『本好きさんのための 東京 コーヒーのお店』(川口葉子:著、ダ・ヴィンチ編集部:編/KADOKAWA)

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 お気に入りのカフェで読む本は、なぜあんなにも心に沁みるのでしょう。深く、濃く、ときにほろ苦い。まるでコーヒーの薫りそのものです。そんな“わたしのカフェ”を見つけられたら…。

『本好きさんのための 東京 コーヒーのお店』(川口葉子:著、ダ・ヴィンチ編集部:編/KADOKAWA)は、そんな人たちのための “夢のカフェ”ガイド。2015年『ダ・ヴィンチ』10月号の「いつも傍らにコーヒーと本」特集を再編集し、単行本にまとめたものです。

 本書では、コーヒーと読書を楽しむための理想のお店を「店主も、居合わせたお客もコーヒー読書の良さを承知していてその時間を壊さないようにそっと守っている気配が感じられるお店」であると語っています。わが意を得たり! という方も多いのでは。ではさっそくこの本の魅力をご紹介してみたいと思います。

魅力その1:カフェクイーン川口葉子さんによる、とっておきのカフェ初公開

 著者でWEBサイト「東京カフェマニア」主宰の川口葉 子さんは、なんと30年にわたって1000軒以上のカフェを巡ってきた生粋のカフェラバー。本書では、川口さんがいままでどこにも紹介してこなかった秘蔵の8軒を書き下ろし、撮り下ろしで教えてくれます。私が特にぐっと来たカフェがこちら。

「小説に登場する料理やお菓子、作家にちなんだコーヒーの愉しみ。」

“BUNDAN COFEE&BEER”

 駒場東大前の日本近代文学館内にあるこちらのカフェでは、小説にちなんだメニューが楽しめます。なんと村上春樹著『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』の朝食も完全再現。そのほか梶井基次郎著『檸檬』パフェなど盛りだくさんで、そそられすぎます。

魅力その2:まさに読む一杯。「香りも漂ってきそう 読んで味わう、コーヒーブックガイド」

 さまざまな小説や本のなかでコーヒーが登場する箇所を抜粋した名場面集です。香り高い文章をまとめて楽しめるとは、なんと贅沢なことでしょう。

 こちらも少しご紹介しましょう。まずは1冊目。

次郎くんのやわらかい唇は、ゆっくりと私の唇をおしひらき、そこから金色の液体が流れ込んできた。目をあけなくてもわかる。確かに金色だったのだ。

 胸がドキドキするようなこの場面は、江國香織著「きんのしずく」(理論社刊『綿菓子』所収)の一節です。別の男と結婚した姉の元ボーイフレンド・次郎くんに、中1のみのりは想いを寄せる…。切ない余韻が残ります。

2冊目はあの文豪の名著から。

あなたは女がたった一人でコーヒーを呑む時の味を知っていて?」(中略)「それはね、自分を助けてくれる人はもう誰もいない、何とか一人で生きて行かなければ、という味なのよ

 こちらは三島由紀夫著『夜会服』(角川文庫)でした。ブラックコーヒーのように凛とした、大人の女性のことばです。

 ほかにも、書店主や編集者など本作りのプロによるお気に入りカフェ案内や、「大坊勝次×片岡義男」対談など読み応えは十分。大坊さんは、かつて表参道で愛されていた「大坊珈琲店」のご主人で、片岡さんはお店の常連さんだったのとのこと。 ページをめくるたびに、本と縁の深い神保町・谷根千・神楽坂などの地名も登場し、心は現地に飛んでいきそう。

 美しい本書は、静かで温かい空気が満ちています。バッグに忍ばせてお出掛けするのもいいし、おうちカフェもさらに愉しくなりそう。

 最後に、先ほどの対談から大坊さんのすてきな言葉を。

人がコーヒーを飲む時っていうのは、ここに自分がいて、ひとりになって自分のことを思う時間じゃないかと。

“本とわたし”の親密な時間。みなさんのコーヒー読書時間が、さらに香り高く豊かなものになりますように。

文=桜倉麻子