世界的に大ヒット「Pokemon Go」 【写真:Getty Images】

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私たちのカラダに潜む「ポケモン」の存在



 世界中で大流行するポケモン探し。残念ながらポケモンGOの日本版リリースの発表はいまだ届いていない。けれどサイエンスニュース的ポケモン情報ならここにあります。

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 ポケモンGOが7月6日に米国でリリースされたのを皮切りに、世界中を席巻している。そして、ポケモンはもはや人間の命運を握る「生物」になった。

 歩きながらスマホを見つめて電柱にぶつかったり、死体を発見したり、運転中に夢中になって事故を起こすトラブルももはやたわいのない話になっている。

 なんと、最高の警備レベル体制を敷いている(はずの)イスラエル官邸にもニャース(だれ?)が登場し、しかもあろうことか同国のルーベン・リブリン大統領がFacebook上でこの機密を漏らす由々しき事態すら発生している。

 もはや人々の規範を塗り替える恐るべき「生物」である。

 そして、このポケモンは私たちのなかにも潜んでいることを君は知っているか、ヒロシ君(どこのヒロシ君?)。人間の生命を左右するといっても過言ではない。

 もし、このポケモンが暴れだしたら大変な事態になることが予想される。残念ながらアプリをダウンロードしてスマートフォンをかざしても見えているのかいないのか、よくわからないほど認識の難易度は高い。

 ポケモンをキャッチできるモンスターボールをなげても捕獲できるかはわからない。というか不可だ。なぜなら、Nintendoの商標がつかないほどレアだからだ。
 
 ただし、見えづらいが実際には膨大な数のポケモンが「いる」。その数は100兆を超える。

 そう、だいぶひっぱりました。ごめんなさい。そのポケモンとはあなたの細胞の19番染色体の中にあるPokemon(ポケモン)遺伝子だ(ここから先も読んで下さい)。この遺伝子は細胞の運命を左右する重要な役割を担っている。

ポケモン遺伝子のもつ重要な情報



 ポケモン遺伝子が発見されたのは1997年。米国のコールド・スプリング・ハーバー研究所のチームが発見したときの名前は、ポケモンではなくFBI-1だった。

 その後も同じ遺伝子にLRFやOCZFと別の名前もつけられていたが、pokemonに進化したのだ。いや、研究が進んで別名をつけた研究者がいるのだ。

 名づけ親は、当時、米国メモリアルスローンケタリング癌センターに所属していたピア・パンドルフ博士。

 パンドルフ博士らは2005年に英科学誌『Nature』でポケモン遺伝子としての研究成果を発表したが、pokemonの名前は2001年から使い始めたという。

 ポケモン遺伝子はPOK erythroid myeloid ontogenic factorの頭文字周辺をとってPokemonと名づけた。5つもなじみのないややこしそうな単語が並ぶ。

 POKとはPoxvirus and zinc finger and Kruppel-type の略称でPoxvirusは疱瘡を起こすウィルス、 zinc fingerは亜鉛原子をふくんだDNAにくっつけるタンパク質、Kruppelはショウジョウバエのある遺伝子の名前。

 頭がくらくらしそうだが簡単に説明すると、これら3つの名前に由来する遺伝情報をポケモン遺伝子が持っているということ。
 
 少し詳細に書くとこうなる。ポケモン遺伝子からできてくるタンパク質は端っこにPOZドメインというのがあり、ここは他のタンパク質とくっついて大切な働きをする領域。

 反対側の端っこにはKrttppel型ジンクフィンガーというにDNAにくっつける領域がある。このタンパク質が他のタンパク質と一緒に協調して、しかもDNAにくっつくので、重要そうだとところにより解析されてきたのだ。
 
 そしてPOKに続くerythroid、myeloidはそれぞれ赤血球性、骨髄性をontogenicは個体発生に由来する単語。赤血球は骨髄の中にある細胞からできてくるので、研究の結果、このプロセスで働くといった意味からポケモンと名づけられている。

進化し続けるポケモン研究



 2005年の発表で、マウスのポケモン遺伝子は癌源遺伝子としての機能を持っていると報告された。ポケモン遺伝子のスイッチをオフにすると細胞のがん化が抑えられ、またポケモン遺伝子の働きを上昇させるとがん化が進んだ。

 また、がん化していたヒトの細胞を調べるとポケモン遺伝子から合成されるmRNAの量が増えていた。

 さて、100兆を超えるほどのポケモン遺伝子が僕らの体にあると記したのは、ほとんどの細胞が細胞一つにつきこの遺伝子を2セットもっているから。

 正確な数は定かではないが、人の体には60兆の細胞が存在するという話をよく聞く。この説をもとにすると60兆の2倍で120兆ということで膨大なポケモン遺伝子が僕らの体に存在すると推測できる。

 癌源遺伝子として表舞台にたったポケモン遺伝子の研究が進むと、別の重要な役割が明らかになってきた。

 発表された論文の時系列で記すと、ポケモン遺伝子が機能しないマウスを人為的につくると赤ちゃんは出生できず、おなかの中で致死になった。つまり、成長に不可欠な遺伝子だと判明する。

 そして、ポケモン遺伝子は骨髄細胞が赤血球やリンパ球、破骨細胞に変化するときに細胞の運命を左右する働きを持っていることも明らかになる。

 最近でも生物の教科書にも載っているほど有名な、サークル状の赤血球がバナナのような形に変化してしまう鎌状赤血球貧血症とポケモン遺伝子との関連が報告された。

 鎌状赤血球貧血症とは赤血球が鎌状(バナナ形)に変化することで酸素を運ぶ働きが低下し、貧血になりやすくなる病気だ。

 このようにポケモン遺伝子の研究は「進化」を続けている最中だ。
 
 ちなみにポケモンの他にもピカチュリンやセガのゲームを思わせるソニックヘッジホッグも存在し、遺伝子の名前はきらきらネームよりも多様なのだ。

取材・文 山下 祐司