新世代の代表格と言えるグアルディオラ。マンチェスター・シティではどんなサッカーを見せてくれるだろうか。(C) Getty Images

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 20年余の年月を積み重ねてきたJリーグ。おのずから監督らしい監督は増えつつある。
 
 Jリーグ創設当時、監督というポストは選手の延長、もしくはセカンドキャリアの一環の域を出なかった。有名外国人監督なら誰でもいい、という風潮もどこかにあった。周囲が評価の仕方に戸惑っていたのである。それが昨今は、少なからず外国人監督の淘汰が進んでいる。矜持を持ってチームを率いる日本人監督が多くなっており、これはJリーグの歴史の賜だろう。
 
 しかし、日本サッカーの先駆けとなるようなリーダーはまだ現われていない。
 
 日本のサッカー監督は、岡田武史氏、西野朗氏の二人が先人として引っ張っていたのは間違いなく、その功績は称えるべきものがあるだろう。二人の戦い方は、後進にとって一つの範となっている。
 
 しかし世界のフットボール標準で言えば、想像の外にあるものではなかった。あくまでロジックによって相手の持ち味を消し、隙を突くという戦いに終始した。フットボールという一個の生き物を縦横に動かすトップリーダーではなかった。
 
 もっと言えば、革命的ではないというべきか。
 
 では、誰が常識を覆し、新しい時代を切り拓き、革命的思想を実行に移せるのか?
「監督は一つの時代を終え、新たな世代が台頭しつつある」
 
 関係者の間ではしばしば語られるが、新世代は年齢的に言えば45歳前後だろうか。ジョゼップ・グアルディオラ(45歳)、ディエゴ・シメオネ(46歳)、ルイス・エンリケ(46歳)、ジネディーヌ・ジダン(44歳)、マウリシオ・ポチェッティーノ(44歳)、アントニオ・コンテ(46歳)、ウナイ・エメリ(45歳)、フィリップ・コクー(45歳)。彼らは最新の欧州サッカー勢力で割拠する存在であり、「かつての名将たち」に世代交代を促している。
 
 もっとも、日本はまだその流れがゆるやかで、いささか遅い。いまだに、指導者としてまったく実績のない人物がビッグクラブの監督に就任するなど、監督という職業の認識にも感心できない面がある。これは日本のプロ野球の影響なのだろうが、サッカーは集団戦術が基本にあるだけに、これでは成果が出るはずはない。チームを束ねて戦わせる仕事はそんなに甘くないのだ。
 
 今のJリーグで、集団を統率し、理想を裏切らず、なおかつ選手の才能を飛翔させられている監督は、川崎フロンターレの風間八宏監督(54歳。世界の潮流と比べると少し年齢は上だが)など限られた人物だけだろう。
 
 風間監督は2012年に川崎の監督に就任して以来、着実にチームを強化してきた。ポゼッションゲームの理念を失わず、そのためのスカウティングとトレーニングは一貫している。それによって、何人もの選手を日本代表にも送り出してきた。
 
「監督の言っていることを、メモしようと思った。めっちゃいいこと言うから。そんなこと考えたの初めてやった」
 
 川崎のFW、大久保嘉人がそう語っていたことがあったが、それまで得点数の波が激しかったストライカーは3年連続得点王に輝いている。風間監督はボールプレーの質を向上させ、それを勝利に結びつけつつある。中村憲剛を熟達させ、小林悠を飛躍させ、谷口彰悟、車屋紳太郎、奈良竜樹、大島僚太ら若い選手の力を開花させ、大塚翔平を再生させつつある。
 
 風間監督はプレーヤーを心酔させられる。なぜならサッカーに対してエネルギッシュで好奇心が強いのに、考え方は一貫し、なにより言葉の説得力を持っているからだ。その壮気が選手の胸を打つ。まさに革命的と言えよう。
 
「一流監督の条件は、勝利やタイトルではない。選手の才能を見いだし、伸ばし、チームの成長につなげられるか。そしてハッとするプレーをピッチに作り出す」
 
 名将ルイス・セサル・メノッティの言葉である。
 
 20年余の歴史を持つJリーグで、今こそ、蒙を啓くような監督の登場が望まれる。
 
文:小宮良之(スポーツライター)

【著者プロフィール】
小宮良之(こみや・よしゆき)/1972年、横浜市生まれ。大学在学中にスペインのサラマンカ大に留学。2001年にバルセロナへ渡り、ジャーナリストに。選手のみならず、サッカーに全てを注ぐ男の生き様を数多く描写する。『おれは最後に笑う』(東邦出版)など多数の書籍を出版しており、2016年2月にはヘスス・スアレス氏との共著『「戦術」への挑戦状 フットボールなで斬り論』(東邦出版)を上梓した。