ノンクラスプ式の入れ歯

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 歯の治療において、銀歯やセラミックなど「削って詰めて被せる治療」の先にあるのが抜歯だ。だが、歯は一度抜いてしまうと後戻りはできない。「抜かない歯医者」の異名をもつ斎藤正人院長(サイトウ歯科、東京・渋谷)が警告する。

「中には、短時間で抜歯をどんどんやったほうが、効率よく利益が上がると考えている歯科医も存在します。

 特に多いのが、破折を理由に抜歯を勧めるパターンです。これは接着する等の治療法があるのですが、手間と時間がかかるので、根管治療と同じくコストパフォーマンスが悪い。だから、歯医者はやりたがらないのです」

 奥歯を一本抜歯する場合、保険診療では260点。これに痛み止め等の処方料として約130点が加算されると合計約390点(約3900円)。患者の支払額は約1170円(3割負担、以下同)だが、抜歯には「その先の治療」がある。

 まず抜歯した両側に歯が残っていれば、保険診療で「ブリッジ」が可能になる。診療報酬の合計は4465点(4万4650円)。患者の支払額は1万3390円で済むが、ブリッジは両側の健康な歯を削るので、歯の寿命を縮める。治療によって歯を失う“負のスパイラル”に陥る可能性がある(再診料含まず)。

 もう一つの選択肢は「入れ歯」。保険診療では一つの入れ歯で2321点(2万3210円)。患者の支払額は6960円だ。

 この入れ歯にも「保険と自費」の問題が横たわる。保険診療で使用できるタイプは必ず金属製のバネが付いており、そこが虫歯の原因となりやすい。

 そうしたことから、金属製のバネがない「ノンクラスプ式入れ歯」が注目されている。軽い素材で、薄くて柔らかいため、違和感が少ないという(ただし、歯肉に食い込んで痛みが出たり、歯周炎になったケースも報告され、改良の余地は残る)。

 ノンクラスプ式入れ歯は国内で10社ほどから発売されているが、すべて自費診療扱いだ。取材班がある社の製品について全国のクリニックを調査したところ、最も安いのは東北地方の「4本分で10万円弱」、最も高いのは東京の「1本分で10万円」だった。

 仮に4本分のノンクラスプ式を作ると、東北と東京で30万円も価格差が出る計算になる。「1本10万円」は保険診療の入れ歯の15倍で、望んでも選択できる患者は限られる。

※週刊ポスト2016年7月22・29日号