自分の恥をさらして有働アナをフォローしたイノッチの男気

写真拡大

 巷には、今日も味わい深いセンテンスがあふれている。そんな中から、大人として着目したい「大人センテンス」をピックアップ。あの手この手で大人の教訓を読み取ってみよう。

第16回 微妙な空気を変えるためにあえて暴走

「いやあ、パンツって力強いな、と。意外とズボンまでいかないんですよね」by井ノ原快彦

【センテンスの生い立ち】

2016年7月15日のNHKテレビ「あさイチ」の放送中、これまでに「やらかした」経験を話す流れを受けて、同局の有働由美子アナウンサーが、大事なデート中に下痢によって引き起こされた悲劇をいきなり告白。あまりの赤裸々ぶりに、ゲストの俳優・尾上松也が「話していいの、それ」と心配するなど、スタジオが微妙な空気に包まれた。雰囲気を変えようとしたのか、続けてイノッチも自らのおもらし体験を話し始めてしまう。

【3つの大人ポイント】

・自分の恥ずかしい体験を告白することで有働アナをフォロー

・「アイドル」という立場をかなぐり捨てた大胆すぎる発言

・視聴者の苦情に対しても、自分が泥をかぶろうとする潔さ

 この日「あさイチ」を見ていた人の多くは、一瞬、何が起きたかわからず目が点になったに違いありません。私も見ていましたが、有働アナが話していることが想像の範疇をはるかに超えていて、すぐには意味がつかめませんでした。「まさか、それはさすがに……」と思いつつ冷静に聞いていると、やはり「おもらし体験」を語っています。

 事件が起きたのは、俳優の尾上松也をゲストに招いての「プレミアムトーク」の最中でした。尾上が舞台出演中にもよおして、出番が来ないうちにトイレに駆け込んだという話を受けて、有働アナがお腹を壊している日にゴルフの打ちっ放しデートに行った話を始めます。慎重に球を打ち続けたものの、その後「トイレに入った瞬間にもう一気に『ピュー』となっちゃって。汚れたんですけど、それがすごくいい下着だったから、それを洗ってもう一回はこうか、でもジメジメするか……」と話はどんどんエスカレート。

 ゲストの尾上も面食らった様子で「スタジオの空気が『え、大丈夫?』みたいになってますけど。しかも生放送なのに」などとコメント。井ノ原も「そこまでとは言ってないのよ」と、有働アナをたしなめます。有働アナは両手を顔で覆って「ごめんなさい」と謝罪。それでも、スタジオには「さて、どうしよう」という空気が流れています。本当の見どころは、それからでした。

「でもね」と話を引き取った井ノ原の口から出てきたのは、なんと自らの「おもらし体験」。冒頭のセンテンスを繰り出しつつ、自分もやったことがあると語り始めます。いちおうV6というアイドルグループの一員なのに……。そこまで言う必要はないのに……。何よりNHKの朝の番組なのに……。しかしイノッチは、この空気をどうにかしなければ、有働アナだけをさらし者にするわけにはいかない、と思ったに違いありません。

 尾上も助け船(?)を出そうとしたのか、イノッチに対して「おもらし顔ですよね」と唐突に指摘します。「はあ、そうですかねえ」と笑うイノッチ。有働アナを何とかフォローしようと暴走する一連の流れは、極めてスリリングで手に汗握らずにはいられませんでした。記憶を頼りに書いているので細かい言い回しは違うかもしれませんが、これぞ大人力というか、大人の凄みを感じさせるやり取りだったと言えるでしょう。

 世の中には、なるべく自分は泥をかぶりたくない、なるべく自分は責任を負いたくない、ということばかり考えている人が少なくありません。隣にいる仕事仲間が困っているときに、すかさず手を差し伸べることができる人がどれだけいるでしょう。誰かが迂闊な下ネタで大ケガしてしているときに、もっと過激な下ネタを繰り出せる人がどれだけいるでしょう。イノッチの並々ならぬ男気(註:男性限定の特性や概念として使っているわけではありません)に、深い感動を禁じ得ません。

 これまでにも、同番組におけるイノッチの「神対応」は、何度も話題になっています。2015年10月15日の放送は「知られざるセクハラ」がテーマ。そのときは、有働アナに対するスタッフの対応について「(有働アナが)返しがうまくて面白くしてくれるからって、縁結びとかそういうネタのときに、有働さんに全部振るのも俺はどうかと思う。この番組でも、けっこう思うこと多いよ」と発言し、彼女を涙ぐませました。

 さらに番組のエンディングでも、イノッチの大人力がふたたびさく裂。有働アナの発言に対する視聴者からのお叱りのFAXを紹介しながら、急に話を振った自分が悪かったと泥をかぶりつつ、「私からも謝らせていただきます。申し訳ありませんでした」とカメラに向かって頭を下げます。今回の“騒動”はいくつかのメディアが取り上げていましたが、おもにその場面にスポットが当たっていました。たとえば、こちら。

有働由美子アナの告白に井ノ原快彦も呆れ 苦情のファックスが届く事態(livedoor NEWS)

 このときにイノッチが発した「サービス精神がある人ってね、その上をいかなきゃいけないのかなって思っちゃうの、よく分かるんですよ」というフォローの言葉も、限りないやさしさにあふれています。有働アナはもちろん見ている側も救われた気持ちになったし、もし有働アナの高級下着についた何かが感情を持っていたとしたら、やっぱり救われた気持ちになって心から感謝したことでしょう。

 有働アナをフォローするために言ったことは誰もがわかっているので、イノッチに対して「えー、おもらししたなんて」と幻滅の気持ちを持つ人はいません。私たちも困ってる人を助けるために必要とあらば、おもらし体験のひとつやふたつ披露するぐらいの覚悟と度量は持ちたいもの。話の内容は美しくないかもしれませんが、気持ちの美しさはみんなに伝わるし、どこからかさわやかな風が吹き込んでくるに違いありません。

【今週の大人の教訓】

うっかり大人力がもれてしまう――。そういう大人を目指したい

文=citrus 石原壮一郎