「だから芝居はやめられない」――猪野広樹、役者人生を邁進中。
ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」を筆頭に、2.5次元舞台への出演が続く、今注目の若手俳優・猪野広樹。名門大学出身で留学経験アリ、特技はスポーツ全般。イケメンなうえに勉強もスポーツもできる、超絶爽やかな好青年はマジメな顔でこう言った、「自分はコンプレックスだらけなんです」。常に高い目標を掲げては、何度も壁にぶち当たりながら、芝居に立ち向かっていく――このまっすぐな姿勢が、彼をひときわ輝かせているのかもしれない。
撮影/後藤倫人 取材・文/渡邉千智(スタジオ・ハードデラックス)
ヘアメイク/大坪真人
――高校生のときに芸能界入りされたんですよね。キッカケはスカウトだったとか?
はい。高校1年生の頃、原宿の竹下通りを歩いていたときにスカウトされました。でも実は、たまたま竹下通りを歩いていたわけじゃないんです。
――というのは?
スカウトされるために竹下通りを歩いていたんです。確信犯ですよね(笑)。
――確信犯!? 当時から、芸能界に興味があったんですか?
うーん…というより、興味を持ったキッカケがスカウトだったというか…。中学3年生の頃に初めてスカウトされたんです。親に反対されて断ったんですけど、その後も声をかけていただくことがあって、そのたびに芸能界への興味のレベルが増していきました。
――なるほど…。
僕、市原隼人さんが大好きなんですけど、市原さんに会いたくてしょうがなくて、当時放送されていたドラマ『ROOKIES』(TBS系)のエキストラに応募をして、撮影に参加したんですよ。
――それは、役者になりたいからとかではなく、市原さんのファンとして?
はい、完全にファンとして(笑)。体育館に集まっている生徒たちのひとりだったんですけど、実際に生で役者さんを見て、「うわ〜! 市原隼人さんだ〜! 佐藤隆太さんだ〜! カッコいいよ〜!!」ってなりました(笑)。
――好きな役者さんを目の前にしたら興奮しちゃいますよね(笑)。
はい(笑)。で、話が冒頭に戻るんですけど、興奮冷めやらぬまま親に電話して、「これから原宿に行ってくる。そこでスカウトされなかったら、もう芸能界に入りたいとは言わない。でも、もしスカウトされたらやらせてほしい」と伝えたんです。それで友人とふたりで竹下通りを歩いていたら、今の事務所にスカウトされました。
――なんと……! しかもそこで声をかけてきたのが、市原さんも所属されている事務所だったなんて、すごく運命的です。
ホントですよね。運命を掴み取りに行きました(笑)。
――そして去年の3月の市原さん主演の舞台『最後のサムライ』で共演を果たした、と。
もう、顔合わせのときから言葉が詰まってしまうくらい緊張しました…。憧れの人がすぐそこにいるっていう怖さとか、共演するのが僕で大丈夫かなっていう不安とか、いろいろな感情がありました。
――市原さんから芝居に関してアドバイスなどをいただいたり?
市原さんは、言葉ではなく背中で語るタイプなんだと思います。普段もずっと台本を読んで集中していらして。そんな姿を見て、スゴいな、カッコいいなと思いました。
――ちなみに、市原さんのファンであることはご本人に伝えましたか?
はい、「おぉ、ありがとう!」と喜んでくださいました。エキストラに行った話をしたら、めっちゃ笑ってましたね。共演はすごく緊張したのですが、とてもうれしかったです。
――2015年に大学を卒業されるまで、学業とお仕事を両立されていたんですよね。大学ではどんな勉強をされていたんですか?
異文化間のコミュニケーションについて研究していました。ボストンへ留学にも行きましたよ。
――語学も堪能とは…。大学卒業後は芸能のお仕事に絞ると決めていたのでしょうか?
正直、めっちゃ悩みましたね。芸能界でやっていきたい、でも実力もないし就職したほうがいいんだろうか…って。大学3年生の就活の時期に、ちょうど舞台をやっていたんですけど、仕事の合間に大学に行くと、みんなスーツを着てビジネスバックを持っていて。「なんだよ〜このあいだまで私服だったじゃん」とか言って最初は笑ってたんですけど、次第にこれはガチで考えないとヤバいなって。
――就活の時期になると、みんな途端に焦りだしますから…。
だからあの時期はメンタルがやられていました。それで一度、マネージャーさんに「お仕事を辞めて、就活します」って言ったんです。
――ええっ!? マネージャーさんは何と…?
当時のマネージャーさんはもともとお芝居をやっていた方で、僕くらいの歳に夢を諦めて、マネージャーとして役者を支えようと裏方にまわったそうなんですけど、お芝居を辞めたことを後悔していたそうです。「オレがお前をちゃんと売り出すから、もうちょっと頑張ろう」と言ってくれました。
――なんとうれしい言葉……!
はい…もう号泣でしたね。頑張ろうって思いました。
――ご両親は当初、芸能活動に反対されていたんですよね? 卒業後の進路については、どのように説得されたんですか?
