昨年9月、西側諸国から唯一、朴槿恵大統領が北京で行われた抗日戦勝70周年記念式典に出席するなど、その蜜月ぶりが注目を集めた中韓関係ですが、ここに来て中国サイドが態度を硬化させていることが明らかになりました。メルマガ『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国韓国の真実」』によると、AIIB副総裁を務めていた韓国産業銀行会長がポストを追われ、韓国がすさまじい狼狽を見せているとのこと。中国が豹変した裏には何があるのでしょうか。

韓国中国の不機嫌にビクビクの韓国

韓国、AIIB副総裁ポスト失う ミサイル配備決定で中国の報復との臆測も

韓国はAIIBの創設メンバーとして副総裁のポストを獲得していましたが、就任からわずか4カ月でそれを失うことになりました。韓国産業銀行会長の洪起沢氏は今年2月、AIIBのリスク担当副総裁(CRO)に就任しましたが、6月27日に突然6カ月間の休職を申し出たとのことです。

表向きは大宇造船企業の粉飾事件にからみ、韓国産業銀行の会長時代に同社の放漫経営を放置してきたことが問題視され、経営モラルを問われたということですが、辞任には中国の強い意向が働いたといいます。

中国インフラ銀、韓国出身の副総裁更迭か 放漫経営放置の責任?

しかも韓国は後任の副総裁のポストも得られず、7月8日にはCROの地位は局長級に降格、そして新副総裁の座はフランスにさらわれてしまいました。韓国はAIIBに4兆ウォンも出資しているのに、中国がささいな難癖で韓国の副総裁のポストを消滅させたことは「裏切りだ」として、大騒ぎになっています。

● 韓経:【社説】ささいな難癖で韓国持分のAIIB副総裁を廃止した中国

こうした中国の嫌がらせの裏側には韓国がTHAAD(高高度ミサイル防衛システム)の配置を決定したことにあるとも言われています。韓国国防省と在韓米軍は7月8日、THAADの在韓米軍配備を正式に決定したと発表しました。これに対して、中国からは強い拒否反応が出ています。

●「韓中関係はこんなものだったのか」…THAAD配置で沸き立つ中国世論(1)

中国の環球時報などは、「THAAD配置を積極的に推進した韓国政界要人の中国入国を制限し、彼らの家族の企業を制裁しなければならない。彼らと二度と経済関係、往来をせず、中国市場進出を認めてはならない」とまで主張しているということですから、韓国がAIIBの副総裁を失った背景にこの問題があったと考えるのは自然です。

そもそも、中国にとっては経済にしろ企業活動にしろ「政治」なのです。「08憲章」で中国の民主化を訴えたことで逮捕され、現在も刑務所に入れられている劉暁波氏が2010年にノーベル賞を獲得したときは、ノルウェーからサケの輸入を中断しましたし、同様の嫌がらせは枚挙に暇がありません。

結局、中国主導のAIIBに参加するということは、つねにこうした政治リスクがつきまとうということです。中国のご機嫌を損ねれば制裁措置を取られる。これは中国の夷狄に対する「懲罰」という中華思想そのものです。1979年の中越戦争にしても、中国は「懲罰」と称してベトナムに侵攻しました。

台湾ではそうした認識があるため、AIIBには参加せず、TPP加入を検討していたわけです。

それにしても、昨年の9月には朴槿恵大統領が西側諸国として唯一、中国の「抗日戦勝70周年記念式典」に出席したほどの蜜月ぶりでしたが、それから1年もたたずに中韓関係は一気に冷え込んでしまいました。これも中国としては韓国を属国としてしか見ていなかったことの現れです。属国風情が中国に歯向かっているから、懲罰を与えているという意識でしょう。

中国政府からすれば、北朝鮮と韓国の忠誠心および友好度を競争させながら、「戦略的属国」にすることが国家戦略となっています。しかし北朝鮮はすでに半世紀以上の中国との「兄弟関係」の経験があるため、いかにして中国を操るかということの要領を得ています。

