7月17日より、小暑の末候「鷹乃学習」(たかすなわちわざをならう/たかすなわちがくしゅうす)となります。鷹の幼鳥が飛ぶことを覚えるころという意です。「習」という字は、まさに雛鳥が羽をはばたかせて飛ぶ練習をする姿をあらわしたもの。人間の子供たちには夏休みの始まる頃ですが、鷹の、またその他の野鳥のルーキーたちにとっても巣立ち、独り立ちするための「学習」の季節なのです。

このように飛べるまでには時間がかかります


野鳥たちには命がけの巣立ちの、そして受難の季節です

ほとんどの野鳥は、留鳥も渡り鳥も含めて、春の訪れとともに繁殖期に入ります。春はつがい、産卵し、子育てをする季節。たとえばスズメは、産卵に5日、抱卵に12日、巣立ちまで14日ほど。スズメと同様セキレイなどの多くの小鳥は雛が孵化して2週間前後、親鳥がせっせとえさを巣に運ぶ姿が見られます。メジロは育ちが早く10日ほど、ツバメやムクドリでは3週間、大型のカラスは1か月ほどつづきます。
そして5月から6月には親鳥とほぼ同じ大きさに育った若鳥は飛行訓練をはじめ、近くまで飛んで巣に戻ったりを繰り返しつつ、飛行技術を向上させていきます。
子育てのサイクルの短い鳥たちの場合、夏までの間に2サイクルこなすつがいもあり、夏の間は飛ぶ姿もたどたどしい若鳥が、親のまねをして空中で方向転換しようとして失敗したり、枝にうまく留まれずじたばたしたり、親鳥に地上で口移しでエサを貰ったりと、かわいい姿をしばしば見ることが出来ます。
ただまた一方、捕食者のネコや野獣には、若鳥は格好の獲物。熟練した成鳥を狩るのはむずかしくても、比較的容易に捕らえられる若鳥の相当数が餌食となってしまいます。飛行訓練中に墜落して、地上でうずくまる雛鳥を見つけることが多いのもこの時期。先に飛べるようになった兄弟に押されて、まだ飛べないのに巣から墜落することもあるようです。そうした雛鳥を見かけると、つい助けてやりたくなりますが、怪我をしているようだったり明らかにまだ羽根の生えそろわない若年の雛であれば保護が必要となりますが、そうでない場合は近くで親鳥が見ていることが多いので、安易に手を出さないように気をつけましょう。往来の激しい道路や水の中などにいた場合は、近くの安全な草むらなどに移動してあげると、たいていの場合は自分で飛びたっていきます。
大型の猛禽である鷹類はもう少し大変。1月頃から求愛期が始まり、3月頃の造巣期に雄雌のつがいで木の枝などを運んで巣作りが行われます。営巣木は、杉やマツ、ヒノキなどの高い樹間にかけられます。産卵は4〜5月ごろで、普通2〜3個を数日の間を空けて産み落とします。抱卵期は35〜38日。 孵化してすぐの雛は、ヒヨコとおなじ位で、約1ヶ月かけて親鳥とおなじ位の大きさになり、飛ぶ訓練が始まります。と、このように日数を数えてみますと、実際時候通りの時期に、鷹の飛行訓練は始まることがわかります。
現代よりも鷹が身近にいただろう時代には、私たちがスズメやセキレイ、ツバメの若鳥たちの姿を見るように、若い鷹が訓練する姿を見ていたのでしょう。

時には巣から落ちてしまうことも…

時には巣から落ちてしまうことも…


鷹の「学習」のカリキュラムは?

