【書評】『最強の国家権力・国税庁 あなたは監視されている』大村大次郎・著/中公新書ラクレ/780円+税

【評者】森永卓郎(経済アナリスト)

 本を読む一番の楽しみは、自分の知らない世界を、文字を通じて体験することができることだ。だから、これまで書かれていなかったことを紹介するだけでも、その本には存在価値がある。本書は、これまで描かれることのなかった国税庁の内幕を伝えるものだ。

 私自身、2年余り霞が関で働いたが、国税庁というのは、特殊な官庁で、他の省庁との交流がとても少ない。その意味では、警察庁と同じだが、富裕層にとっては、警察よりも国税のほうがはるかに怖いという。国税には幅広い裁量権があり、ひとたび睨まれれば、身ぐるみ剥がされてしまうからだ。

 ベールに包まれてきた国税庁の実態を元国税調査官が、つぶさに明らかにしていくのだが、本書の一番すごいところは、舌鋒鋭く国税庁の批判をしていることだ。

 例えば、国税庁の中枢は、財務省に入省したキャリア官僚が支配しており、彼らが徴税の現場を分かっていない。だから、逆進性が強く、不公平税制の典型である消費税を推進してしまうのだと著者はいう。もちろん、財務省の逆鱗に触れる主張だ。

 それだけではない。国税職員のほとんどは退職後に税理士になるが、企業が国税OBを雇うのは、税務署との交渉役を務めて欲しいという期待があるからだ。そして、税務署の署長や副署長が辞めるときには、税務署が管内の企業に働きかけて、税務顧問として雇ってもらうのだという。

 その結果、企業と税務署の持ちつ持たれつの関係が生ずる。「癒着もいいところ」と著者は指摘する。このあっせん制度は国会で問題となって、2010年に廃止されたが、いまでも内々には行われているのだという。この他、本書は、国税職員の人事や給料、さらには脱税の具体的なテクニックまで、あらゆる分野の暴露をしている。

 私の最大の関心は、ここまで書いてしまった著者が、脱税で捕まったり、別件で逮捕されるといったことにならないかということだ。もしそうなったら、国税庁は本当に怖いところだと思う。

※週刊ポスト2016年7月22・29日号