ふと気づくと期限切れ。人によってこの期限をどうとらえるかには差がある(撮影/今村拓馬)

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 冷蔵庫を開けるとたいてい、期限切れの食品が一つや二つはあるだろう。表示に忠実に従うべきなのか? それともちょっとくらい過ぎても食べられる?

 東京都世田谷区の一軒家に住む女性(42)は、ホームパーティーが大好き。先日も友人たちを招き、鹿肉や熊肉などのジビエ肉やパスタを振る舞った。

 この肉は、高知の知人が「2年か3年前に」送ってくれて冷凍しておいたもの。明太子パスタに使った辛子明太子は昨年のお中元でいただいた。ダシを取るのに活用した青森県脇野沢沖産の焼き干しいわしの袋の賞味期限欄には「2021年8月1日」とあり、かなり長くもつことがわかる。

 ホムパでは調味料も大活躍したが、冷蔵庫のコリアンダー、セージ、カルダモンなどのスパイス類は、賞味期限が13〜14年に集中。オリーブペーストとケーパー塩漬け、箸休めの浅漬けを作る時に使った昆布茶は14年。花椒辣醤、甜麺醤、ホットチリソースは15年。いずれも賞味期限は大幅に切れているが、味には問題ないと判断した。幸いにも、これまで女性の手料理で腹痛を訴えた人は一人もいないという。

●卵は57日間生でOK?

「見た目は平気だから」と、かなり前に買ったものを“普通に”食べている人は多いだろう。肉や魚は「冷凍すれば長くもつ」と考えている人も結構いるのでは? では、食の安全な消費期限はいつまでなのか。

 まずは「消費期限」と「賞味期限」の違いを知ることが大事だ。食品の保蔵・加工について研究する東京農業大学元教授の徳江千代子さんによると、よく目にする消費期限、賞味期限は、一部の生鮮食品と加工食品への表示が食品表示法で義務付けられているという。消費期限は、パックされた魚や肉、総菜、弁当、サンドイッチ、サラダなど数日以内に悪くなるような傷みやすい食品に、賞味期限は卵、牛乳、納豆、調味料などの食品に付けられる。

 この期限は、食品を加工したメーカーや販売業者が、輸入食品であれば輸入業者が、「責任をもって」決めることになっている。

「消費期限は『期限を過ぎたら安全ではない』、賞味期限は『その日付までならおいしく食べられる』を意味する。どちらも未開封が原則です」(徳江さん)

 ただし、消費期限は、本当にNGな期限の3分の2ほどに設定されていることが多いので、1、2日過ぎても「直ちに危険」ではない。一方、期限内であっても、保存条件によっては腐敗や品質劣化が見られる。

 例としてわかりやすいのが、卵だ。卵は、「賞味期限」の対象食品であることが示すように、実は傷みにくい食品。

「卵の賞味期限は『生で食べられる期間』です。10度以下での保存なら、57日間生食可能という実験結果があります」(同)

 冷蔵庫は一般的に7、8度なので、理論上は冷蔵庫で約2カ月もつ。しかし、スーパーに並ぶ卵で、2カ月先の賞味期限表示のものは見かけたことがない。採取や流通が常温で行われるので、1年を通じて27度で生食可能な期間17日をもとに、賞味期限を決めているからだ。

●調理後は2時間で

 さらに、その他の条件でも期限が異なってくる。卵のベストな保存法は、・パックに入れたまま・卵のとがったほうを下に・冷蔵庫の奥に。冷蔵庫のドアポケットが定位置の人も多いだろうが、冷蔵庫の開け閉めのたびに振動がかかり、温度の上下も大きいため、劣化を速める。

「卵の丸いほうには空間があり、こちらを上にすると黄身が安定して鮮度を保てます」(同)

 卵を洗って保存は駄目。殻には小さな穴が無数にあり、雑菌が入ったり、水が卵の呼吸を止めたりするので、腐敗の原因になる。殻のヒビは菌の侵入を招く。ヒビ入り卵は、すぐ、できれば加熱して、食べよう。

 よくある勘違いは「調理したほうが長持ち」だ。賞味期限2週間の生卵をゆで卵にすると、冷蔵庫保存で4〜5日で悪くなる。半熟の卵料理は調理後だいたい2時間以内に食べたい。しっかり加熱した場合でも、冷蔵庫で保存し、その日じゅうに食べるべきだ。徳江さんは言う。