野生の猛禽類は、孵化後まもなく親のたてる羽音を聞き、視力の向上につれ視認によってはばたく動作を刷り込まれるといわれています。
雛たちは成長するにつれて兄弟を給餌の競争相手とみなすようになり、巣の中でマントリング行動(翼と尾羽を食べ物の上に広げ、それを他の猛禽類に見られたり奪われたりしないようにする行動)もとるようになります。
また、兄弟関係の中で同種の雌雄の区別もし始めるらしく、後に繁殖期に入るときに、同種の異性とつがい形成をするための学習もこの頃にするようです。このため、野生の生物では異種間交配はめったに起きない、と言われています。
こうして約1ヶ月、親と兄弟とともに過ごした若鳥は、尾羽が充分に生えそろうと自然に飛ぶ訓練を始めますが、最初は落下したり、うまく枝をつかめずに逆さづりになったりと、失敗を繰り返して飛翔技術を習得していきます。
若い鷹はいきなり大きな獲物を捕まえられるわけではありません。うまくしたものでちょうどその頃、セミも沢山羽化しはじめ、格好の狩りのターゲットとしてとしてセミをよく捕まえるようです。他にもカブトムシやトンボなどを捕まえて、狩りのスキルを磨いていきます。こうして飛べるようになって約1〜2ヶ月で親から独立します。
よく気をつけていると今でもワシタカ類は都市部でも見かけるもので、それほど珍しくはありません。郊外の森などに出かければ、ちょうど昆虫狩りにいそしむ若い鷹の姿を見ることが出来るかもしれません。魚は生まれるとすぐ泳げるし、馬や鹿も、生後すぐ駆け回れるようになります。鷹の飛ぶために悪戦苦闘する様子は、やはり練習しないと何もできるようにならない人間が鷹に対して持つ親しみや共感の理由なのかもしれません。

さあ、訓練開始!

さあ、訓練開始!


70年生きるってホント? 「鷹の選択」に見る人のイメージ投影

さてしかし、このような共感が大きくなると、えてして過剰なイメージ投影やストーリーが仮託されることとなります。今年になり、大相撲の力士や元プロ野球選手などを介して、テレビで「鷹の選択」というストーリーが話題となりました。1 年ほど前に動画サイトにアップされてから、特に中年男性やベテランスポーツ選手のハートをわしづかみにしたという話。ご存知の方も多いでしょう。
これによると、鷹は長寿で70年間生きる。しかし、40歳になるころに、長年使い続けた武器である爪やくちばしは曲がり衰え、翼もぼさぼさとなってうまく飛ぶことすら出来ない。このままでは座して死を待つしかない。そこで鷹は高い山に登り、敢然と自らの古い爪とくちばしを折り取り、羽根を抜き去る。すると、あらたに爪とくちばしが生え、新しい羽根も生え揃い、生まれ変わった鷹は後半生を雄雄しく生きることが出来る・・・というもの。
でも、残念ながらこの話は作り話。そもそも鷹は70年も生きず、野生の場合寿命は10〜15年といわれています。また、武器であり生きる術であるくちばし、爪、羽根は常にきれいに整えられています。でなければ狩りもできませんよね。
この話は、五年ほど前に海外の企業研修のための教材として作られた話だといわれ、原題はMotivational - Rebirth of an Eagle「鷲の再生」。
「獅子は千尋の谷にわが子を突き落とし、這い上がってきたものだけを育てる」というような類の話と同じで、「勇気」や「孤高」といった、鷲や鷹の雄雄しく美しい姿に託されたイメージが生み出したストーリーなのでしょう。
獅子の話のようにフィクションとして理解した上で寓話や教訓とするのはよいのですが、えてしてよく出来た話ほどまことしやかに語られてしまうことで、生き物そのものへの誤解や無理解を生んでしまうことにもなるので、気をつけたいものです。
かつては「鷹」といえばオオタカのことでした。このオオタカは、環境省のレッドデータリストで絶滅危惧II類(VU)、「絶滅の危険が増大している種」に指定されています。貴重な繁殖地を守り、身近にその姿を見られるようになってほしいものですね。

オオタカの幼鳥。幼鳥とは思えない勇壮さ

オオタカの幼鳥。幼鳥とは思えない勇壮さ