「2台同時じゃなくて、どちらか1台だけピットインさせるべきだった。2台で同じ戦略で戦ってもしょうがないじゃないか」

 イギリスGPの決勝中盤、フェルナンド・アロンソが無線で不満を述べた。

 歯に衣着せぬ無線での物言いがテレビ放送で派手に取り上げられることも多いアロンソだが、実は普段はほとんど無線で話すことはない。「僕はドライビングに集中したいから、無線で話すのは好きじゃないし、エンジニアから話しかけるのも最小限にしてもらっている」と言うアロンソが、これだけ無線で意思表示をするのは、相当腹に据えかねていたからだ。

 決勝スタート直前にたった5分間だけ襲来した豪雨で水浸しになった路面が徐々に乾いていき、各車はウエットタイヤからインターミディエイト(浅溝)、そしてドライタイヤへと交換していくなかで、マクラーレン・ホンダは2台同時にピットへ呼び寄せ、アロンソの後にいたバトンは数秒の待ち時間が生じ、ポジションを落としてしまった。

 ただしアロンソは、結果論で戦略ミスを責めているのではなかった。

「僕らはチャンピオン争いをしているわけではないんだから、失うものはない。ポジションを大きく上げるために1周早くピットインするとか、もう1周引っ張るとか、そういう(ギャンブル的な)ことをしてもよかったはずだ。だけど僕らは、そういう反応が遅い。こういうコンディションのときは、1周の差でコース上に留まりきれずクラッシュしたり、(大きくポジションを上げて)ヒーローになれるかすべてを失うかの境目は非常に小さいものだ」

 リスクを背負ってでも上を目指そうという意識が弱く、コンサバティブな戦略に終始する。それも2台がほとんど同じ戦略で――。そんなレースが、今季のマクラーレン・ホンダには何度も見られてきた。

「どうせ浮上の望みのない入賞圏外を走っているのなら、1台はギャンブル的な戦略を採らせてもよかったのではないか?」

 パドックでは、レース後にそんな声が何度も聞かれた。

 イギリスGPは濡れた路面に足をすくわれたアロンソの"720度スピン"もあり、12位・13位というノーポイントに終わってしまった。

 レース後のブリーフィングでは、「戦略が失敗だった。トライしていればよかった」という反省がいつものように繰り返されたという。

 ホンダの長谷川祐介F1総責任者は、マクラーレンのストラテジスト(レース戦略担当エンジニア)を責めることはできないと擁護するが、アロンソと同じように、このレースに限らずトライする姿勢が足りないことも指摘した。

「マクラーレンのストラテジストとも話したんですが、終わって結果を見てからなら何とでも言えるけど、その時点ではどちらに転ぶかわからなかったということでした。インターミディエイトからドライへの交換も、(早めに動いた)ベッテルと同時に入っていればよかったと言っていましたが、それも結果論でしかありませんからね。ストラテジストを責める気はありませんけど、周りのみんなとまったく同じ戦略でしたから、ベッテルのように『換えるなら早めに換えちゃえ!』といったように、(早く換えるか引っ張るか)どちらかにリスクを取らなかったのは残念でした」

 その背景には、ビッグチームゆえの難しさもあるのだと、あるチーム関係者は語る。

「ミスをすればクビになる。だから、大きな失敗をしない保守的な戦略に流れがちになってしまう。それが大きな組織というものだ」

 マクラーレン・ホンダは地元レースであるイギリスGPに、さらなるアップデートを持ち込んできた。ここでしっかりと結果を出したいという気持ちは、はっきりと表れていた。

 ホンダは2トークン(※)を使用してICE(内燃機関エンジン)の吸気系を変更し、出力を向上させてきた。何十馬力ものパワーアップは燃焼室自体の変更を施す夏休み明けまで待たなければならないが、それでもラップタイムにして0.1〜0.2秒ほどのゲインはあった。

※パワーユニットの信頼性に問題があった場合、FIAに認められれば改良が許されるが、性能が向上するような改良・開発は認められていない。ただし、「トークン」と呼ばれるポイント制による特例開発だけが認められている。各メーカーは与えられた「トークン」の範囲内で開発箇所を選ぶことができる。

「吸気抵抗を減らし、燃焼効率を上げるためにエアボックスのあたりを変更しました。ドライバーは『すごくよくなった!』というようなことは言っていませんけど、ベンチ上では明らかに出力向上の取り分は出ていますし、それも結構大きな取り分です。このアップデートがなければQ3進出は厳しかったでしょうし、トラックリミット違反(コースはみ出し)で抹消されはしましたが、ウイリアムズまで0.1秒差の8位のタイムを出せたというのは、非常に勇気づけられる結果です」(長谷川総責任者)

 マクラーレンも、前戦オーストリアで投入した新型フロアにさらなる小変更を加えて持ち込んだ。これが金曜日にはひとつしか間に合わずアロンソ車に搭載され、土曜の未明に完成したふたつ目のフロアを早朝に夜間作業禁止規定を破ってまでバトン車に搭載した。

 しかし、FP-3(フリー走行3回目)のわずか1時間の走行のみで予選に臨まなければならなかったバトンは、その新型フロアとリアウイング翼端板の接着箇所が予選Q1最初のアタックで剥がれ、それ以上の走行ができなかった。高速コーナーが多く、マシンの総合力が問われるシルバーストンだけに、アロンソの走りはマシンの進化に手応えを与えてくれたが、バトン車にはあまりにお粗末なトラブルが起きてしまった。

 前戦オーストリアGPの予選では、アタックに出て行こうとタイヤウォーマーを外すと、本来履くはずの新品ではなく中古タイヤがついていた......という失態もあった。アロンソが「小学生レベルのミス」と厳しい言葉で非難したが、イギリスGP決勝中の戦略に対する彼の不満は、こうしたマクラーレン・ホンダ全体を包む雰囲気によるものだった。

 マシンもパワーユニットも確実に進歩しているが、3強チーム以下の中団は依然として大混戦。それだけに、こうした残念なミスが結果に直結する。そして逆に、チャレンジ精神があれば大きく浮上することも可能かもしれない。

「今の僕らには、下位からトップ10まで這い上がっていくだけの力はないけど、予選できちんとポテンシャルを引き出してトップ10からスタートできれば、そのポジションをキープするだけの力はあるんだ。ミスなく戦えればね」

 オーストリアで6位入賞を果たしながらも、イギリスでは予選のトラブルから13位と低迷したバトンは、地元レースを終えて言った。

 マクラーレン・ホンダが中団グループを抜け出すためには、マシンとパワーユニットの改良だけでなく、他にも大切なことが残されているようだ。

米家峰起●取材・文 text by Yoneya Mineoki