昨春のKKT杯バンテリンレディスにおいて、プロ8年目で悲願のツアー初優勝を飾った菊地絵理香(28歳)。昨季は前年の倍以上となる賞金8827万4415円を獲得し、賞金ランキングも初のベスト10入り(8位)を果たした。

 そして今季も、4月のスタジオアリス女子オープンで優勝。昨季からの調子をそのままキープし、早々に今季初勝利となる、ツアー通算2勝目を挙げた。ここまで予選落ちは一度もなく、賞金ランキングは7位と好位置につけている。

 プロ8年目の初優勝によって、彼女の中で何が変わったのか。そんな疑問を素直にぶつけてみると、彼女からは想定外の言葉が返ってきた。

「う〜ん、初優勝をして変わったことって、ないんですよね。すごく自信を持てるようになったかというと、状況によって(自信を)持てたり、持てなかったり、ですし......」

 ならば、ツアー2勝目ではどうだったのか。スタジオアリスではかつての世界ランキング1位、申ジエ(28歳/韓国)の追撃を振り切って勝利した。そこで得た自信は大きかったのはないだろうか。

 しかし菊地は、それさえも否定した。逆に、申ジエの持つ"自信の強さ"を思い知らされたという。

「スタジオアリスの2日目を終わったあと、ジエが『私はミスをしてもそれをカバーできる自信がある。だから、ミスが不安にならない』といったコメントをしていたのをインターネットのニュースで見たんです。そのとき、『そうか、彼女は自分のピンチをチャンスと考えているんだな』と、『だから、彼女はミスをしてもニコニコと笑っていられるんだ』ってわかりました。

 それを知って、私は最終日を前にして弱気になるというか、一歩退く気持ちになってしまいました。『ミスしても自信があるんです』なんて、本当に自信がなければ言えないこと。私はまだ、ジエみたいな、そこまでの自信は持てないなって思いました」

 確かに申ジエは、優勝争いの中で腕が縮こまりそうな場面でも、5〜6mほどの距離のパットをポンポンと入れてくる。あのパッティングの技術も、彼女の持つ"自信"の表れなのだろう。

 とはいえ、「そんな申ジエには敵わない」と、菊地が戦うことを諦めてしまったわけではない。申ジエのような確固たる自信をつけるために、その後もさまざまなチャレンジを繰り返している。

 特に今、積極的に取り組んでいるのは、ウエッジの精度を上げること。これは、菊地のキャディーを務める川口淳氏のアドバイスによるものだ。川口キャディーは一昨年、菊地が何度か初優勝のチャンスを迎えながら勝つことができなかったときに、的確なアドバイスを送って、彼女の落ちかけていたモチベーションアップにひと役買った人物でもある。

 その川口キャディーが、今季は年間を通して菊地のバッグを担ぐことになり、ふたりで今季最大のテーマをウエッジ強化に定めたという。その理由について、川口キャディーはこう説明する。

「僕は、イ・ボミ(27歳/韓国)選手のキャディーもしたことがあるのですが、彼女はウエッジがうまくて、ウエッジを持ったときの3打目は、次のパットがOKにつくことが本当に多いんです。つまり、ミドルホールでの取りこぼしのボギーが少なくて、ロングホールでのバーディーの確率が高くなる。プロのトーナメントでは、ミドルやショートホールでのバーディーはそんなに取れるものじゃないので、ロングホールでいかに伸ばせるかがスコアメイクの鍵になる。ボミ選手の強さは、そういうところにあるんです。そこで今年は、ウエッジの精度を徹底的に上げていこう、ということになったんです」

 重点的にやっていることは、100ヤード以内の距離を10ヤード、5ヤード刻みで、ウエッジで正確な距離を打っていくこと。菊地は現在、アプローチを含めると、全体の80%をウエッジの練習に費やしているという。

 菊地が語る。

「大事なのは、インパクトのフェースの入れ方です。ウエッジは、ちょっとでも薄く入るとスピンが多くかかってしまうし、逆にちょっとでも厚めに入るとスピンがかからない。だから、フェースの入り方をいつも一定にして、しかも同じ距離を打つことが重要なんです。それがきっちりできるようになれば、ミドルアイアンやユーティリティーもヘッドの入り方がよくなると、グッチさん(川口キャディー)に言われたんですが、確かに今季はアイアンのインパクトでの当たりが分厚くなって、以前よりも強い球筋になりました。

