「Thinkstock」より

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 1000円以上もするランチが、たったワンコインで食べられる……発刊されると瞬く間に話題となり、今ではランチタイムのお供としてすっかり定番となった『ランチパスポート』。消費者はランチを安く食べることができ、掲載店は広告料を支払わずに店の宣伝をすることができ、出版社は100ページほどの本を1000円前後(註:地域によって変動あり)という高価格で売ることができる、まさに誰もが笑顔になれる夢のようなパスポートだ。

 ただ、ランパスはランチタイムの心強い味方となっている一方で、それをめぐるトラブルも頻出しているという。

 かくいう筆者もランパス愛用者なのだが、お店に行ってみると「少しおかしいのではないか」と思うことにわりとよく出くわす。

 今回はそのエピソードの一部を紹介していこう。

●お店に行ってもランチはすでに売り切れ

 これがランパスを使うなかでもっとも起きやすいトラブルではないだろうか。人気店や開店したばかりの話題店などであればなおさらのことで、ランパス利用客がいっぱいで、お店に行っても使えなかったということはざらにある。

 また、掲載されているなかには予約ができるお店もあり、それを知らずに行くとその日は予約だけで完売していたというようなこともある。そこで「せっかくだからランパスで紹介されているものとは別のメニューを頼もう」となれば話はスムーズなのだが、安くランチをしようと思ってきた手前、そう気持ちを切り替えるのも難しい。かといって、ランパスを提示するタイミングが席に案内されてからなのでお水を出された後に「すみません、それならやっぱり別のお店にします」とも言いづらい。

 結果、安くランチをするはずが、普段以上にお金を使ってしまったりすることにもなる。もちろんそれでそのお店を気に入る場合もあるが、経験からすれば、また来ようと思ったことは少ない。

●店員の態度が露骨に変わる

 これもランパスを使う人からよく聞く話だが、ランパスを出すと店員のサービスが変わったりすることもある。

 日頃よく行くお店がランパスに掲載されていたので行ってみると、同じメニューなのに味が違った、お客さんは少ないのに注文から提供までの待ち時間が長かった、店員のサービス・言葉遣いがぞんざいだった……等々、楽しみにしていたランチなのに、ガッカリさせられた経験は多い。

 店側としては「安く食事できるのだから、多少のことはとやかく言うな」と内心思うかもしれないが、そこでの接客如何がリピーター獲得につながるのだから、手を抜かずにやってほしいものである。

●オトク感がない

 格安で料理を提供しようとすれば、どうしても手間があまりかからないものになってしまうのはわかる。ただそうはいっても、掲載ページにカレーやらチャーハンやらガパオライスばかりが並んでいると、「もっと色々なものが食べられたらいいのにな」と思ってしまう。

 あるお店で、写真ではおいしそうな卵とウインナーが乗ったカレーだったのに、いざ頼んでみるとそれらがついてなかった。乗せ忘れているのではないかとおそるおそる店員に尋ねてみると、「卵とウインナーは有料のトッピングです。ちゃんと書いてありますよね?」と返答がきた。トッピングメニューの有無の記載がそれにあたるのか聞いてみたかったが、そこまでの勇気はなかった。

 また行ってみると、「期間限定ランチメニュー割引!」などとのぼりが立っていて、ランパス利用料と大差ない価格でランチを提供しているケースもある。たまたま通りがかったとか、職場や家の近くならそれでもかまわないが、ランパスを利用するために足を延ばしてやってきてそれを見たときは、「たった数十円のために何をやっているんだ」というガッカリ感は計り知れない。

●店側はランチパスポートの掲載が負担になっている?

 ここまでは利用客側の意見を出してきたが、逆に店側の立場になって考えてみよう。

 まずはランパスに掲載することのリスクだ。ランパスが使えるのは、ほとんどが11〜14時の時間帯、すなわちランチのピークタイムであり、そこにランパスを手にしたクーポン客がどっと押し寄せる。そうすると、ランパス客が標準価格で料理を食べてくれる一般客を押し出し、大きな機会損失が生まれる。また、常連客などの心理からすれば、「クーポンで安く食べられるのだから、同じメニューを高いお金を払って食べるのはバカバカしい」と思って客足が遠のいてしまう可能性もある。

 そこまでして獲得したランパス客がリピーターになるかというと、残念ながらほとんどがそうではない。彼らが求めているのは「安くランチができる場所」であり、お店そのものではない。誤解をおそれずに言ってしまえば、ランパスは決しておいしいお店を紹介する本ではないからだ。読者が料理の味うんぬんよりもコストパフォーマンスを求めてやってくるという点が、ランパスとグルメ本の決定的な違いである。

 店側にとっても、割引目当てにやってくるお客より、それとは関係なしにやってくるお客のほうがありがたい。「お客様はみな平等」とはいっても、どちらか一方を取るなら、一般客のほうを優先してしまうのが心情だろう。

 かくして、ランパス客からは先に述べたような不平不満が噴出することになる。そしてSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)や、「食べログ」といったレビューサイトで、やれ「サービスが悪い」とか、やれ「料理がおいしくない」などといった批判にさらされてしまうことになる。

 宣伝のつもりでよかれと思ってやったことが、逆に店の評判を落としてしまうことにつながってしまうのだ。

 実際にインターネットなどでランパスを使っているユーザーの声に耳を傾けてみると、「割引率が低い店が多くなった」「掲載店で行きたいお店が少なくなった」「ランパスに掲載されたお店がすぐに閉店した」など、掲載内容の悪化を嘆く意見は多い。

 似たように登場時はもてはやされた割引サービスに、共同購入型クーポンを提供するサイト「グルーポン」が挙げられるが、そこでも割引サービスが店側にとって大きな負担となり、経営が立ち行かなくなったといった問題がよく取り沙汰された。結局、グルーポンは2011年にサイトを通して販売したおせち料理がスカスカだったという事件が大きな社会問題となり、潮が引くようにブームは去った。

 しかしながらランパスに追随してか、「食べログ」でも月額540円で一部の掲載店のランチが500円で食べられる『ワンコインランチ』というサービスを昨年より始めていたり、そのほかLINEやフェイスブックなどのSNSを利用したクーポンの登場など、割引サービスはいつの時代も根強い人気を誇っている。

 競争激しい飲食業界を生き残っていくため、飲食店も少しでも店の売上を上げる効果がありそうなものなら何でも使いたいだろうが、長く商売を続けていくことを考えると、本当にお客のために必要なサービスというものをしっかり見極めていくことが必要なのかもしれない。
(文=編集部)