悩んでいるあいだは話さなかったです。僕のなかで芸能の道に進むと覚悟を決めてから、「最後は死ぬんだから、自分のやりたいことをやって散りたい」と言いました。そしたら、「自由に生きなさい、その代わり責任は自分でとりなさい」と。
――そうだったんですね。猪野さんが出演する舞台などに観に来てくれました?
はい、今となっては本当に応援してくれています。「次、この舞台観にいくからチケットよろしくね」って言われたりもしますよ(笑)。
――ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」を筆頭に、2.5次元の舞台に数多く出演されていますね。
正直なことを言ってしまうと、僕は2.5次元の舞台って苦手なほうで…。
――そうなんですか…?
なんでしょう……僕が今までお芝居で学んできたことや、僕が今持っている武器だと通用しないことが多くて、芝居を作っていく過程で戸惑ってしまうことがけっこうあるんです。今の課題は見せ方。ストレートの舞台もそうなんですが、とくに2.5次元の舞台は見せ方が難しいなと思います。
――なるほど…。
僕は、その役を突き詰めて演じるタイプなので、土台を作ったうえで自由に遊ばせるっていうのができなくて。だって…不安定じゃないですか?(笑)チャレンジしてみようと思うんですけど、難しい。難しいというか、僕の性分にはどうしても合わなくて。
――考えて作るタイプなんですもんね。
考えて、考えて、考える。その役のセリフを書き出してみたりもします。
――そういった猪野さんの芝居に対する考えや悩みを、共演者やスタッフさんに打ち明けたりしないんですか?
言いたい気持ちはあるんですけど……
――猪野さんといえば人見知り…というお話もよく聞きますが。
あ、はい…そうなんです。だけど一緒にお芝居を作るうえで、しっかり話をしないといけない場面もあると思うので、そこは変えていかなきゃいけないなと思っています。
――そういう意味で、演劇「ハイキュー!!」の現場は…
ホントにいいカンパニーです。烏野高校のメンバーはガンガン言う人が多いんです。主に、影山飛雄役の木村達成さんなんですけど(笑)。引っ込み思案な僕にも、「お前はどう思ってるんだ?」って聞いてくれるからありがたいです。
――演出のウォーリー木下さんも、役者の意見を汲み取ってくださるとか。
そうですね。ウォーリーさんはもちろん、音響さんや大道具さん、スタッフのみなさんの遊び心がハンパじゃないです。あと、僕としては、日向と影山があのふたりでよかったなとも思っています。
――それはどんなときに?
(影山役の)達成くんは自分の意見をしっかり言う反面、ちょっと気が強いところもあるんですけど、(日向翔陽役の須賀)健太くんがそれを上手く収めるんです。健太くんはすごく周りを見ている人。さすが座長。スゴいですよ、須賀健太さんは!
撮影/後藤倫人 取材・文/渡邉千智(スタジオ・ハードデラックス)
ヘアメイク/大坪真人
運命は掴みとるもの。スカウトされるために原宿へ。
――高校生のときに芸能界入りされたんですよね。キッカケはスカウトだったとか?
はい。高校1年生の頃、原宿の竹下通りを歩いていたときにスカウトされました。でも実は、たまたま竹下通りを歩いていたわけじゃないんです。
――というのは?
スカウトされるために竹下通りを歩いていたんです。確信犯ですよね(笑)。
――確信犯!? 当時から、芸能界に興味があったんですか?
うーん…というより、興味を持ったキッカケがスカウトだったというか…。中学3年生の頃に初めてスカウトされたんです。親に反対されて断ったんですけど、その後も声をかけていただくことがあって、そのたびに芸能界への興味のレベルが増していきました。
――なるほど…。
僕、市原隼人さんが大好きなんですけど、市原さんに会いたくてしょうがなくて、当時放送されていたドラマ『ROOKIES』(TBS系)のエキストラに応募をして、撮影に参加したんですよ。
――それは、役者になりたいからとかではなく、市原さんのファンとして?
はい、完全にファンとして(笑)。体育館に集まっている生徒たちのひとりだったんですけど、実際に生で役者さんを見て、「うわ〜! 市原隼人さんだ〜! 佐藤隆太さんだ〜! カッコいいよ〜!!」ってなりました(笑)。
――好きな役者さんを目の前にしたら興奮しちゃいますよね(笑)。
はい(笑)。で、話が冒頭に戻るんですけど、興奮冷めやらぬまま親に電話して、「これから原宿に行ってくる。そこでスカウトされなかったら、もう芸能界に入りたいとは言わない。でも、もしスカウトされたらやらせてほしい」と伝えたんです。それで友人とふたりで竹下通りを歩いていたら、今の事務所にスカウトされました。
――なんと……! しかもそこで声をかけてきたのが、市原さんも所属されている事務所だったなんて、すごく運命的です。
ホントですよね。運命を掴み取りに行きました(笑)。
――そして去年の3月の市原さん主演の舞台『最後のサムライ』で共演を果たした、と。
もう、顔合わせのときから言葉が詰まってしまうくらい緊張しました…。憧れの人がすぐそこにいるっていう怖さとか、共演するのが僕で大丈夫かなっていう不安とか、いろいろな感情がありました。
――市原さんから芝居に関してアドバイスなどをいただいたり?
