■連載/金子浩久のEクルマ、Aクルマ

 先日、プジョー・シトロエン・ジャポンが、同社のクリーンディーゼルエンジン「BlueHDi」の日本導入を発表した。

プジョー・シトロエンのディーゼル大攻勢が始まる プジョー・シトロエンのディーゼル大攻勢が始まる

 六本木のグランドハイアット東京で行なわれたプレス発表会に赴くと、筆者は一枚のパネルの前で足が止まった。

 懐かしい。

 プジョー『504』だ。30年前に、東京で乗っていたのである。それも、2L、4気筒ディーゼルを搭載した『504D』。昔だったから、最新のクリーンディーゼルとは大違いの“ダーティ”ディーゼルである。ガラガラとうるさく、ユサユサ揺れて、煙モクモクで激しく遅かった。

プジョー・シトロエンのディーゼル大攻勢が始まる

 特に、ディーゼル版が欲しかったわけではなくて、日本へはガソリン版の『504』はごく少数の個人輸入されたものなどしかなく、西武自動車は『504D』しか入れていなかった。事情通から、その日本仕様の『504D』は香港のタクシー仕様が元になっているのだと聞いた。香港だから右ハンドルで、コスト削減と耐久性を確保するためにリアサスペンションが固定式だからというのがその理由だ。

 たとえ、香港のタクシー仕様だったとしても『504D』は素晴らしかった。特に、路面からのどんなショックも柔らかく受け止める懐の深いサスペンションが秀逸で、とても快適な乗り心地だった。身体を包み込んでくれるようなシートの優しい掛け心地と併せて、助手席や後席に乗った友人や家族たちはみんな驚き、喜んでいた。

 白金トンネルを広尾から目黒に向かって入っていったところすぐの、路面の右側に段差の大きなマンホールがあって、そこを他のクルマで踏み越えるとドスンッと大きな音がして激しく揺すられるのだが『504D』では、ストッと軽やかにイナすだけ。

 得意なのは長距離で、ルーフキャリアを取り付けてスキーやその頃夢中になっていたウインドサーフィンの往復などで本領を発揮してくれた。運転席と助手席を一番前までスライドさせ、ヘッドレストを外して背もたれを倒すとフルフラット状態になり、後席と繋がって車内に“お座敷”が出現した。

 スキーやウインドサーフィン、キャンプなどに出掛けた時に、これは重宝した。垂れ下がって見えるトランクルームも実は容量がたっぷりと確保されていたから、これもアウトドアアクティビティにはもってこいだった。ステーションワゴンやSUVなどではないセダンなのに、実用性がとても高いクルマだった。

 不満点は高速道路の追い越しなどでもどかしくなるほど遅いことと、そうした時に回転数が上がるとルームミラー越しに見えるほど黒い排煙が吐き出されるところだった。プジョー・シトロエンに限らず、近年の各メーカーのクリーンディーゼルは煙や振動、騒音などは皆無になり、30年の技術進化は著しく、隔世の感がある。

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■「BlueHDi」ディーゼルとは

「BlueHDi」ディーゼルとは、選択還元触媒にAdBlue(尿素水溶液)を用いることによってNOx(窒素酸化物)を大幅に削減するシステムだ。メルセデス・ベンツの「Bluetec」も、同じようにAdBlueを使用している。ディーゼルの要である燃料噴射ポンプが高圧化されたことや高精度化されたこともクリーン化に大きく貢献している。

プジョー・シトロエンのディーゼル大攻勢が始まる

 BMWの日本でのディーゼル導入の成功に刺激されてなのか(それにしては少し遅いくらいか)、プジョー・シトロエンの今回のディーゼル導入は大規模だ。シトロエンが『C4』に「FEEL BlueHDi」を設定して販売する。1.6L、4気筒ターボディーゼルを搭載し、なんと279万円という輸入ディーゼル車中の最廉価を付けてきた。

 同時に、プジョー『308』と『508』(2.0L版を搭載)の6モデルも発売。『308 Allure HDi』も299万円という戦略的な価格だ。シトロエンのプレミアムブランド「DS」からも『DS4 BlueHDi』と『DS4 CROSSBACK BlueHDi』それぞれに、2.0L版を搭載して発売した。一気に9モデルものディーゼルモデル投入。プジョー・シトロエンはヤル気満々なのである。

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 個人的には『508 SW(ステーションワゴン)GT BlueHDi』に最も惹かれる。大人数と大荷物を積んで長距離を行くのがディーゼルの得意とするところだからだ。30年前に『504D』でよく通っていたスキーやウインドサーフィン、キャンプなどへもう一度行ってみたい。ガラガラ、ユサユサ、モクモクのない新しい時代のディーゼルでのロングトリップは、さぞや心地良いことだろう。

 ディーゼルは遠くへ誘ってくれる。

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文/金子浩久

モータリングライター。1961年東京生まれ。新車試乗にモーターショー、クルマ紀行にと地球狭しと駆け巡っている。取材モットーは“説明よりも解釈を”。最新刊に『ユーラシア横断1万5000キロ』。

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