『脳が壊れた』  鈴木大介著   新潮新書 240p 760円(税別)

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「宝物」と言っているつもりが
PCの音声認識は「あああおお」に

 健康診断を怠っている。フリーランスになってからというもの、よっぽど具合が悪くなければ医者に行くということもない。しかし、自分の健康を過信しているわけでもない。物忘れがひどければ「若年性の認知症?」と怯えるし、動悸が激しければ「心筋梗塞?」と脈を計る。手足が痺れると「脳梗塞」を疑い、しばらく様子を見たりする。

 一般的には60歳以上に多いという脳梗塞。しかし鈴木大介は41歳で発病した。

 ノンフィクション本好きなら、この鈴木大介という名前に見覚えがあるかもしれない。貧困家庭の子どもや虐待などから家出した少年少女、そのセックスワークや集団詐欺など一般社会から早い年齢で零れ落ちた人々を丁寧に取材しているルポライターである。過去、私も何冊か読んで書評をしたこともある気骨あるルポライターだ。

 社会が注目している分野であり、仕事の依頼も多く多忙を極めていた2015年の初夏、地元の消防団の消火訓練中、左手指にしびれを覚えた(ルポライターが消防団?と疑問を覚えた方もいるだろうが、これも病気の遠因になっている)。

 病気はこんな風に始まった。音声入力で原稿を書いていた鈴木がある朝、パソコンの前で仕事を始めると自分の発音を認識してくれなくなったのだ。「彼女」といっているつもりが「あおお」、「宝物」が「あああおお」。呂律が回らす激しい眩暈と視界の歪みが起こっている。これは脳が壊れたに違いない。

 予感はあったのだ。多くの依頼を受け、それに真摯に応えて書いてきた。収入も増え書きたいことを書けるようになり、また忙しさに拍車をかけ、疲労は限界に達していたのだ。過労死になるかも、と妻に万が一のときの連絡先を渡していた予感が的中してしまったのだ。

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