就労状況にある女性の57%が非正規雇用という現代。非正規雇用のなかで多くの割合を占める派遣社員という働き方。自ら望んで正社員ではなく、非正規雇用を選んでいる場合もありますが、だいたいは正社員の職に就けなかったため仕方なくというケース。しかし、派遣社員のままずるずると30代、40代を迎えている女性も少なくありません。 

出られるようで、出られない派遣スパイラル。派遣から正社員へとステップアップできずに、ずるずると職場を渡り歩いている「Tightrope walking(綱渡り)」ならぬ「Tightrope working」と言える派遣女子たち。「どうして正社員になれないのか」「派遣社員を選んでいるのか」を、彼女たちの証言から検証していこうと思います。

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今回は、都内で派遣社員をしている中山恵さん(仮名・35歳)にお話を伺いました。時おり、自虐ネタとも取れるエピソードを交えながら、明るく話す恵さん。取材先に指定したのは、職場の近くのファミレス。交通費の節約のために、職場から自宅まで徒歩で移動しているそう。そんな不安定な雇用の派遣生活が長引くにつれ、将来が不安に感じるようになってきたそうです。そんな彼女に、どうして派遣で働いているのかを聞いてみました。

恵さんは高校卒業後、韓国に留学します。まだ韓流ブームの前だったので、日本からの留学生も少なかったそう。

「大学受験に失敗したんですよ。どうしようか迷っていたら、祖父の知人が韓国にいて住める場所があると言われて。半ばやけくそ気味で留学しました」

元々の進路先としては考えていなかった留学。語学の方はできたのでしょうか?

「言葉とか全然知らなくて留学したのですが、2年間でなんとか少しなりました。でも、帰国後に使う機会がないので、あまり上達はしなかったですね」

恵さんは帰国後、留学経験を生かして大学に入学します。

「語学学校に通った後に大学に4年通ったので、6年間学生でいました」

この長い学生生活が、恵さんの生活習慣を狂わせました。

「早起きがとにかく苦手で。韓国に工場を持つ繊維会社に就職はなんとか見つかったのですが、起きられなくて。おまけに職場のビルが全面禁煙になっていちいち1階まで降りて、喫煙スペースまでいかないとタバコが吸えないのもあって、退社しました」

まさに学生気分が抜けきらないまま、社会人になったと言える恵さん。そのあとも、行き当たりばったりで仕事を決めます。

「飲食店でバイトしたり、フリーターをしていたのですが、たまたま派遣で仕事が見つかって、テレアポの仕事を始めました」

 留学経験が生かせる仕事や、事務などを希望せず、大量採用が見込めるテレアポの世界へ飛び込んだ恵さん。

「自分が入っていた金融系のテレアポの仕事が、土日祝夜も遅くても働いていいという条件だったので、稼げたんですよ。最初は審査などの受信業務だけだったんですが、段々、債権回収業務の業務も担当するようになって」 

テレアポで働いていた時は、周りにはフリーター出身者や、演劇や音楽活動をしているために変則的なシフトを希望している人も多かったといいます。恵さんの早起きが苦手という最大の弱点も、シフト制のためにカバーできました。

しかし、周りの派遣社員たちもどんどん辞めていったという過酷なテレアポの仕事。恵さんを襲ったのは、深刻なストレスでした。

「“お金返してください”って借金の取り立てだったのですが、電話口の向こうで“死ね”だなんだって言われるし。中には自殺をした債権者さんもいるという話を聞いて、段々ストレスなのか声が出なくなっちゃって。ルーティンだったので、長く続いたのですが、“お前が殺した”とか言われたりもして辞めました」

留学先の韓国では、毎日食べきれないほどの食事でもてなされたとか。しかし、恵さんの語学力では、仕事に就くにはもっと勉強が必要だそう。

受験に失敗し、留学。就職先は遅刻で退社。そんな計画性のない恵さんが、派遣先で起こしたトラブルとは? 〜その2〜に続きます。