World Life Style〜わたしの国の住まい事情〜 サンパウロ郊外のエコビレッジで、建築家のご主人が設計した こだわりの家でオーガニックな暮らしを送るご夫婦

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海外の家や暮らしをリポートする「World Life Style」。第20回目はブラジル・サンパウロ市の郊外、車で3時間ほどの町「ボトゥカトゥ」から。建築家で、サンパウロ市内の建築大学でも教鞭をとるポーラさんと、ブラジルの工芸職人とコラボレーションし、新しい工芸品の生産と販売を行うシルヴィアさん。エコビレッジにある二人の住まいは、ご主人が設計し、自然を生かした抜群のセンスが光っている。

樹木や草木の存在感に“あえて負ける”建築


自然が溢れる中にひっそりと佇むこのお宅は、シュタイナー教育の生みの親である、ルドルフ・シュタイナーが提唱したバイオダイナミック農法(有機農法の一種で循環型農業)を実践するエコビレッジ「Demétria(デメトリア)」地区内にある。1974年にブラジルで初めてバイオダイナミック農法を開始したこのコミュニティで、当初は野菜や医療用の薬草を栽培していた。その後、牛乳やチーズなどの乳製品などの生産を開始し、サンパウロ市内でも販売。
元々はバイオダイナミック農法を実践する家族で構成されていたが、現在ではスイス、ドイツ、ノルウェイ、オランダなど様々な国籍に加えて、弁護士や大学教授、植物学者、建築家など多様な職能を持った人々が住んでいる。昼間は仕事のために外に出て、ビレッジに帰宅という生活パターンが多いようだ。ここ40年で居住者はブラジル国内だけでなく海外からも増え続け、合計700もの家族が居住するようになった。

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建築家のポーラさんがなだらかに傾斜する敷地を見てまず思い描いたことは、樹木や草木の存在感に建築が勝つのではなく、陰に隠れるような住まいだった。建物の高さを極力抑えるためスキップフロアを活用し、外観は2層に見えるが内部は3層構造になっている。1階はシルヴィアさんの書斎と2つの寝室、2階はキッチンとメインエントランス、3階はポーラさんの書斎とリビング、2つの寝室で構成されている。

家の中心はコミュニケーションを生むキッチン

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ポーラさん曰く、この家の中心はキッチンだという。キッチンや洗濯場などをセンターに配置し、それを挟む形で寝室やリビングなど二つのメインスペースを並べた。ブラジルの地方によく見られる伝統的な住宅平面プランだ。あえて主玄関をキッチンの横に設けることで、訪れた人が必ずキッチンを通る仕組みになっている。さらにダイニングをキッチンに同化させて、自然と人々がセンター空間に集まり、話し声が吹き抜け天井を通じて各室へこだまするように作られている。ブラジルの伝統を尊重しつつ、現代的にアレンジしたポーラさんオリジナルのアイデアがここにある。
「本来、ブラジル料理は電化製品に頼ることもなく、すべて土鍋で作られてきた。だから、わざわざ隠して収納する必要もない」という自論に基づき、キッチンの収納はすべてオープンになっている。

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空間を壁で仕切らず、床の高さを変えながら立体的にエリア分けするスキップフロアの空間構成は、この家の特徴だ。寝室やリビングなどのメインスペースを3層吹き抜けにすることで、全体の空間にリズムを与えている。スペースを完全に仕切らないので、自然光が充満し、開け放した窓から爽やかな風が入ってくる。エアコンいらずの環境にもつながった。
家具は、ほとんどがポーラさんのアイデアによる造作で、ビレッジ内のドイツ人家具職人が制作をしたという。医者、建築家、植物学者、造園家、家具職人、大学教授など専門性の高い職業に就く住人が多いので、困ったことがあれば、その分野のプロがすぐにアイデアやアドバイスをくれる。

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1階と2階は土足OKだが、リビングがある3階は土足厳禁だ。胡坐をかいたり、のんびり寝そべったりすることができる。リビングの奥にはシルヴィアさんお気に入りの瞑想スペースが確保されている。

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二人のアイデアは、3階にある書斎から生まれる。日系3世のシルヴィアさんのルーツである日本をはじめ、世界各地から集めてきた工芸や民芸品、建築やデザイン関係のお気に入りの書籍に囲まれ、窓の先にはエコビレッジの大自然が果てしなく続く。耳をすませば外から鳥や動物のさえずりが聞こえ、目を閉じれば自然とインスピレーションが生まれてくる空間だ。
引き戸(写真右側)は、中央の吹き抜けを通って上ってきた風を外部へ逃がす役割を果たしている。家全体の呼吸を緻密に計算してのことだ。
書斎と一体になったリビングスペースにテレビはあるが、スイッチを入れることは年に数回だと言う。

心憎い住まいの演出が散りばめられて

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ブラジルではバスタブのないシャワーだけのバスルームが一般的だが、近年お風呂を家に設置する家庭も増えている。「Ofurô」という日本語がそのままポルトガル語になっている。しかし、ここまでオリジナリティを追求したお風呂は珍しい。バスタブのお湯に浸かればちょうど目線の高さに窓があり、その先には大自然が広がるという演出。日本建築をよく研究しているポーラさんならではの発想。

1階のゲスト用寝室に設けられた丸窓。窓と同じ大きさの鉄板をレールに沿ってクルクル回すと、窓が塞がる仕組みになっている。子供でなくても触りたくなる、遊び心溢れる丸窓。 1階のゲスト用寝室に設けられた丸窓。窓と同じ大きさの鉄板をレールに沿ってクルクル回すと、窓が塞がる仕組みになっている。子供でなくても触りたくなる、遊び心溢れる丸窓。

