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●失われた23分
2016年7月29日より全国公開される怪獣巨編『シン・ゴジラ』を記念し、日本映画専門チャンネルとスカパー!4K総合にて、「ゴジラ」シリーズの第3作『キングコング対ゴジラ』が「4Kデジタルリマスター」版となって7月14日に放送される(日本映画専門チャンネルでは2Kダウンコンバート放送)。初回放送と同じ日、同じ時刻には日本映画専門チャンネル契約者限定の上映会が「TOHOシネマズ新宿」で開催。全編が4Kデジタルでリマスターされるのは、ゴジラシリーズ史上初の試みとなる。

世界に名だたる大怪獣、日本のゴジラとアメリカのキングコングが世紀の対決を繰り広げた映画『キングコング対ゴジラ』が公開されたのは1962年の8月。東宝創立30周年記念映画の一本だった。『ゴジラ』(1954年)でデビューしたゴジラは続編の『ゴジラの逆襲』(1955年)以来沈黙を続け、その間に東宝は『空の大怪獣ラドン』(1956年)、『地球防衛軍』(1957年)、『モスラ』(1961年)などの怪獣・SF映画を次々と制作していた。そんな中、1933年にアメリカのRKO社が制作して世界的にヒットした『キング・コング』を日本に招き、日米モンスターによる世紀の一戦が映画化されることになった。

北極海の氷山から目覚めたゴジラが帰巣本能によって南下し、南の島で「巨大なる魔神」と恐れられたキングコングはイカダに乗せられて北上。そして両者が日本で激突するという壮大なスケール感が、「特撮」パートの最大の魅力。自社の提供するテレビ番組の聴取率(視聴率)獲得のため、周囲の迷惑などおかまいなしに暴走するパシフィック製薬の多湖宣伝部長(有島一郎)をはじめとする、「本編(人間側の芝居)」パートの面白さも絶品である。

2大怪獣の大決戦は人々の評判を呼び、映画は大ヒット。1,255万人もの観客動員数を記録している。この好評を受け、1964年7月にはリバイバル上映が行われ、宣伝ポスターが新たな図柄で作られている。

ゴジラシリーズの人気作ゆえ、その後も再上映の機会が何度もあった『キングコング対ゴジラ』だが、1970年3月に「東宝チャンピオンまつり」のプログラムとして上映された際、ある出来事が起きた。子ども向け映画興行として、怪獣映画やアニメーション作品を数本プログラムとして上映する「チャンピオンまつり」では、過去作品を上映する際、監督(本多猪四郎)自らの編集によって「短縮版」(74分)が作られたのだが、その際にカットされた本作のネガフィルム(約23分)が行方不明になってしまったのだ。この事態により、後年になって東宝特撮映画が「ニュープリント」上映される際や、テレビ放送される時などは全長版(97分)ではなく、常に短縮版しか使われることがなかった。

80年代、熱心な特撮ファン諸氏による絶え間ない探究が続き、やがて全長版の音声(シネテープ)の音盤商品化(ドラマ版LP)が実現する。その後、16mm全長版プリントと短縮版とを組み合わせた「復元版」ビデオソフト、さらには発見されたネガフィルムを用いて鮮明になったニューマスター復元版のLD(レーザーディスク)、DVDが発売され、ようやく(完全な形ではないが)全長版の映像ソフトとして『キングコング対ゴジラ』が気軽に楽しめる時代が到来した。2014年にはゴジラ誕生60周年記念のBlu-rayソフトが発売され、新たに発見されたネガと短縮版の組み合わせ作業が行われて、従来よりも飛躍的に画質と音質が向上した。

今回の4K化プロジェクトは、このような長年にわたる『キングコング対ゴジラ』全長版"復活"への道のりがあってこそたどり着けた、東宝怪獣映画ファンの悲願ともいうべき偉業だった。Blu-ray化の後に、ずっと行方不明だった「ロール1」のネガフィルムが発見されたことで、公開当時の『キングコング対ゴジラ』全長版を完全再現するプロジェクトが始動。すべてのフィルムをコマ単位でチェックし、レストアした形で4Kデジタルリマスター化が行われ、今までの映像ソフトでは考えられないほどに、短縮版とカット部分との画面のつながりがスムーズになっている。

7月14日の放送に先がけて行われたマスコミ向け試写の直後、今回の4Kデジタルリマスター作業を行った東京現像所・清水俊文次長と、円谷英二特技監督に師事し、自身もゴジラシリーズをはじめ多くの特撮映画で手腕をふるった中野昭慶特技監督が会見を行い、それぞれの『キングコング対ゴジラ』についての思いを語った。

