NHK大河ドラマ「真田丸」のあす7月17日放送分に、堺の貿易商・呂宋(るそん)助左衛門(納屋助左衛門)が登場する。演じるのは、1978年の大河ドラマ「黄金の日日」に同役で主演した松本幸四郎(当時は市川染五郎)だ。じつに38年ぶりの再登場ということになる。


以前の記事でも書いたとおり、「真田丸」脚本の三谷幸喜にとって「黄金の日日」は、高校時代に夢中になり、脚本家をめざすきっかけをつくった作品だ。それだけに、助左衛門が劇中でどのように登場し、どんなセリフが与えられているのか気になるところである。

秀吉の豹変を演じてみせた緒形拳


今回の松本幸四郎のように、大河ドラマで同じ俳優が同じ役でふたたび登場することはさほど珍しいことではない。最近でいえば、一昨年放送の「軍師官兵衛」には、「秀吉」(1996年)で主演した竹中直人と、「国盗り物語」(1973年)で徳川家康を演じた寺尾聰がそれぞれ同じ役で再出演している。寺尾にいたっては41年ぶりの再登場だった。「国盗り物語」では若き日の家康だったのに対し、「軍師官兵衛」では関ヶ原の戦いへといたる老年期の家康を、60代となった寺尾は円熟味たっぷりに演じてみせた。

往年の大河の主役クラスが再登場する嚆矢となったのはおそらく、前出の「黄金の日日」だろう。同作には、大河ドラマ3作目の「太閤記」(1965年)でそれぞれ豊臣秀吉と織田信長を演じた緒形拳と高橋幸治の人気コンビが再出演した。「太閤記」では快活な若き日の秀吉を演じた緒形が、「黄金の日日」では、権力の頂点にのぼりつめて冷酷な人物へと豹変する秀吉の後半生まで演じ切ったのが印象深い。

この手の再登場には話題づくりという意味合いが強いとはいえ、大河ファンからすると緒形秀吉の例のように、かつての作品とくらべる楽しみがある。今回の「真田丸」に関していえば、つくり手から単に視聴者の歓心を買おうという思惑を超え、往年の作品への熱い思い入れが伝わってくる分、よけいに期待が高まる。

津川家康、脇役から主役へ“昇格”


秀吉あるいは信長俳優の再登場には、「黄金の日日」のあとにもいくつか例がある。信長でいえば、「おんな太閤記」(1981年)と「春日局」(1989年)の藤岡弘(現・藤岡弘、)のケースがあげられる。いずれの作品も脚本は橋田壽賀子だ。秀吉では、先述の「秀吉」「軍師官兵衛」の竹中直人のほか、「信長 KING OF ZIPANGU」(1992年)で仲村トオルの扮した秀吉が翌年の「琉球の風」にも再登場している。もっとも「琉球の風」での仲村の登場は冒頭のほんの一場面にすぎない。いわば、両作品に連続性を持たせるための起用という印象だった。

ここまであげたケースはいずれも脇役としての再登場だが、これとは逆に脇役から主役へと“昇格”した事例としては、津川雅彦扮する徳川家康があげられる。津川は「独眼竜政宗」(1987年)で家康を演じたのち、「葵 徳川三代」(2000年)で主人公のひとりとして同役に抜擢された。民放ドラマでもたびたび家康を演じた津川は、松村邦洋のモノマネの影響もあって、すっかりそのイメージが定着している。

子役からの再登場


子役として演じたのちの再登場というケースもある。たとえば小栗旬は前出の竹中直人主演の「秀吉」で少年時代の石田三成(佐吉)を演じ、さらにその13年後の「天地人」(2009年)では成長した三成を演じている。「天地人」第21回のアバンタイトルでは、小栗の「秀吉」出演時の映像も使われた。

