便秘気味になる程度から猛烈な腹痛まで症状は多様だ

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がんの治療のため外科手術を受け、患部を切除するのは珍しくない。しかし、がんが治療できても、その手術が原因で別の疾患を発症してしまうリスクもある。

子宮頸がんや卵巣がん、大腸がん、帝王切開など、開腹手術を受けた場合に起きやすい「機械的腸閉塞(機械的イレウス)」だ。

なぜ「難民」化してしまうのか

「腸閉塞」は何らかの理由で大腸や小腸の腸管が極端に狭くなったり、ふさがったりしてしまい、腸の内容物が肛門まで運搬されない状態になる疾患だ。それがなぜ開腹手術で起きてしまうのだろうか。

「手術中の出血や臓器が傷ついたことが原因となって、腸同士または腸と他の臓器が癒着して発生する腸閉塞を『機械的腸閉塞』と呼びます。癒着によって腸管が圧迫されたり、ねじれたり、閉塞の程度は人によりまちまちです。なかでも腸への血流が途絶えてしまうと、腸が腐ってしまうため緊急手術が必要になります」

そう語るのは、北里大学教授・北里研究所病院副院長で数多くの腸閉塞の手術を手掛けてきた渡邊昌彦氏だ。

「最近は術中の出血も減り、術後の早期離床(手術後に早めにベッドから起き上って動くこと)も一般的となって癒着も減りました。しかし、やっかいなことに癒着の程度に関わらず起こるのも腸閉塞です」

開腹手術を受けたからといって、誰もが必ず腸閉塞になるわけではない。術後早くから運動をすることで腸が動けば、術直後にしばらく腸の不調を感じても、癒着を防ぐこともできるという。厚生労働省の「患者調査」でも、2000年代以降の腸閉塞の患者数は2万人台で、徐々に減少しつつあるようだ。

しかし、発症するかどうかは個人差が大きく、実は現在でも開腹手術による腸閉塞を完璧に防ぐ方法というものはないのが現状だ。

軽い腹痛や便秘気味になる程度から、吐き気や嘔吐、腹部の膨満や猛烈な腹痛など症状は多様だ。治療は入院せずに、一時絶食するだけで済む場合から、入院して点滴したり腸にチューブを入れたりするケースもある。

ただ、共通点は、腸閉塞は突然発症するので患者の生活が大きく制限されることだ。腸閉塞が怖くて食事や外出もままならない人や、入退院を繰り返して会社を解雇されてしまう患者もいると渡邊氏は指摘する。

「治療は、手術をする選択肢もありますが、その手術が原因でまた腸閉塞になる可能性もあります。したがって外科医は概して腸閉塞の手術はやりたがりません。繰り返す腸閉塞は命に関わらず、絶食することと鼻からチューブを挿入して腸に詰まった食べ物を取り除き減圧する内科的治療で治るならば何も手術しなくてもよいのではと、医師も患者もかんがえてしまいがちです」(渡邊氏)

もう一つ注目すべき点は、がん患者であれば開腹手術で「命が救われたのだから」と考え、ひたすら腸閉塞の不安や症状に耐え続けることも少なくないことだ。

「患者さんは、日常生活もままならないけど再手術は怖い。外科医の方もあまり積極的に手術したがらない。患者はひたすら我慢を強いられる、いわば腸閉塞難民となってしまうのです」(渡邊氏)

腹腔鏡手術が解決策に

そんな腸閉塞患者のために、渡邊氏が提唱しているのが「腹腔鏡下手術によって、腸閉塞の癒着を取り除く」というもの。これまでに、その手法で約150例の腸閉塞に対する腹腔鏡下手術を手掛けてきたという。

腹腔鏡手術とは内視鏡の一種の腹腔鏡を腹部にあけた数センチの穴に挿入し、お腹の中をモニターで見ながら、やはり小さな穴から入れた器具で手術を行う。お腹を大きく切開する通常の開腹手術に比べて、出血量が少ない。そのため、腸閉塞の治療で行った手術が原因で再度腸閉塞になってしまうという悪循環に陥る確率は低い。

「かつては癒着を腹腔鏡手術で治療するのは非常に難しいとされていました。しかし、腹腔鏡の画像が鮮明となり、最近は手技も進化したために、徐々に行われるようになりました」(渡邊氏)

とはいえ、他の組織は傷つけないよう癒着部位をミリ単位で精密に切り離していく高い技術と経験が求められる。「簡単に早く終わってしまうこともありますが、癒着の剥離だけで4〜5時間続けることもあります」(渡邊氏)

とくに化学療法や放射線療法が行われたような子宮がん術後の腸閉塞は、癒着が強固で広範囲にわたることがあり腹腔鏡下手術は非常に難しいという。

腹腔鏡手術をする医師の技量や経験に目安はないが、日本内視鏡外科学会では技術認定制度を設け指導医を認定している。病院選びの際には、まず消化器外科専門医で内視鏡外科技術認定医が在籍しているか、という点を確認するのもよい。

専門医の一覧は日本内視鏡外科学会のウェブサイト「技術認定取得者一覧(消化器・一般外科領域)」から確認できる。

(Aging Style)