見ル野さん。取材には作業着でいくという

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 大手電機メーカーの身売りなど、日本のもの作りが危機だといわれている。だが、「まだまだ面白い会社はたくさんありますよ!」という本が発売された。その著者に取材した。(取材・文=フリーライター・神田憲行)

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 本のタイトルは「スゲーぞニッポン! ヤバすぎ技術にむせび泣き」(小学館刊)。著者で漫画家の見ル野栄司氏が全国の独自技術を誇る会社を訪れて、その凄さを漫画レポートで伝えていく。訪問した企業は北海道から九州までの24社、大手から町工場までさまざまだ。

 見ル野さんがまず感心したのが、古野電気(兵庫県西宮市)の魚群探知機だ。同社は世界で初めて魚群探知機を実用化した会社で、現在の探知機は魚群の群れの場所だけでなく、魚の大きさ、海底の底質までわかるとか。

「まずそこまで魚群探知機が進化しているのが驚きでした。また創業者兄弟が、大学の先生から『魚はほとんど水でできているから、超音波なんかすり抜けて居場所はわからないよ』と反対されながらも成功した話にも感動しました」

 私は同社開発課の女性の「私は漁業で儲けが出て産業として継続できるよう、魚探で支援して社会貢献したいと思っています」という言葉にグッと来た。

「そこがやっぱり日本のもの作りの原点なんですよね。仕事で漁師さんと話を重ねるうちに、だんだんとこの人たちに役立つものが作りたいと考えるものなんですよ。最初から儲けようとしているとあまり上手くいかないかも」

 同社は超音波の技術を活かして、骨密度を測る機器も作っている。技術を転用して全く違うジャンルの製品を作り出せるのも、独自技術を持つ会社の強みだ。

「ヤマハ発動機(静岡県磐田市)にはモーターとかバイクとかイメージがあると思うんですが、ボートのボディのFRPという素材成型技術を活かして、プールを作っているのには驚かされました」

 たとえばウォータースライダーの滑り台や個人用プールなどである。

 開発研究過程では必ず実験や試験が必要だ。殺虫剤で有名なアース製薬(東京都千代田区)では、なんと実験用に50万匹のゴキブリを飼育している部屋があり、また女性研究員がゴキブリを素手で集めるシーンも……。

「無菌状態で飼育されているので、ゴキブリでもキレイなんだそうです。50万匹の部屋は見学に来た小学生とかにサプライズで見せたりもするそうで、僕も腰を抜かしそうになりました。漫画では描ききれなかったんですが、その部屋の掃除係は新入社員だそうです……」

 Gショックで有名なカシオ計算機は、時計ベルトの耐久性テストのひとつとしてマネキンの腕に何万回もはめて外すというのがある。人力で付けたり外したりするそうで、これも辛そうだ。

 どの現場でも見ル野さんがすっと入り込めるのは、見ル野さん自身、10年間エンジニアとして働いた経験があるからだ。

「元エンジニアの視点からいうと、究極のもの作りはシンプル・イズ・ザ・ベストなんです。何かのメカを作ろうとしたら、部品を足し算していけばたいてい作れるんです。でもそれだと部品代がかさむし、あとのメンテナンスも大変です。ぱっと見てたいした機構でなくても、それがものすごい試行錯誤の果てにたどり着いたものだとわかったときには感動しますね」

 鈴茂器工(東京都練馬区)は寿司ロボットのトップシェア企業だ。全国の持ち帰り寿司やコンビニ寿司で使われているという。

「なんということはないメカニズムに見えるんですが、ユーザーは機械の素人なので、使いやすいようにボタン類は極力少なくしてある。しかも毎日洗浄するから簡単に分解・組み立てできるようにしてある。よく考えられていると思いました」

 自分のエンジニア時代と比べて、「人はそんなに変わらない印象ですが、会社の雰囲気がだいぶ違う気がします」と見ル野さんはいう。

「華やかなんですよ。リケジョというのか、若い女性が開発にも現場にもたくさんいるし、爪切りの諏訪田製作所(新潟県三条市)は工場もユニフォームも格好良かった。社内結婚が多い会社も珍しくない。油まみれの自分の20代と全然違いますね」

 一方で「弟子」を指導する70代の現役職人がいて、昭和からの伝統もちゃんと引き継いでいる。

「もの作りの衰退とか言われてますけれど、地方に行けば、一般的な知名度は低くてもその分野の名門企業があって、地元大学生の就職人気ナンバーワンだったりします。さらに最近では中国から工場を日本に戻して高級品の製作を始めたところもあります。日本のもの作りがまた復活する手応えは僕の中にあります」