また神木隆之介は、「義経」(2005年)で牛若と呼ばれた幼少期の源義経を演じたのに続き、「平清盛」(2012年)であらためて義経に扮している。ちなみに「平清盛」では義経の生母・常盤御前を武井咲が演じたが、武井と神木は同い年(1993年生まれ)なので何だか妙な感じがしたものだ。

ともあれ大河ドラマのファンには、そんなふうに俳優の成長を見ることも楽しみの一つだ。こちらは同一の役を演じたケースではないが、十八代中村勘三郎は、「元禄太平記」(1975年)で赤穂四十七士の最年少・大石主税(ちから)を、さらに24年後の「元禄繚乱」(1999年)ではその父親で主人公の大石内蔵助を演じている。勘三郎(当時は勘九郎)は大石内蔵助を演じた際、主税、内蔵助と来たらいずれ大河で四十七士の敵役・吉良上野介を演じたいと語ったが、残念ながら2012年に死去、この夢はかなわなかった。なお「元禄繚乱」では大石主税を、勘三郎の次男・中村七之助が演じている。

大河と朝ドラで“二足のわらじ”はありうるか?


ところで、同一人物・俳優による大河再登場というケースは戦国物に目立つ一方で、幕末物では案外少ない。せいぜい「勝海舟」(1974年)と「獅子の時代」(1980年)で西郷隆盛を演じた中村富十郎(五代目)ぐらいか。

こちらも幕末物、三谷幸喜による初の大河ドラマ「新選組!」(2004年)で新選組副長・土方歳三を演じた山本耕史が、連続テレビ小説「あさが来た」(2015〜16年)に同じ役で登場したことは記憶に新しい。大河と朝ドラは舞台となる時代がほとんど重ならないので、同じ役でまたいでの出演はかなりのレアケースといえる。

朝ドラといえば、現在放送中の「とと姉ちゃん」で天才編集者・花山伊佐次に扮する唐沢寿明は、「利家とまつ〜加賀百万石物語〜」(2002年)の主人公・前田利家を「功名が辻」(2006年)でも演じた。秀吉との関係を思えば、利家が「真田丸」に出てきてもおかしくないが、いまのところ出てくる気配はない。ひょっとすると、唐沢利家の三度目の登場もありうるのか。唐沢が三谷作品の常連であることを思えば、がぜん期待が高まる一方、さすがに朝ドラと並行しての大河出演はないのでは、という気もする。

大穴であのヒロインの再登場を期待


と、ここまで書いてきて、大河ドラマではこれほど再登場の例がありながら、いずれも男性ばかりで、女性によるケースは、私が調べたかぎりいまのところないことに気づいた。歴代大河ドラマ55作のうち女性が主人公となったのは13作あるし、脇役……たとえば秀吉の室である北政所(寧)や淀殿(茶々)あたりで、そういう例が出てきてもいいはずなのに、これは一体どういうわけだろう。

そういえば、「真田丸」で制作統括を担うNHKプロデューサーの屋敷陽太郎は、本作以前に女性が主人公の大河「江〜姫たちの戦国〜」(2011年)を手がけている。「江」の主人公・江(崇源院)は、江戸幕府二代将軍となる徳川秀忠に嫁いでおり、時代的に「真田丸」に出てきても不自然ではない(秀忠は「真田丸」にも星野源を演者に登場予定)。となると、「江」で主演を務め、先ごろ結婚したばかりの上野樹里が再登場したら、けっこう話題になるのではないか。上野の舅となったイラストレーターの和田誠は三谷幸喜との仕事も多いことだし、ありえない話ではないような。NHKさん、ここはぜひ、ご検討を!
(近藤正高)

【追記】本記事で「大河ドラマではこれほど再登場の例がありながら、いずれも男性ばかりで、女性によるケースは、私が調べたかぎりいまのところない」と書きましたが、読者の方から、『春日局』で大蔵卿局に扮した馬渕晴子が『葵
徳川三代』でも同役を演じているとのご指摘をいただきました。ここにお詫びして訂正いたします。