「生卵の卵白には菌を分解する酵素リゾチームが多く含まれています。これが調理で失われるため、腐敗が速くなるのです」

 このように、最大約2カ月生食可能の卵でも、様々な条件で安全な食の期限が異なるのだ。

 生産者と消費者をつなぐ食の現場ではどうなっているのだろうか。東京都内に4店舗と、パン工房、居酒屋を構えるスーパーマーケット「アキダイ」関町本店を訪ねた。

「うちでは、生鮮食品には各分野ごとに職人がいて、それぞれのプロが市場で仕入れを行い、消費期限を定めています」

 と話す社長の秋葉弘道さんによれば、野菜、果物、魚、肉といった生鮮食品の場合、「新しいものが必ずしも長くもつとは限らない」という。

●加工すれば貼り替え可

 たとえば、レタス。野菜や果物は気候の影響が大きい。好条件で収穫された仕入れ3日後のレタスと、悪条件で収穫された仕入れ当日のレタスでは、前者のほうが長もちする。野菜や果物は消費期限の表示義務はないが、プロの目で鮮度を判断し、売る順番を決めるという。

 消費者として気になるのは、古くなった魚をフライにしたり、期限切れの肉を味付けしたり、ミンチ肉にして売ったりしていないのか、ということだ。アキダイでは、フライ用、ハンバーグ用などと専用に仕入れ、使い回しはしていないという。

 だが、「どう売るか」は業者次第だ。「古くなった野菜を漬物に」「消費期限ギリギリのトンカツ用ロース肉を揚げてトンカツに。トンカツが消費期限ギリギリになったらカツ丼に」といった売り方もある。消費期限、賞味期限は加工した時点で期限を新たに設定でき、期限ラベルの貼り替えも合法的に可能だからだ。だからこそ、明示された期限は本当に安全なのかと疑問がわく。
 東京都福祉保健局によると、消費期限・賞味期限を決める検査には、細菌数などを調べる微生物試験、粘りや濁りなどを測定する理化学試験、色や匂いといった五感で調べる官能試験などがあり、どの結果を消費期限・賞味期限の「根拠」とするかはメーカーや販売業者次第だという。

「五感ほど信頼できるものはない」と同局の担当者も言うほど、現場で「五感」が重視されている場合も多い。消費者である私たちも、表示を参考にしつつ、匂いや風味などで健康的に、おいしく食べられるのかを判断する必要がありそうだ。

●菌の増殖に注意

 管理栄養士の柴田真希さんは「安全な食」を心がけるには、消費期限だけを気にするのではダメだと指摘する。

「消費期限を気にしていても、食中毒を引き起こす菌の増殖には無頓着な人が少なくない」

 柴田さんが挙げる「よく見かける危険行為」は、魚や肉を扱った手、包丁、まな板で、生で食べる食品に触れること。魚や肉が新鮮でも、食中毒の原因菌が存在していることがあり、流水で洗う程度では不十分だ。意外な盲点が、冷蔵庫や電子レンジの取っ手。魚や肉を触った手で何度も触れることで、菌が思っている以上に大量に付着している。これらが、生で食べる食品に付いてしまうという。

「常温で保存しない」「作ったらすぐに食べる」も鉄則。柴田さんは職業柄、食中毒対策には人一倍神経質だが、以前、料理本の撮影用に作ったシーフードグラタンを台所のテーブルに3時間ほど放置したところ、納豆のようにネバネバ糸を引く状態になった。気温が上がる夏場は特に注意が必要だ。

 前出の秋葉さんはこう話す。

「売る側が食の安全性に慎重になるのは当然。しかし、お客様がどう食品を扱うかも重要」

 スーパーで買った刺し身を持ち歩くか、すぐ冷蔵庫へしまうかでも大きく違う。さらに、異変を感じた時どう対応するかによっても。結局、食の安全で求められるのは、消費期限・賞味期限以上に、自己判断力なのかもしれない。(ライター・羽根田真智)

■消費期限にまつわるQ&A

【Q:魚や肉は冷凍すればいつまでも悪くならない?】
A:冷凍によって菌の増殖が抑制されるので、冷蔵庫に入れるより長持ちします。しかし、タンパク質が変性し味が落ちます。保存するなら、トレーから出してペーパータオルで水気をふきとり、ラップで小分けにし、ペーパータオルで包んで保冷剤を載せたうえで、チルドルームで保存が良いでしょう。(東京農業大学元教授・徳江千代子さん)

【Q:購入1カ月後の納豆は食べてOK?】
A:発酵食品である納豆は、放置すると納豆菌が繁殖しネバネバが増します。そのうち繁殖が弱まってネバネバが減り、茶色くなり、1カ月ほど置くと表面に白っぽいものが出てきます。これはアミノ酸で、食べても問題ありません。(徳江さん)

【Q:梅干しや漬物、味噌など保存食は何年ももつ?】
A:本来は何年ももちましたが、今は塩分濃度がぐっと下がり、保存食として成り立たなくなっています。表示された期限内に食べたほうがいいでしょう。(徳江さん)

【Q:対面販売の魚や肉に消費期限がついていませんが……】
A:魚や肉は加工され、あらかじめパックされたものが対象。魚を客の要望で刺し身にし、パックした場合は消費期限の表示義務がない。店の人にいつまでに食べたほうがいいか聞き、生ものは早めに消費しましょう。(東京都福祉保健局担当者)

AERA 2016年7月25日号