 ウエッジを持ったときに寄せられる距離が、昨年は平均して(ピンから)3mくらいだったとして、今年はそれが2mとか、1.5mにつけられれば、次のパットが入る確率が高くなります。だから、ウエッジの精度を上げれば、もうちょっと上のランクに行けるのかな、と思っています」

 昨季の賞金ランキングは、上位5位までを外国勢が占めた。菊地は日本勢のトッププレーヤーとして、その中に割って入ってほしい存在である。

 そんな周囲の期待もあってか、スタジオアリスでの優勝後のインタビューでは、「今年は国内メジャーでの優勝と、賞金女王も......」という言葉を口にした、と各メディアで報じられた。

 控えめで、自分なりに確信を持ったことだけを発言するタイプの菊地にしては、随分と大胆な発言だと思った。が、事実は少し違うようだ。

「『今年はメジャー(のタイトル)を獲りたい』とは言いましたけど、『賞金女王を狙います』みたいなことは一切言っていないのに、なぜああいう記事が出たのかわからないんです。もちろん、なれるものならなりたいですけど、たとえ獲れたとしても、今は『そうです、私が賞金女王です!』みたいな、そんなふうにはなれないし、そういうタイプでもないですから(笑)。だから、今年は(賞金女王を)狙うなんて、口に出すはずがないんです。それに、今のままでは賞金女王はまだまだ厳しいと思うので......」

 そう語った菊地。では、例えばどういうところで「厳しい」と思うのだろうか。

「まず、飛距離ですよね。今の女子ツアーは、トータルの距離も伸びていて、パワーゲームのような面が強く出てきています。例えば、ティーショットを飛ばせれば(2打目は)フラットなところから打てるけど、その手前になると(2打目が)左足下がりになる、ということがある。つまり、10〜20ヤード(ティーショットの)飛距離が違うことで、(2打目で)ピンを狙える、狙えないということになって、そこでスコアが2打も変わってしまうんです」

 だとすれば、練習では飛距離アップに重きを置くべきでは? そう考えるのが普通だろう。ゆえに、菊地もそのための努力は少なからずしている。オフにはハードな筋力トレーニングを消化。その結果、「今季は飛距離も伸びている」と川口キャディーは言う。

 実際、5月のワールドレディスチャンピオンシップ・サロンパスカップで測定されたLPGA公認のドライビングディスタンスにおいて、菊地は総平均243.9ヤードを記録。全体の17位だった。233.0ヤードで53位だった一昨年と比べれば、かなり飛距離はアップしている。

 しかし今、菊地はドライバーの飛距離を伸ばすことを第一に考えるより、まずはウエッジの確実性を高めるほうを選んだ。菊地と川口キャディーふたりの論理的な分析によって、それこそが結果を出すための早道だと判断したからだ。

「男子と比べて筋肉がつきにくい女子は、筋トレなどで、短期間で飛距離を伸ばすのは無理。だから、トレーニングに加えて、クラブなどのマッチングによって、1年で平均2ヤードも伸びれば、もうすごいことなんです。それに、無理に飛距離を伸ばそうとすると、スイングを崩す可能性があるので、そのリスクを負うことはしないほうがいい。それで今年は、ドライバーの飛距離を伸ばすことに時間を割くよりも、ウエッジのほうを磨いていこうということになったんです。

 今の理想というか目標は、どんなに調子が悪くてもベスト10に入れるような選手になりたいな、と。ボミとかテレサ(テレサ・ルー/28歳、台湾)は、調子が悪くてもベスト10を外してこないじゃないですか。そこには結局、これさえやっておけば大丈夫、というものが彼女たちにはあるからだと思うんです。私にとっては、それが、ウエッジを磨くことなんです」

 今季、メジャー制覇を目標とする菊地。最後に、一番勝ちたい試合は何か、聞いてみた。

「やっぱり日本女子オープンですね。最高峰の試合ですから。でも、日本女子プロ選手権も獲りたいんですよ。プロしか出ない試合なので。女子オープンと女子プロ、そのふたつは獲りたいなって思いますね」

 女王イ・ボミには、清水重憲キャディーという名参謀がついているのは有名だが、菊地にも川口キャディーという名キャディーがついている。そのサポートを受けて、やるべきことがより具体的かつ明快になった菊地。次なる目標もしっかりと定まっている。そこに向けて突き進む彼女の勇姿に、これからも注目である。

古屋雅章●文 text by Furuya Masaaki