当時は監督助手として撮影現場を駆けまわったという中野監督は「よくぞあれだけキレイになったと驚いた。かつて、東京現像所で最初に仕上がった検定試写フィルムを再び観たような印象です。鮮明になったことでミニチュアセットなどにも奥行きが出て、いろいろな意味で映像効果が上がっている。撮影当時、細かなディテールの表現にこだわった部分が全部見えるようになった。デジタル時代は凄いと感じたし、まさにスタッフ冥利に尽きます」と感慨深い様子を見せた。

●残したかった"映画の味わい"
清水氏は、50年以上前に作られたフィルムを超高画質の4Kデジタルとしてよみがえらせるにあたり「普通、映画というものはオリジナルネガからプリントを焼いて上映するのですが、今回はオリジナルネガからダイレクトにスキャニングを行い、今までのプリントでは見えなかった細かい部分がはっきりわかるようになっています」と解説。

また、短縮版ネガとカット部分のネガをつなぎ合わせる作業について清水氏は「短縮版として残っているネガと、発見されたカット部分のネガとは、保存の環境が違っていたので、劣化の状態もまた違うんです。それを元通りに復元しようとすると、同一場面(人物のアップなど)で繋いだとき色味が合わない。それを調整するのが難しかった」と、苦労を語った。さらに「短縮版の際、フィルムを切ってつなぐ接着面を作る必要があるため、何コマかが犠牲になってしまうんです。コマが落ちている状態で普通につないでもスムーズにつながらない。そこで、何コマ抜けているのかを細かく調べながら、デジタル技術で前後のコマを参考に『失われたコマ』を作って、違和感なく動きがつながるよう作業しました」と、今回の作業がいかに緻密なものであったかを明かした。

4Kデジタル化によって画面が鮮明になったため、撮影当時の苦労を思い出したという中野監督は、キングコングと対決した大ダコのシーンを挙げ「あの大ダコは円谷(英二)さん入魂の特撮でね。本物のタコを生け簀ごと購入して、岬に建てた一畳ほどのミニチュアセットに置いて動かしたんですが、これが動かなくてね(笑)、ライトを当てたり、棒で突いたりしてなんとか苦労して撮ったんですが、今回の4K版では、そのタコのツヤや質感がすごく出ていましたね。もしも円谷さんがこれを見たらびっくりしてくれるんじゃないかな」と、画質向上をあらためて絶賛。

これを受けて清水氏は「デジタルだとどうにでも加工ができるので、キレイにしようと思えばいくらでもできてしまう。ゴジラの尻尾を吊っているピアノ線が映っていても消すことができますが、当時の映画の味わいがなくなってしまうのも困るので、そこはあえて残しています」と説明した。

『キングコング対ゴジラ』は、当時としても珍しい多重音声(4チャンネルステレオ)で収録された作品だが、今回の修復作業では音声も根本から入念なチェックを行い、最高の水準で視聴できるよう技術の粋が凝らされている。清水氏からは「ステレオ4chのシネテープが奇跡的に残っていて、ステレオ音声の再現ができました。最初にテープを再生した時、明らかにステレオ音声が左右逆に聞こえるトラックがあるんです。そこで昔のスタッフに詳しく尋ねたら、おそらくケーブルを刺し間違えた部分があったのではないか、という判断になり、混ざっている音をいったんバラバラにして並べ直し、当時のスタッフが望んでいた正確なバランスの音声として再現しました」との説明があった。

最後に記者から「今後、4Kデジタルリマスターしてほしい東宝特撮映画は何か」と尋ねられた中野監督は、自身の演出作『連合艦隊』(1981年)を挙げ「ミニチュアワークにどうやったらリアリティを持たせられるか、僕なりに考えて作ったフィルム時代の映画。それが4Kになったらどうなるか? 観ていられないものになるか、それともさらなる勢いが出るのか、そういった部分をぜひ確かめてみたい」と期待をこめて熱く語った。

「スカパー! 4K 総合」での視聴はスカパー!4K公式サイトにて。日本映画専門チャンネルでは2Kダウンコンバートでの放送で、視聴方法の詳細は視聴ナビに掲載されている。なお、7月29日19時45分からはこれらのチャンネルで同じくサイマル(同時)再放送が実施される。

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(秋田英夫)