松山英樹(24歳)の表情が何となく明るい気がする。

 それは、まもなく開幕する今季メジャー第3戦、全英オープン(7月14日〜17日/スコットランド・ロイヤルトゥルーンGC )を前にして、リオ五輪(8月11日〜14日/ブラジル・オリンピックGC)に出場するか否か、その悩みから解放されたからだろう。

 松山は、先の世界選手権シリーズ、ブリヂストン招待(6月30日〜7月3日/オハイオ州)を戦い終えたあと、リオ五輪への不参加を表明した。JGTO(日本ゴルフツアー機構)の青木功会長の言葉どおり、「悩みに悩んで、考えに考えたあげく、出した結論だと思う」。

 理由は、ジカ熱などの身の危険をともなうものに対しての不安感が大きいというもの。しかし、それだけが問題ではなかっただろう。世界ランキングのトップ3、ジェイソン・デイ(28歳/オーストラリア)、ダスティン・ジョンソン(32歳/アメリカ)、ジョーダン・スピース(22歳/アメリカ)らも同じ理由で辞退しているけれども、そこには何か共通点があると思う。

 メジャー優勝を狙う、勝てる可能性の高い選手たちにとっては、競技者としての難しい問題がある。かつて、タイガー・ウッズ(40歳/アメリカ)がこんなことを言っていた。

「年間グランドスラムを達成することや、メジャーで優勝することが非常に難しいのは、1年間に4回のピークを迎えなければならないからです。しかもそれは、4月から8月の4カ月の間で。その間に"4つの山"を迎えるというのは、至難の業だと思う。4年に一度のオリンピックに合わせてピークを作るのも大変でしょうが、年間に4度のピークを作るのも、とても大変なことなんです」

 オリンピックの開催は、今回の全英オープンと、例年よりも前倒しされた全米プロ(7月28日〜31日/ニュージャージー州)の直後。つまり、4カ月の間にさらにピークをひとつ付け加えなければならない、ということになる。したがって、世界のトップランクの選手たちは、なおさら悩み抜いたのだと思う。

 ともあれ、難しい決断を強いられる重荷から解放されて、世界トップ3の選手をはじめ、五輪出場を辞退した選手たちには、新たに自分自身に課した責任があるはずである。

 さて、松山は全米オープン(6月16日〜19日/ペンシルベニア州)で予期せぬ予選落ちを喫した。きっとこの結果が、あらゆる面で気持ちを新たにするきっかけにもなったと思う。

 メジャー優勝を狙い、メジャーに勝つことに照準を合わせてやってきた松山。今年こそ、その準備が整ってきたと思ったら、結果的にマスターズは7位、そして全米オープンでは予選落ちの憂き目に合った。

 ゆえに彼は、この全英オープンへ挑むにあたって、同じような練習量や準備では勝てないと思ったのではないか。今回の会場となるロイヤルトゥルーンに現れた松山は、体も絞って、引き締まっていた。自らの肉体をいじめ抜いて、練習もさらに磨いて、それで"ピーク"を作ってきたのだ。

 全米オープンで予選落ちしたあと、ここにたどり着くまでの精進は、想像を絶するものがある。そこに、松山が自ら課した"新たな責任"を果たすべく、並々ならぬ決意を感じることができる。

 松山は初日、世界ランキング4位のロリー・マキロイ(27歳/北アイルランド)、同5位のバッバ・ワトソン(37歳/アメリカ)と同組となった。このペアリングからもわかるように、今や松山は、世界のメジャー大会の中でも、注目選手のひとりとなっているのだ。

 だからこそ、松山自身、自らやってきたことに自信を持って戦ってほしい。そして、今年のマスターズで松山は、「(世界ランク上位の仲間入りしたことは)それだけ成長した自分がいると思うけど、まだ自信につながらない」と語ったが、もはや「僕は、勝てる自信がある」というコメントを発してほしいと思う。

 日本人選手は、松山の他、谷原秀人(37歳)、宮里優作(36歳)、市原弘大(34歳)、塚田陽亮(31歳)、池田勇太(30歳)、小平智(26歳)、今平周吾(23歳)と、計8人が出場する。どの選手にも期待したいけれども、今回の行方がいろいろな意味で重要なものになる、松山への期待は大きい。

 これだけの準備をして、ピークを迎えたという自信が、松山を後押しするのは間違いない。あとは松山が、その自信を後ろ盾にして、最後まで自分を信じるか、いや信じ切れるかどうか、である。

三田村昌鳳●文 text by Mitamura Shoho