先週、「夏だから! 体温上げて免疫力アップ?」で、体温を上げても免疫力が高まるわけではない理由をご紹介しました。免疫力は、言いかえれば体の抵抗力のこと。私たちの健康を害する細菌やウイルスなどの外敵をやっつける力のことです。

しかし免疫力を高めると病気になりにくいどころか、がん予防になるなんていう話を聞きますね。ネットには、免疫を鍛えてがんを撃退! と勇ましいキャッチコピーも。

免疫はだれもが持っている自分自身の力。Suits世代には、乳がんが気になるところ。免疫を鍛えて乳がんを予防できるなら……。体温を上げる、腸をキレイにする、ビタミンやミネラルをたっぷり摂る、血行をよくする運動を行なう……などなど、エクササイズ感覚の免疫トレーニング情報には興味が引かれます。本当に、免疫を鍛えると、がんを予防できるのでしょうか!? 

ちなみにネットには免疫を高める食品としてアガリクス、メシマコブ、フコイダンなどなどなどの広告もいっぱい。ここまでくると「いわゆる民間療法ね」と距離を置いて見られると思いますが、確かに、これらが免疫力を高めたという臨床的データはありません。

ビタミン力で乳がんも予防できる?

 

「免疫」の名のつく療法に近づかない

ネットで乳がんの治療法を検索すると、やはり「免疫」という名のついた見出しが数多くヒットします。「免疫療法」という見出しも。よく見るとほとんど広告ですが、画面の上位に出てくるので、つい読んでしまった人もいると思います。「がんは免疫で治す時代」「最先端技術」「夢の先進医療!」などというキャッチフレーズが踊っていますね。

「免疫療法」は簡単にいうと、がん細胞を攻撃する免疫細胞を増やすことで、がん細胞をやっつけようというものです。費用は数百万円という高額です。なにせ最先端技術です。もちろん健康保険は適用されませんから、全額自己負担です。それほど高額な免疫療法の実力はいかに? がん治療歴40年超の近藤誠先生にうかがいました。 

「免疫細胞でがん細胞を叩くという発想はナンセンスですね。免疫はウイルスや細菌など外から入ってきた異物に対して働くものです。しかし、がん細胞は異物ではありません。自分自身の細胞から生まれたものです。いわば身内です。免疫細胞は身内を叩いたりしません」

いくら免疫細胞を鍛えても、増やしても、自分自身を叩くことはできないというわけです。

 「免疫療法はアメリカなどで研究が始まったのですが、今では多くの臨床試験の結果、治療効果がないことが明らかになっています。免疫療法をかかげたクリニックは、数百万もするお金を取って効果なしですから詐欺のようなものです。これに限りませんが、先進医療と名のつくものには、くれぐれも気をつけてください」

 最後に、免疫力が高いとがんを予防できるのでしょうか? よく、「健康な人間にも毎日5000個のがん細胞が生まれ、それでもがんならないのは、免疫細胞ががん細胞をやっつけてくれているから」だと聞きます。これについて近藤先生は、

 「それは見てきたようなウソ。人間や実験動物の体内でがん細胞が生まれるところや、免疫細胞にやっつけられるところを目撃した研究者は一人もいません」

うむむむーん。最近、大注目されている「免疫力」ですが、広告に踊らされない免疫を身につけたほうがいいかもしれませんね。

乳がん、子宮頸がんの基礎知識と真実を、近藤誠先生と漫画家・倉田真由美さんがわかりやすく解説している『先生、医者代減らすと寿命が延びるって本当ですか?』(小学館刊 1100円+税)好評発売中!