市原さんは、言葉ではなく背中で語るタイプなんだと思います。普段もずっと台本を読んで集中していらして。そんな姿を見て、スゴいな、カッコいいなと思いました。
――ちなみに、市原さんのファンであることはご本人に伝えましたか?
はい、「おぉ、ありがとう!」と喜んでくださいました。エキストラに行った話をしたら、めっちゃ笑ってましたね。共演はすごく緊張したのですが、とてもうれしかったです。
芸能の道に進むか、就職するか。覚悟を決めたあの日。
――2015年に大学を卒業されるまで、学業とお仕事を両立されていたんですよね。大学ではどんな勉強をされていたんですか?
異文化間のコミュニケーションについて研究していました。ボストンへ留学にも行きましたよ。
――語学も堪能とは…。大学卒業後は芸能のお仕事に絞ると決めていたのでしょうか?
正直、めっちゃ悩みましたね。芸能界でやっていきたい、でも実力もないし就職したほうがいいんだろうか…って。大学3年生の就活の時期に、ちょうど舞台をやっていたんですけど、仕事の合間に大学に行くと、みんなスーツを着てビジネスバックを持っていて。「なんだよ〜このあいだまで私服だったじゃん」とか言って最初は笑ってたんですけど、次第にこれはガチで考えないとヤバいなって。
――就活の時期になると、みんな途端に焦りだしますから…。
だからあの時期はメンタルがやられていました。それで一度、マネージャーさんに「お仕事を辞めて、就活します」って言ったんです。
――ええっ!? マネージャーさんは何と…?
当時のマネージャーさんはもともとお芝居をやっていた方で、僕くらいの歳に夢を諦めて、マネージャーとして役者を支えようと裏方にまわったそうなんですけど、お芝居を辞めたことを後悔していたそうです。「オレがお前をちゃんと売り出すから、もうちょっと頑張ろう」と言ってくれました。
――なんとうれしい言葉……!
はい…もう号泣でしたね。頑張ろうって思いました。
――ご両親は当初、芸能活動に反対されていたんですよね? 卒業後の進路については、どのように説得されたんですか?
悩んでいるあいだは話さなかったです。僕のなかで芸能の道に進むと覚悟を決めてから、「最後は死ぬんだから、自分のやりたいことをやって散りたい」と言いました。そしたら、「自由に生きなさい、その代わり責任は自分でとりなさい」と。
――そうだったんですね。猪野さんが出演する舞台などに観に来てくれました?
はい、今となっては本当に応援してくれています。「次、この舞台観にいくからチケットよろしくね」って言われたりもしますよ(笑)。
考えて、考えて、考える。芝居って難しい。
――ハイパープロジェクション演劇「ハイキュー!!」を筆頭に、2.5次元の舞台に数多く出演されていますね。
正直なことを言ってしまうと、僕は2.5次元の舞台って苦手なほうで…。
――そうなんですか…?
なんでしょう……僕が今までお芝居で学んできたことや、僕が今持っている武器だと通用しないことが多くて、芝居を作っていく過程で戸惑ってしまうことがけっこうあるんです。今の課題は見せ方。ストレートの舞台もそうなんですが、とくに2.5次元の舞台は見せ方が難しいなと思います。
――なるほど…。
僕は、その役を突き詰めて演じるタイプなので、土台を作ったうえで自由に遊ばせるっていうのができなくて。だって…不安定じゃないですか?(笑)チャレンジしてみようと思うんですけど、難しい。難しいというか、僕の性分にはどうしても合わなくて。
――考えて作るタイプなんですもんね。
考えて、考えて、考える。その役のセリフを書き出してみたりもします。
――そういった猪野さんの芝居に対する考えや悩みを、共演者やスタッフさんに打ち明けたりしないんですか?
言いたい気持ちはあるんですけど……
――猪野さんといえば人見知り…というお話もよく聞きますが。
あ、はい…そうなんです。だけど一緒にお芝居を作るうえで、しっかり話をしないといけない場面もあると思うので、そこは変えていかなきゃいけないなと思っています。
――そういう意味で、演劇「ハイキュー!!」の現場は…
ホントにいいカンパニーです。烏野高校のメンバーはガンガン言う人が多いんです。主に、影山飛雄役の木村達成さんなんですけど(笑)。引っ込み思案な僕にも、「お前はどう思ってるんだ?」って聞いてくれるからありがたいです。
――演出のウォーリー木下さんも、役者の意見を汲み取ってくださるとか。
そうですね。ウォーリーさんはもちろん、音響さんや大道具さん、スタッフのみなさんの遊び心がハンパじゃないです。あと、僕としては、日向と影山があのふたりでよかったなとも思っています。
――それはどんなときに?
(影山役の)達成くんは自分の意見をしっかり言う反面、ちょっと気が強いところもあるんですけど、(日向翔陽役の須賀)健太くんがそれを上手く収めるんです。健太くんはすごく周りを見ている人。さすが座長。スゴいですよ、須賀健太さんは!