1階の書斎に掛けられているのは窓ではなく鏡。木製の樽に鏡をはめ込んだオリジナルで、こちらもビレッジに住む家具職人とのコラボレーション作品。 1階の書斎に掛けられているのは窓ではなく鏡。木製の樽に鏡をはめ込んだオリジナルで、こちらもビレッジに住む家具職人とのコラボレーション作品。

自宅が完成した際、ポーラさんが自ら木を掘って作った表札。 自宅が完成した際、ポーラさんが自ら木を掘って作った表札。

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庭側の反対側の壁面は、黒、黄、赤でリズムよく塗られており、この脇を通って主玄関へと至る。この色彩のコンビネーションは、20世紀初頭にオランダで起こったデザイン様式「デ・ステイル」の中心人物であった画家ピエド・モンドリアンへのオマージュだという。

自然の恵みを受け取るデザイン

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サンパウロ州の北西部に位置するボトゥカトゥ市は標高が900mもあるが、気候は温暖湿潤で夏は暑く、冬は寒い。太陽の日射が強い反面、天気も変わりやすく雨もよく降る気候だ。この自然の恵みを享受するべく、家の背後には4000リットルの貯水塔を設置。貯められた雨水は敷地内の池、トイレ用水、5,000屬良瀉脇發梁臠召鮴蠅瓩觴木や菜園への散水用となり、水道代の大幅な節約につながっている。

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敷地内の池も工夫が凝らされている。通常、池を清潔に保つため薬品を使用するが、一切使用せず、連通管システムを活用。自然の微生物による浄化作用で池の水を清潔に保っている。そのため池は濁ることなく多様な生物が暮らしている。このシステムもビレッジ内に住む農業専門家に相談して作り上げたもので、洗濯機に使われている安価なポンプをベースに構築したため、通常の浄化システムのコストの数十分の一に抑えられたという。

ビレッジの皆が顔見知り

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このエコビレッジ「Demétria」が作られてから40年以上が経つが、昨今外部の人々を特に魅了しているのはシュタイナー教育の学校。子育ての環境と教育のために、ビレッジへ移住をしてくる人たちが格段に増えた。子供たちには自然豊かな環境でゆったり勉強をしてほしいと願い、親たちの中には通勤に2時間以上かける人もいる。

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ビレッジ内で生産されている野菜や乳製品、お米、パンなどを売る自然食品店がいくつかある。すべてバイオダイナミック農法で作られ、わざわざ遠方から買いに来るお客さんも多いとか。

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ビレッジ内で収穫された食材を使用したレストランもいくつかある。ブラジルでは一般的な量り売りのレストランに行けば、サンパウロ市内の三分の一程度の料金で、とれたての食材をふんだんに使った料理を頂くことができる。ヘルシー志向の住人が多いビレッジでは、有機野菜を中心に、ブラジルの主食であるフェイジョンと呼ばれる黒豆、キャッサバ芋の粉を炒めたファロッファ、干し肉と鶏肉をワンプレートに添えて食べるのが主流。特に野菜は甘味が豊富で、どれもシャキッとした歯ごたえが格別だ。

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■プロフィール■ シルヴィア・ササオカさん(57歳・写真右)は日系3世。StraaT(http://www.straat.com.br/)というブランドを立ち上げ、工芸職人とのコラボレーションで新しい工芸品の生産・販売を行うプロデューサーだ。日本の柳宗悦らが中心となっていた民藝運動に学び、ブラジル各地に存在する工芸品に新たな息吹を吹き込んでいる。
ポーラ・パザネーゼさん(57歳・写真左)は、ブラジルで今最も教育方法が面白いと言われる建築大学”Escola da Cidade”の創設者の一人であり、自ら建築家としても活動している。現在もビレッジ内に彼のプロジェクトがいくつか進行している。
3人の子供は既に独立しているが、定期的に実家に遊びに来ては、自然の中で充電され都会へ戻っていくという。
〜住まいについて〜 敷地面積:5,000屐延床面積:106屐2005年に5,000屬良瀉呂R$25,000(現在のレートで約75万円)で購入し新築。現在の地価は、5,000屬婆R$150,000。(現在のレートで約450万円)。建設費はR$280,000(現在のレートで840万円)。

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■サンパウロの不動産事情■ サンパウロは人口1,100万人を超え、南半球最大の都市で、南米では最大の経済都市でもある。BRICSに称されるように、ブラジルは新興国の一つとして数えられ、さらに2014年W杯、今年のリオ・オリンピックと、世界的ビッグイベントが開催もあって、不動産価格が急上昇を続けていた。しかし、大統領の弾劾や政界の汚職問題などの影響もあり、2015年の経済成長率は前年比マイナス3.8%と、金融危機以来のマイナス成長。上昇し続けてきた不動産価格も2015年を境に下落傾向にあり、特に賃貸向け住宅の在庫が増加し、家賃が年間で3%低下している。
サンパウロ市内では地域によって不動産価格、賃料が異なるが、平均すると分譲マンションでR$8,088/屐文什澆離譟璽箸婆24万円)。アッパーミドル層が居住するJardinsエリア等では、100崢度の分譲マンションでR$150万(現在のレートで約4,500万円)から、賃貸でR$8,000/月(現在のレートで24万円)程度が相場。
治安上の理由で、ミドル層以上のマンションでは、子供たちが安全に遊べるプレイグランドと呼ばれるスペースを設けたり、エクササイズのためのプールやフットサルコート、ジム機能などを備えたマンションも増えている。最近ではカメラ監視などの無人警備に加え、有人での警備に費用を割くマンションもある。サンパウロ市内の平均共益費はR$750(約22,500円)だが、警備費が占める割合が全般的に高い。