■連載/あるあるビジネス処方箋

残業が減ることを良しとしない人

「ブラック企業」批判キャンペーンはピークを過ぎたかに見えるが、今もそのようなレッテルをはられることを警戒する会社がある。そこで、社長や役員、人事部は、残業を減らそうとする。残業が多いと「ブラック企業」として批判を受けやすいからだ。ところが、最近では残業が減り、困ったり、悩んだりする人が現われている。今回は、そんな人たちを取り上げたい。職場で生きていく上できっと参考になるはずだ。

■猛烈な上司

 1日に13〜15時間ほども働く管理職が、ベンチャー企業や中小企業にはいる。私が取材すると、IT系企業などで目立つ。このタイプの多くは仕事ができることもあり、役員からはおおむね評判がいい。常に前向きで、タフでもあるから、20代の部下からも慕われる。しかし、あまりにも猛烈であり、部下がついていけないことがある。残業も多いために、部下から敬遠されることもある。他部署へ異動を願う部下もいる。
 
「ブラック企業」とレッテルをはられることを警戒する役員からは、「もう少し、20代の部下のことを考えて、仕事をしてくれ」といわれる。猛烈な管理職からすると、困ってしまうのだ。もっと仕事をしたいが、部下のことも考えないといけない。ここに、彼らの悩みがある。

■猛烈な上司にとって「便利な人」

「猛烈な上司(管理職)」は、仕事をセーブすることがなかなかできない。ワーカホリック(仕事中毒)気味ともいえる。仕事もハイレベルで、人望もある。役員からすると、頼りになるから、大きな仕事をまかされやすい。そこで、猛烈上司は、側近の部下にその仕事の一部をあてがう。20代の経験の浅い部下では時間内に終えることができない。残業が増えてしまう。

 結局、猛烈な上司が信用する30代の中堅社員がその仕事をする。上司の指示に従い、仕事をこなすが、報われることは少ない。本来は、管理職に早く昇格させるべきなのだが、多くの会社は人件費を圧縮しているために、管理職のポストは減っている。その意味では、残業を厭わない猛烈な中堅社員は認められないかもしれないのだ。悪くいえば、猛烈な上司にいいように利用されることになる。

■仕事が多い役員

 社長から信用され、仕事もできる役員もまた、残業が減ると苦しむ。役員とはいえ、自らもプレーヤーとして大量に仕事を抱える。だが、残業が増えると、社員たちに示しがつかない。日ごろ、「残業を減らすように」と号令をかけている以上、説得力がない。そこで仕事を減らそうと試みるが、責任ある立場であり、なかなか難しい。仕方なく、家に持ち帰り、仕事をしている人が少なくない。これで、報われるならばいいのだが、現在の役員以上のポストを与えられる可能性は低い。

■上昇志向の強い20代社員

 20代の社員の中にも、仕事を猛烈にしたいと願う人がいる。キャリアの浅い時期は大量の仕事をこなさないと、レベルが高くはならないことをよく心得ている。だから、残業をいとわず懸命にする。しかし、最近は残業を1日に5〜6時間もすることが難しくなりつつある。そのことに、いら立ちや不満を抱えているのだ。もっと仕事がしたいのだが、できないというジレンマである。

 経験の浅いときは、どのような仕事であれ、ある程度の量をこなすことが必要になる。あるとき、量から質へ転化する。その場合の質とは、時間内でハイレベルに仕事を終えることを意味する。はじめから、質を求めることはまずできない。その意味では、大量の仕事をしようとする若手社員の考えは正しいのだが、今はそれが難しいことも事実である。

■残業代で生活が成り立っている人

 残業代をもらうことで、生活が成り立っている人もいる。多い場合は、20万円をこえる人すらいると聞く。こうなると、残業を減らすことがなかなかできない。毎月の基本給は伸び悩む傾向にあり、大きく伸びることは今後も期待できそうにない。賞与も基本給が増えないと、伸び悩む。副業でもできればいいのかもしれないが、禁止されている会社は今も多い。残業代なくして生きていくことができない人は少数とはいえない。残業がこのまま減ってしまうことを真剣に心配しているのだ。

 最後に。残業そのものが悪なのではない。たしかに、残業をゼロにすることは難しい場合もある。法律や社会常識の範囲内ならば、認められていることも事実だ。特に批判を受けるべきなのは、残業が増え、体の具合を悪くするほどの長い時間を働かせたり、残業代を払わないことである。なお、パワハラやいじめ、セクハラ、退職強要などがある職場も「ブラック企業」といえる。これらの行為は人権侵害であり、いかなる理由があれ、許されない。誰もが心得ておきたい。

文/吉田典史

ジャーナリスト。主に経営・社会分野で記事や本を書く。近著に「会社で落ちこぼれる人の口ぐせ 抜群に出世する人の口ぐせ」(KADOKAWA/中経出版)。

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