子供とのお風呂タイムは「労働」です【シングルマザー、家を買う/54章】
<シングルマザー、家を買う/54章>

 バツイチ、2人の子持ち、仕事はフリーランス……。そんな崖っぷちのシングルマザーが、すべてのシングルマザー&予備軍の役に立つ話や、役に立たない話を綴ります。

 最近、私には切なる願いがある。それは、お風呂にゆっくり入ることだ。

 ライターというお仕事は、PCに向かって原稿を書く時間が多いため、必然的に座ってばかりとなる。適度な運動などする暇があったら締め切りと戦うことを選んでいる我々にとって、腰痛や坐骨神経痛、ぎっくり腰などは職業病みたいなものだ。

◆子どもとのお風呂は“癒し”じゃない

 ある日、時間が少し空いたのでマッサージに足を運ぶと、施術士の方にかなり強めに「毎日お風呂にちゃんと浸かってください」と忠告された。「それくらいならできますよね!?」と半ギレで言われ、私は思わず頷いたが、どんなことよりも、これが本当に難題だということを、この施術士さんは知らない。

 子どもがいる家庭ならわかってもらえるだろうが、子供と一緒にお風呂に入ることは、癒しでも何でもない。作業だ。控えめに言ってもかなりの重労働。しかも我が家の娘と息子は、普段も元気いっぱいなのに、お風呂になるとその元気度が3倍ほどあがるのだ。まさに水を得た魚とはこういうことだろう。……人だけど。

◆謎の“お風呂アイドル”になる娘

 小学3年生になった娘は、裸になり、お風呂に入った瞬間、なぜか「星野 星」というアイドルになる。

 いま、「?」と思った人! その感覚が正解です。

 我が娘は、裸になると星野 星というアイドルに変身すると言い張るのだ。しかも、持ち歌はかなり日常に密着したポップチューンばかり。シャワーを右手で持ち、マイクに見立てたシャボン玉を吹く棒を左手に持ち、シャワーを出して水芸をしながら歌い上げるというど派手なステージングを見せてくるのだ。こんな演出、かくし芸でも見たことがない!(そりゃそうだ)

 そして、普段は恥ずかしがりやな娘のはずなのに、お風呂に入った瞬間、「わたしはかわいい〜、ほしの〜ほし〜!」「日本ではいちばんにはなれないけど〜吉田家ではいちばんかわいい〜」と歌謡曲テイストたっぷりのメロディーに乗せて歌い上げる。

 まず、8歳ですでに、日本では一番になれないけど、この3人家族の中ではいちばんかわいいと、最小限の場所で勝負をしている所がリアリズムに溢れている。さすが、現代っ子だ。

◆強制的コール&レスポンス

 もちろん、そんなポップチューンが流れ出したらヒールの歩く音にもリズムをとる息子が黙っちゃいない。合いの手を入れては「フォー!」「ワー!」と叫び出し、曲が終わるごとに盛大な拍手で盛り上げる。なんて出来た客なんだろう。

 それを、足も伸ばせない小さなお風呂のなかで、3人が入った状態で繰り広げられるのだ。

 そのステージ横となるお風呂のすみっこで、この2人のジャマにならないように縮まる私は、疲れなんてひとつもとれやしない。むしろ疲れて仕方がない。

 さらにやっかいなのが、星野 星に扮した娘は、途中途中で私にコール&レスポンスを求めてくるのだ。娘の設定によると、「星野 星〜!」と言ったら「いえ〜い!」と言わないと機嫌を損ねて帰るらしい。お前はいつぞやのエリカ様かよ。

 その後もやたらと「次のリクエストは何がいいかしら〜?」とマイク(に見立てたシャボン玉の棒)を向けられ、答えに戸惑うと「どんな曲でも歌っちゃうわよ〜!」とノリノリで煽り、息子は出来たサクラのように叫び続ける。

◆団地の湯船で「アリーナ!」

 しかも、1畳くらいしかない無人の洗い場に向かって、「アリーナ!」と叫び、その声は団地中に響いてしまう。窓はしっかり閉めているが、ここは古い団地。絶対にこの歌声は、毎日多くの人たちに強制的に届いてしまっている。近所の人には、どうか、これが平和の象徴だと思って受け止めてもらいたいものだ……。

 というわけで、私のお風呂タイムに安らぎはない。

 いつか、星野 星がマイクを置いてくれるその日まで、私はどっと疲れるお風呂で伝説のライブを体感し続けることになりそうだ。

 切実にわが娘が、吉田家のアイドル界から引退してくれることを願う。

<TEXT/吉田可奈 ILLUSTRATION/ワタナベチヒロ>
【吉田可奈 プロフィール】
80年生まれ、フリーライター。西野カナなどのオフィシャルライターを務める他、さまざまな雑誌で執筆。23歳で結婚し娘と息子を授かるも、29歳で離婚。座右の銘は“死ぬこと以外、かすり傷”。Twitter(@singlemother_ky)

ママ。80年生まれの松坂世代。フリーライターのシングルマザー。逆境にやたらと強い一家の大黒柱。娘(8歳)。しっかり者でおませな小学2年生。イケメンの判断が非常に厳しい。息子(5歳)。天使の微笑みを武器に持つ天然の人たらし。表出性言語障がいのハンデをものともせず保育園では人気者※このエッセイは隔週水曜日に配信予定です。