しかし韓国は日米との関係を睨みながら、その一方で中国を操る能力はありません。そのため目の前の利益ばかりに気を取られ、結局は暴走してババを掴まされるということになってしまうわけです。

現在の韓国メディアや韓国企業の狼狽ぶりはすさまじいものがあります。上記の新聞記事のように、韓国メディアは一斉にこのAIIBの副総裁ポスト消滅とTHAADへの中国の反発を伝えています。そして「あくまでTHAADは北朝鮮向けであって、中国には脅威にならないことを説明する必要がある」とも説き、中国の不興を買ったら韓国企業に大打撃となると論じています。

加えて、オランダ・ハーグ常設仲裁裁判所でフィリピンが提訴した南シナ海領有権判決が出ましたが、これについても韓国メディアは「中国に対して中立的な立場をより一層明確にしなくては」と力説しています。

● あす「南シナ海判決」…もう一度試される韓国外交「米中間等距離戦略」

韓国の「千年属国」の悲哀を目の当たりにするかのような光景です。明の時代には使節を迎える迎恩門を建てさせられ、清の時代になると明への忠誠心を見せたことで清に攻められ(丙子の役)、三田渡でホンタイジに三跪九叩頭の礼で属国となることを誓わせられ、さらに自らの過ちと清の皇帝を賛美する大清皇帝功徳碑を建立させられるなど、朝鮮半島の歴史はつねに事大によって大国に翻弄されてきたわけですが、それは現在でもまったく変わっていません。

馬英九時代の台湾も中国と接近したことで、国内産業の空洞化と経済の疲弊を招いてしまいました。その結果、ひまわり学生運動が起こり、民進党への政権交代が起こりました。蔡英文政権において、中国との関係を見直していくことになるでしょう。

一方で、日本としてもこれを他山の石としなくてはなりません。つい最近まで日本のメディアや企業も「AIIB参加に乗り遅れるな」と主張していたことは記憶に新しいところです。しかし日本は過去にも尖閣問題からレアアースを止められたり、中国に駐在する日本企業の社員が逮捕されるといった経験があり、チャイナリスクはよくわかっているはずです。

先日の参議院選挙では、改憲勢力が3分の2以上の議席を獲得しました。少し前には考えられなかったことですが、中国の軍事的脅威を認識する日本人が増えてきたことの現れでしょう。

日本の左翼勢力がいくら頑張っても、世界の大勢を読めなかったために、若者のネット世代の支持が得られなかったのも大きかったと思います。若い世代ほど自公政権に投票していたことが明らかになっています。こうなると、いずれテレビも新聞も没落せざるを得ないでしょう。

それはともかく、今回の参院選は中国でも高い関心を示しており、中国メディアも「安倍(晋三首相)をはじめとする日本の右翼勢力は『平和憲法』の9条改正を画策し、日本の軍事化を進めようとしてきた」と警戒感を露わにしていました。中国は南シナ海での日米共同軍事行動を恐れているともされています。そして参院選は中国が恐れていた通りの結果となったわけです。

● 参院選 「右翼勢力が改憲と軍事化画策」警戒強める中国メディア…背景に南シナ海で米との軍事行動恐れる?

中国の脅威がアジアで増大していくなかで、韓国ははたして対中包囲網に加わることができるのか、それとも中国と一緒に沈んでいくのか。コウモリ外交を重ねてきた朴槿恵政権ですが、そのツケとして、進んでも退いても地獄という状況が今後も続いていくことになりそうです。

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『黄文雄の「日本人に教えたい本当の歴史、中国韓国の真実」』より一部抜粋

著者/黄文雄

台湾出身の評論家・黄文雄が、歪められた日本の歴史を正し、中国韓国・台湾などアジアの最新情報を解説。歴史を見る目が変われば、いま日本周辺で何が起きているかがわかる!

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出典元:まぐまぐニュース!