■連載/Londonトレンド通信

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イギリスEU離脱国民投票の大きな争点が、EU各国からやってくる移民の制限だった。残留派の作家ウィル・セルフが投票前に言った「離脱に投票するのが100%レイシストだとは言わない。でも、レイシストは100%離脱に投票する」は確かにそうだろう。だが、それでも人々は離脱に投票した。

対して離脱派のキャッチフレーズが、イギリス独立党党首ナイジェル・ファラージの言った「ピープル対エスタブリッシュメント」。強力だ。たいていの人は自身をピープルの方に位置づけているはずだし、エスタブリッシュメントという言葉には反射的に反感を覚えさせるところがある。

それについてはガーディアン紙が興味深い調査を載せている。昨年の7月から11月にかけて4328人を対象に行われたという調査結果の要点は以下。

いわゆるブルーカラーは25%だったにもかかわらず、60%が自身をワーキングクラスと分類した。客観的にはミドルクラスであるのにワーキングクラスであるとした理由に、少数の裕福なエリートによって支配されている社会が自分たちに不利であることを挙げる人がいた。

自身をワーキングクラスと分類する人には、ミドルクラスと分類する人より、反移民派が多く占めた。
(ガーディアン紙の元記事はこちら

移民制限以外にも様々争点があったが、総じて経済的、政治的にもEUに残った方が安定すると言われていた。それでも人々は離脱に投票した。

ミドルクラスであるのにワーキングクラスと自身を位置づける不遇感を持った人々は、レイシストとの協調も厭わず、識者の意見さえ聞かなかった。なぜなら、識者と呼ばれる人たちは自分たちとは違うエリートやエスタブリッシュメント側の人間だから。と、こういうことだろうか。

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ドナルド・トランプがまんまと大統領候補になってしまったアメリカを、対岸の火事として眺めている場合ではなかった。足元に火がついていた。

人々を離脱に導いた立役者の1人、元ロンドン市長ボリス・ジョンソンは、デヴィッド・キャメロン首相が辞意表明した後、次期首相のトップランナーのように言われていたが出馬しなかった。

もう1人の立役者、ファラージもイギリス独立党党首の座を降りることを発表した。

思えば、レイシスト政党と目されていたイギリス独立党が大躍進を印象づけたのは、2009年、EU議会での13議席獲得だった。EU離脱決定後、そのEU議会でファラージは「私がここにきて、イギリスのEU離脱について語った時、あなた方は笑ったものだ」で始まるイタチの最後っ屁みたいな演説をしていたが、ほんとうに最後っ屁のつもりだったのか。

立役者2人が去り、振り上げたこぶしのやり場に困っている。というか、よそ様の国が民主的に選んだ道を行こうとしているだけなのに、何を怒っているのか私よ。

近隣諸国が手をつなぎあっている、それも戦時中、敵味方だった国々が共同しているEUに、そんなことは望むべくもない国からイギリスにやってきた私は、望ましい国々のありよう、壊してほしくないありようを見ていたのかもしれない。振り上げたこぶしで、自分の頭でも殴っておくのが正解だろうか。

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文/山口ゆかり

ロンドン在住フリーランスライター。日本語が読める英在住者のための映画情報サイトを運営。http://eigauk.com

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