連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(NHK 総合 月〜土 朝8時〜、BSプレミアム 月〜土 あさ7時30分〜)
第16週のサブタイトルからはじめて常子がとれて「『あなたの暮し』誕生す。」となった(第91話 7月18日(月)脚本:西田征史 演出:藤並英樹)。
それに続いてドラマの後に「とと姉ちゃん、とあの雑誌」という特集番組を放送、「あなたの暮し」のモチーフとなった伝説の雑誌「暮しの手帖」の数々の偉業が紹介された。
「とと姉ちゃん」の東堂先生こと片桐はいりがナビゲーターとなった特集番組はとてもわかりやすく気持ちのよいものだったので、それに沿いながら、もう少し「暮しの手帖」について捕捉していきたい。


「暮しの手帖」は、「とと姉ちゃん」の常子(高畑充希)と花山伊左次(唐沢寿明)のモチーフとなった人物・大橋鎭子(しずこ)と花森安治が、社長と編集長になってつくった雑誌だ。その前身は「スタイルブック」といった。
戦後、発売した「スタイルブック」がたくさんの類似品によってあっという間に淘汰されてしまったため、
流行として簡単に消費されないものをつくろうと勝負を賭けたのが「暮しの手帖」だ。当初は、タイトルが地味ということから、「美しい暮しの手帖」という名前だった。
特集ドラマによると、創刊の1948年(昭和23年)は、戦後初めてのファッションショーが行われた年だったそうである。

花森による雑誌の巻頭言はこうだ。

「これはあなたの手帖です
いろいろのことが ここには書きつけてある
この中の どれか 一つ二つは
すぐ今日 あなたの暮しに役立ち
せめて どれか もう一つか二つは
すぐには役に立たないように見えても
やがて こころの底ふかく沈んで
いつか あなたの暮しを変えてしまう
そんなふうな
これは あなたの暮しの手帖です」

この精神によって、「暮しの手帖」は衣食住のアイデアと随筆を中心につくられた。特集番組で紹介された
浴衣生地を使ったワンピースの作り方の場面で、肩甲骨が美しいモデルさんがすてきな浴衣ワンピを着て屋上(NHK の屋上だろうか?)で踊っていたが、「暮しの手帖」では、大橋鎭子をはじめとして、姉妹、編集部員などがモデルもつとめていた。番組で当時を振り返っていた当時の編集者・小川常緑子さんも誌面のモデルをやっていたとも語っていた。
雑誌では、ワンピースの他に応用編として、テーブルクロスやカーテンにするアイデアなども掲載されていて、これもいまでも活用できそうなお役立ち情報だ。浴衣のテーブルクロスの縫製は、大橋の著書『「暮しの手帖」とわたし』によると、大橋の母が縫製したとある。家族が一丸となってかかわっているのだ。
花森は、服のデザインもし、写真のディレクションも行い、表紙の画も描き八面六臂の大活躍をしていたし、
「暮しの手帖」に関わった誰もがかなりいろいろな仕事を手がけていたようだ。
庶民のための雑誌だから、広告をとらず、商品を自分たちで試すというのが画期的だったことは、千野帽子さんのレビューに詳しい。

特集ドラマでは、一流店のスタッフをくどいて美味しいものを家で安くつくるレシピについて紹介されていた。
この美味しい食べものを紹介する理由に、父を若くして結核で亡くした大橋が、健康に関心を強くもっていたことがあげられるなど、人間の感性や習慣がどういうふうに芽生え育まれるかがよくわかるものになっていた。
そうやって生まれたレシピ記事を、名編集者・花森が上質なものにしていく。料理が苦手な人に原稿を見せて作らせ、引っかかった部分を何度も何度も書き直すという、なにかと手間ひまをかけるていねいさには感心するばかりだ。
ビジュアルに力を入れた花森は、一方で言葉にも心を配った。「暮し」という言葉にいきつくまでにも試行錯誤し、「生活」ではなく「暮し」を選んだことには、花森の思いがこもっているのだ。

当時の雑誌の目次を見ると、映画時評やテレビ時評もある。「私の読んだ本」は書評だろうか。自分たちの手も動かし特集記事をつくりながら、様々な書き手におもしろい記事も頼んでいて、大橋は川端康成にも原稿を頼むことに成功している。これは、大橋が最初に勤めた「日本読書新聞」(ドラマの甲東出版のモチーフになったところ)での縁によるものだ。
なんといっても、大橋のお手柄は、皇室の方に原稿を依頼したことだろう。これが、皇室ご一家の方が自ら筆を執って雑誌に寄稿した最初の記事として話題を呼んだ。

「暮しの手帖」は3号目を出したところで経営が行き詰まっていた。次号で何か画期的な企画を用意しないといけないと花森に提言された大橋は、当時、庶民がまだまだ不自由な暮しを強いられている中で、皇族の方々がアメリカのマッカーサーの庇護のもとゆうゆうと暮らしているという噂を確かめるべく、果敢にも昭和天皇の姉・照宮様こと東久邇成子様に原稿依頼をした。
手紙を書いて、家を訪ね、元皇族のリアルな生活を綴った「やりくりの記」の原稿を書いてもらう。それだけでも手柄だが、最初の原稿を恐れ多くも花森がダメ出ししたため、大橋は知恵と勇気をふりしぼって書き直しまで頼んでいるのだ。『「暮しの手帖」とわたし』には苦労して掲載にこぎつけた原稿が掲載されている。
この原稿が載った5号は、電車の中吊り広告を出し、爆発的に売れ、「暮しの手帖」は息を吹きかえした。
日本人ならやっぱり気になる皇室のこと。
天皇陛下の生前退位が気になる今、ドラマ「とと姉ちゃん」でも、皇室の暮しに迫る常子をぜひ描いてほしいものだ。
(木俣冬)

参考/「とと姉ちゃん」唐沢寿明演じる編集長創刊の「暮しの手帖」全巻展示中、手にとって読めます