだ。こうして氏はヒヨコを指導しつつ、自ら矢面に立ち機内サービスの戦場へと向かうことに。

 この時の作業例として描かれた食事の回収では、皿に残ったドレッシングなどが頻繁に体にかかってしまうことに。ヒヨコは勿論、熟練のモカ氏も例外ではなく、汁まみれになりながらも常に笑顔で接客している。確かに、食事のサービス中はエプロン着用のCREWをテレビで何度も見た。てっきり清潔感の演出だと思っていたのだが、実際に必要だったと初めて知らされた。またエコノミークラスの食事はトレーにまとめてオーブンで温められるのだが、ちょっとしたはずみから加熱したトレーで自身の腕をヤケドすることも多いそうだ。CREWたちに言わせれば名誉の負傷とのことだが、痛いことが苦手な小生からすれば、実に頭の下がる思いである。

 また、CREWの仕事は機内サービスとともに保安要員としての役割もある。去る5月、羽田で離陸中の飛行機からエンジン火災が発生し緊急脱出が行なわれた。本書でもその件に触れて脱出時の注意点が描き下されている。ここで大事だと指摘しているのは、まずCREWが脱出用の滑り台(シューター)を準備する間に「ハイヒールや荷物はシューターのパンク防止のため機内に残す」こと。そして「滑る姿勢は横から見てコの字よりやや前傾」で「着地したらすぐ走り抜ける」ようにすることだ。後ろからも次々と滑ってくるうえ、爆発炎上の可能性がある以上、1秒でも早く機体から離れなければならない。これを知っていれば、万が一のときでも安心だろう。

 今まで何度も物語に描かれてきた女性CREWたちの華やかな活躍。しかし、モカ氏は実体験からそれらに対し以前から「何か違う」と感じていた。そんな思いを込めて描かれたのが本書である。だからこそのリアルな描写が現役CREWたちにも人気で、帯にはCREWたちからの応援メッセージも添えられている。読者諸氏が飛行機に乗ったとき、もしかしたら本書を読んだ人々が働いているかもしれない。だが本書で描かれた苦労を感じさせることなどないだろう。フライト中は笑顔でサービスに徹し続ける、それがCREWのお仕事なのだから。

文=犬山しんのすけ