『AMY エイミー』なぜ彼女は27歳で悲惨な死をとげたのか

写真拡大

 第88回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞に輝いた映画『AMY エイミー』が7月16日に公開になりました。2011年に27歳の若さで亡くなったイギリスの女性歌手エイミー・ワインハウスの生涯を取り上げた作品です。

⇒【YouTube】映画「AMY エイミー」予告 http://youtu.be/VNS-xMPGccM

◆とにかく、彼女の歌を聴いてほしい

 友だちとつるむティーンエイジャーのエイミーや、スターになった途端にパパラッチに追われ生気を失っていく晩年を、実際の映像によって振り返っています。なので、他の伝記映画よりもあらゆるシーンが生々しく痛々しいのです。

 アルコールやドラッグにどっぷり浸かり奇行を繰り返した様子は、日本でも“イタすぎるセレブ”などと取り上げられていました。覚えている人も多いのでは?

 映画『AMY エイミー』は、そうしたパブリックイメージを修正しようとしています。それは、冒頭で流れる「ムーンリバー」のカバーが物語るところ。

 小節内の時間を自在に操り、音の上がり下がりにゆるく折り目をつける情緒。とんでもない才能を持つシンガー、エイミー・ワインハウス。それを全面に打ち出しているのです。

⇒【YouTube】Amy WInehouse-Moon River [Henry Mancin cover] with Lyrics http://youtu.be/rBVP2USJRv0

 誰にも負けない音楽好きで、プロとして成功するかどうかなど、どうでもよかった。それほどまでに、音楽は一体となっていた。彼女は、最高級のアマチュアだったのです。そのエッセンスが、「ムーンリバー」につまっている。

◆プロになるには、音楽を愛しすぎていた?

 けれども、抜きん出た才能と音楽への無償の愛は、現代のショービズにおいてはかえって障害となります。エイミー・ワインハウスの悲劇は、そこにあるように思うのです。

 作詞・作曲について、エイミーはこう語っています。

「自分の身に実際に起きたことしか曲にできない」。

 たとえば「Back to black」は、“アソコも乾かぬまま他の女に会いに行く”クズの彼氏(ブレイク・フィールダー・シヴィル、後に結婚するも破局)のことを歌っていますし、大ヒット曲「Rehab」は、“アル中、ヤク中おかまいなし。リハビリなんてシカトしてやる”といった内容。

 いずれも誰かから依頼を受けたのでは、生まれ得ない曲です。

⇒【YouTube】Amy Winehouse - Rehab http://youtu.be/KUmZp8pR1uc

⇒【YouTube】Amy Winehouse - Back to Black (Live Acoustic - SXSW) http://youtu.be/WbVp09E1LRg

 加えて、「私がいっしょに演奏したいと思った人とできる自由がほしい」とこぼす。それが「音楽しか能がない」と自認するエイミーの望むものでした。

 ただ、どんな世界でもビジネスとなれば、愛や情熱は後回しになるもの。ネタが不足しようが、身体の内側から湧き上がるものがなかろうが、納期までに新しい曲を納めなければならないし、予定通りにショーをこなさなければならない。レコード会社やマネジャーからもプレッシャーがかかる。

 それに耐えてこそプロなのだとしたら、そもそもプロになったのが間違いだったのかもしれません。

◆世界中が“イタいセレブ”と、おもちゃにした

 デビューして成功をおさめ人生の絶頂というときに、「自分の存在を消したい」と言って愚行に走ったエイミー。その背景に、音楽への純粋な思いが否定される現実もあったとすると、どこまでもやるせなくなってしまいます。

 本作ではクズの元夫や実父をはじめ、関わった多くの人が登場し、当時のことを語っています。もっとも、内輪話にすぎないエピソードも多く、そのシーンのたびに、こう思うのです。

「いいからエイミーの歌を聴かせろ」と。

 しかし、“イタすぎるセレブ”とレッテルを貼っておもちゃにしたエイミーは、もういません。『AMY エイミー』は、その実もフタもない事実を突きつけているのです。

『AMY エイミー』
http://amy-movie.jp/
米国アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞をはじめ、世界で30冠以上の映画賞を獲得した傑作。クズ男に執着している女性や、J-POPしか聴かない人にこそ、ぜひ観て頂きたい。
角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ新宿ほか全国ロードショー
配給:KADOKAWA

<TEXT/音楽批評・石黒隆之>