■連載/カーツさとうの週刊★秘境酒場開拓団

週刊秘境酒場★ちゃんぽんにアンパンマン!前代未聞のスナック『し(仮名)』

ちゃんぽんにアンパンマン!前代未聞のスナック『S(仮名)』の評価

オヤジス度    ★★
エルドラ度    ★★★
オヤジナリティー ★★★

「この前、ちゃんぽんのおいしいカラオケスナックを見つけたんですよ」

 飲み仲間のU氏が、呑み屋でポソッといったこのセリフに、オレはおもわず、とんねるずが昔いった

♪紅茶のおいしい〜焼肉屋〜♪

 というギャグを思い出した。

 なんか秘境の臭いがプンプンしてまいりましたよ、ちゃんぽんのおいしいスナック!

 そりゃあスナックったって乾きモノだけじゃない、手の込んだ料理を出すところもあるけど、長崎ちゃんぽんってのは珍しいよな〜。それもおいしいっつんだから。

「それが本当にうまいんですよ。ランチタイムもやってて、その名物というかメインがちゃんぽん。あと皿うどんもあって、もちろん夜も喰える」

 ちょっと行ってみたいじゃないですか、その店。

「今からいきます?」

 行こう行こう! ってことで、U氏と、その時一緒にいたT氏、そしてオレの3人(最近、このメンバーばっかだな〜)は,さっそくそのちゃんぽんのおいしいスナックに移動した。

 場所はなんつったらいいんだろ。目黒区の学芸大学と武蔵小山の中間くらいの、目黒郵便局の裏の方っていいますかね。そんなこといわれても目黒にくわしいない人はなにがなんだかわかんないだろうけど、ようするにオレがいいたいのは、繁華街でもなんでもない、まぁご近所向けの店がポツリポツリとあるような、ごく普通の生活道路みたいなトコロにあるってことですよ。

『S(仮名)』という店名を染めたテント屋根が入口の上にある、小ぎれいだけど、決して今風ではない外観。一見さんが一人で入りにくい空気はプンプンと漂っている。

 まだ時間は午後7時頃だったが、営業しているみたいだったのでドアを開け、店内を覗くと、オレはそこに信じられない光景を見た!

 店内は8名ほど座れるカウンターと、その後ろ側に16人くらいは座れそうボックス席という構成なんだけど、そのボックス席に、オレは信じられない光景をみたのだった!

『スナックに響く、正義の味方の凛々しい声!』

 そのカラオケスナックのボックス席では、まだ小学校低学年あたりと思われる子供が二人、食事をしていたのだった。

 とまどうオレに、カウンターの中からママと思われる年配女性が、

「いらっしゃ〜い!」

 ときた。

「いいんすか?」

「どうぞ、どうぞ!」

 カウンターへ促される我々。しかし、オレは子供の方が気になっている。なにしろその2人の子供、食事してるだけじゃなく、カウンター置くの上に設置してある、おそらくは通常はカラオケビデオが流れているであろうテレビモニターで、なんと『アンパンマン』を見ているのだ!

「ハヒフヘ・ホ〜ッ!!」

 バイキンマンの雄叫びが店内に響く。

 むぅ〜…ちゃんぽんのおいしいスナックは、子供がまんぱんマンを見ているスナックでもあったのか。

 ボトルを入れ、乾杯をし、水割りを一杯ノドに流し込んでも、まだとまどいの残るオレたちに、ママが呟く。

「カラオケ歌う?」

 いや、歌いたいけど、子供がアンパンマンを見てますよ。

「アンパ〜ンチ!!」

 アンパンマンは戦っている。

 いいのか、歌っても? そもそもこの子供たちはなんなんだ?

『アンパンマンの放送時間に、今落胆するオレ』

「あっ孫? いいのいいの。夕御飯食べにきてるのよ」

 ん〜なんというアットホームスナック!! そういえば今はもうないだろうけど、昔は横浜の中華街なんかでも、家族経営の店とかは店の一番奥のテーブルで子供が宿題かなんかやってたりして、そういう店がヤケにうまかったりしたもんな〜。

 それはともかく、カラオケを唄えとママにカラオケのリモコンを渡される。しかし、今すぐに歌ってしまってはアンパンマンを中断させてしまい、子供たちの楽しみを奪うことになるではないか? オレはなかなか歌が決まらないふりをして、アンパンマンが終わるまでリクエストを控えた。

 とここまで書いて今気付いた。こんな時間、アンパンマンの放送やってねェよ!! なんだよ、ビデオかなんかで見てたんだアレ。とっとと歌いれちゃえばよかったわ!

 そんな自分にアンパァ〜ンチ!! 

「そういえばお客さんたち、うちの店初めて?」

 そんなママの質問にU氏が、前にランチでちゃんぽんを食べにきたことがあるという話をする。

「あらうれしい。おいしかったでしょ、うちのちゃんぽん?」

 うなづくU氏。そこにT氏がのってくる。

「あ! でもオレってそういば、ちゃんぽんって食べたことあんまりないなぁ〜。あのリンガーハットにあるようなヤツでしょ?」

「うちのちゃんぽんとリンガーハットを一緒にしないでよ!!」

 一番いわれたくないことをいわれたかのように、烈火の如く怒るママ。

 あ〜、リンガーハットはたいしたことないですか? とオレが聞くと、

「そりゃそうよ! まぁ食べたことないけどね、リンガーハット」

 だって。

「いや、食べたオレが保証するけど、本当にうまいですよ」

 そんなU氏のセリフに満足そうなママであったが、この後、我々は子供の食事に続く、この日二度目の衝撃の事実に直面するのだった!!

『長崎は今日も雨だった…』

 U氏のちゃんぽん賛辞はつづく。

「なんていうか、本場の味っていうかね。あの味は長崎の出身の人しか作れないんじゃないすか。ねぇママ?」」

「あ、アタシは生まれも育ちも学芸大学!」

 なんじゃそりゃああああああああ!!

 オレもずっこけたが(懐かしいなぁ“ずっこけた”って語彙)、誉めてたU氏が一番ずっこけてた。しかし、長崎出身どころか長崎にすんだこともないのに、それだけうまいちゃんぽんを出すっていうのはそうとうである。

「学芸大学から一歩も外出たことないから! 渋谷も行ったことない」

 ホントかよ〜。でも親御さんは長崎出身とかなんでしょ?

「父親は学芸大学で建設会社やってた」

 じゃあなんで名物がちゃんぽんなのかな〜。世間には色々な謎があるな〜。

 結局その謎はわからないまま、呑み続けていると、

「じゃあそろそろ、うちのちゃんぽん食べる?」

 というサジェスチョン!!

「すいません、飲み過ぎてお酒だけでもうお腹パンパンです」

 今度はママの方がずっこけてました。

 以上、3人で2時間ほどの滞在で、総額約1万円の御会計。今度は行く時はお腹を空かせて、絶対にちゃんぽん食べないとな〜と心に誓い、店を出たのだった。

 子供にアンパンマン、学芸大学出身ママの絶品ちゃんぽん……スナックはやはり奥が深い…。

週刊秘境酒場★ちゃんぽんにアンパンマン!前代未聞のスナック『し(仮名)』

文/カーツさとう

コラムニスト。グルメ、旅、エアライン、サブカル、サウナ、ネコ、釣りなど幅広いジャンルに精通しており、新聞、雑誌、ラジオなどで活躍中。独特の文体でファンも多い。

■連載/カーツさとうの週刊★秘境酒場開拓団