競技者像/前2世紀後半/アテネ国立考古学博物館/欠損した右手には金属製の葉冠を持ち、自分の頭に載せようとしていたと思われる
(c)The Hellenic Ministry of Culture and Sports− Archaeological Receipts Fund

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 4年に一度のスポーツの祭典・オリンピック。1896年にギリシャのアテネで始まり、まもなく第31回のリオデジャネイロ大会を迎えようとしている。その起源は、紀元前に古代ギリシャで行われていたオリンピア競技祭にあることはよく知られている。東京国立博物館で開催中の特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」に展示されている美術品をみていると、オリンピック本来の姿を感じることができる。東北大学大学院准教授の芳賀京子先生に、見どころや楽しみ方を聞いた。

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 古代ギリシャの特徴は、人体の美しさの追求にあります。ですから、見どころのひとつは、やはり『競技者像』でしょう。運動で鍛えられていることが伝わってくる若い身体に、初々しく控えめな微笑みを浮かべた表情は、シンボリックで、単純に格好いい。オリンピックには成人の部と若者の部がありましたから、おそらく若者の部の優勝者の像ではないかと思いますね。

 展覧会場では、全方向から見られるように展示されていますので、ぜひ、ぐるっと1周して眺めてください。後ろから見ると特に、体がきれいなS字型にしなっているのがわかります。アルカイック時代(前6世紀頃)のクーロス像などは、エジプト美術の影響を受けていて、両足に均等に体重がのっているのですが、クラシック時代(前5世紀頃)に変化が起きました。片足に軸を置き、体中線をS字にくねらせることで、人間が生きている感じが出せるようになったのです。止まっているのに動いているように、硬いはずの石がやわらかな肉体に見えるのを楽しんでください。

 紀元前6800年からローマ時代まで、ギリシャ神話の神々を軸に、7千年という長い歴史をたどるこの展覧会、それぞれの時代ごとの面白さを感じていただきたいですね。個人的には、ヘレニズム期がおすすめ。325件という膨大な作品数ですが、最後まで気を抜かずに楽しんでください。

【古代ギリシャ展で見逃せない作品】

<漁夫のフレスコ画>
前17世紀。テラ先史博物館。テラ(サントリーニ)島から出土した、エーゲ美術の象徴的な壁画。島の住民たちにとって重要だった漁撈の仲間入りを果たす習わしを生き生きと描写している

<牛頭形リュトン>
前1450年頃。イラクリオン考古学博物館。ミノス文明と呼ばれるエーゲ海に花開いた開放的な海洋文明の特徴がよく表れた古代の器の一種で、クレタ島の神殿から出土した。雄牛は権力の象徴

<アルテミス像>
前100年頃。アテネ国立考古学博物館。動物や狩猟の女神をかたどった白色大理石像。両目と髪に赤い顔料が残っており、もともとは着色されていたことがわかる。当時の若い娘に典型的な髪形にも注目したい

<ギンバイカの金冠>
前4世紀後半。テッサロニキ考古学博物館。マケドニアの墓から出土。ギリシャに自生し、薬や香料の原料とされていたギンバイカ。葉と花は美しさと若さの象徴で、そのモチーフは若い女性の墓で発見されることが多い

■特別展「古代ギリシャ―時空を超えた旅―」
東京国立博物館 平成館(上野公園):9月19日(月)まで
長崎県美術館(長崎市出島町2−1):10月14日(金)〜12月11日(日)
神戸市立博物館(神戸市中央区京町24):12月23日(金)〜2017年4月2日(日)

芳賀京子(Kyoko・Haga)
東北大学大学院准教授。アテネのイタリア国立考古学研究所大学院専門課程および東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了。専門はギリシャ・ローマ美術史。著書に『ロドス島の古代彫刻』など。

週刊朝日  2016年7月22日号