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7月7日、日本人の大西卓哉宇宙飛行士ら、3人の宇宙飛行士を乗せた「ソユーズMS-01」宇宙船が打ち上げに成功。その2日後には国際宇宙ステーションにドッキングし、大西宇宙飛行士らは約4カ月にわたる長期滞在を開始した。

大西宇宙飛行士らが搭乗したソユーズMS宇宙船は、約半世紀近くもの間、人を宇宙へ運び、そして帰還させ続けているソヴィエト・ロシアの傑作宇宙船「ソユーズ」シリーズの最新にして、そして最後の改良型となる機体である。ソユーズMSは今後、10年近くにわたって使用が続けられ、ロシアの、そして人類の宇宙活動を支えることになる。

そして今、ソユーズの跡を継ぐ、まったく新しい宇宙船「フィディラーツィヤ」の開発が始まっている。

○フィディラーツィヤ

従来型のソユーズ宇宙船と、最新型のソユーズMS宇宙船とを比べても、その違いを見分けるのは難しいが、ソユーズとフィディラーツィヤの違いは一目瞭然である。

まず形が大きく変わり、卵のような軌道モジュール、釣り鐘のような帰還モジュール(カプセル)、そして太陽電池やエンジンを収めた機械モジュールからなるソユーズとは違い、フィディラーツィヤは円錐台形状のカプセルと機械モジュールのみで構成されている。全体的な印象も、曲面が多くイモムシにも似た有機的なソユーズから、フィディラーツィヤは無機的になり、カプセルの形状も相まって米国のアポロ宇宙船のようにも見える。

形だけでなく機体そのものも大きくなり、ソユーズは最大3人乗りだが、フィディラーツィヤは最大6人、そして月への飛行の場合でも4人の搭乗が可能になるという。――そう、フィディラーツィヤは月や、さらに火星へも飛行できるようになる。ロスコスモスが定めた2016年から2025年までの「連邦宇宙計画」によれば、ロシアは月や火星の有人飛行に向けた研究・開発を行うとしており、また有人月飛行に関しては実施に向けたより具体的な記述がされている。フィディラーツィヤはまさにこの計画に沿う性能をもった、強力な宇宙船となる。

また、帰還カプセルのうち、耐熱シールドなどを除く大部分は再使用ができ、運用コストの低減が図られる。さらにカプセル底部には着陸用の固体ロケット・モーターが装備され、逆噴射しながら着陸することができる。着陸用の固体ロケットはソユーズにも装備されているが、フィディラーツィヤはさらに着陸脚も装備しており、より衝撃が小さくなり、乗り心地が向上することになる。ちなみに、ロケットの逆噴射による着陸は米国の宇宙企業スペースXの「ドラゴン2」宇宙船も採用しているが、大気圏内の降下から着陸までのすべてでロケットによる制動を行うドラゴン2とは違い、フィディラーツィヤは少し保守的で、降下時にはパラシュートを使い、地面に接地する直前で初めてロケットを使う。この辺りは設計思想の違いであり、どちらが優れていると一義的に言えるものではないだろう(ちなみにドラゴン2にも、ロケットの不調時に備えてパラシュートが装備される)。

この他にも、熱制御に優れ、また帯電を防止できる新しいコーティング素材の採用や、あらゆる宇宙飛行士の体格に合わせられるフレキシブルな座席(ソユーズでは一人ひとり型を取っている)、耐久性の高いドッキング機構など、新しい技術の採用は多岐にわたる。

フィディラーツィヤの開発は、ソユーズの開発や製造を担当しているRKKエネールギヤが引き続き担当している。ソユーズとはまったく異なる宇宙船ではあるものの、その技術のいくつかは受け継ぐ予定で、今回初飛行したソユーズMS宇宙船に採用されたいくつもの新技術も、そのまま、あるいは改良を経て搭載されることになっている。

開発は2009年ごろから始まり、最新の予定では2021年に無人の試験飛行、2023年に有人飛行を行い、さらに2027年に有人の月周回飛行を行うことを目指している。

打ち上げには、これまでに2機の試験打ち上げに成功している「アンガラー」ロケットの有人仕様である「アンガラーA5V」ロケット、もしくはソユーズ・ロケットの後継機として検討が進んでいる「ソユーズ5(フェーニクス)」ロケットが使われる予定となっている。

両ロケットはロシア極東に建設されたヴァストーチュヌィ宇宙基地から打ち上げられるため、フィディラーツィヤもまた必然的に同基地から打ち上げられることになり、ユーリィ・ガガーリンによる史上初の有人宇宙飛行以来、ソヴィエト・ロシアのすべての宇宙船の出発地となっていたバイコヌール宇宙基地は、その座を譲ることになる。

○連邦号

フィディラーツィヤは「連邦」という意味である。この名前が付く前は「次世代の有人輸送宇宙船」という意味のロシア語の頭文字を取って「PTK NP」と呼ばれていた。

フィディラーツィヤという名前は一般からの公募で選ばれた。と言っても、完全に民意が反映されたわけではない。

ロシアの宇宙開発を率いる国営企業ロスコスモス(旧ロシア連邦宇宙庁)は、まずフィディラーツィヤを含む10個の愛称を用意し、ロシア国民のみを対象として、VK(ロシアで主流のSNS)などを使った投票を実施した。その結果、1位は「ガガーリン」、2位は「ヴェークタル」で、フィディラーツィヤは3位だった。しかし、ロスコスモスの幹部による議論の結果、ガガーリンなどが退けられ、フィディラーツィヤが選ばれることになった。

このような結果になった理由は不明だが、ロシアには宇宙船に人名を付けるという伝統や文化がないこと(これは日本の軍艦や自衛艦なども同様である)、またソユーズ(同盟)からのフィディラーツィヤ(連邦)、という流れの良さを重視したことが理由だと考えられている。

ちなみに、ソユーズ(サユース)は「同盟」などと訳されることが多いが、「連邦」という意味もあり、「ソヴィエト連邦」の連邦はまさにサユースを訳したものである。一方で「ロシア連邦」の連邦はフィディラーツィヤの語が当てられており、つまりロシア語としてはサユースとフィディラーツィヤは基本的に別のものとして区別されている。例えるなら、「きぼう」と「のぞみ」というほぼ同じ意味に異なる単語があり、しかしどちらも英語にすると「hope」になる、といったようなものだろうか。

○欧州との決別、独自の道を往くロシア

フィディラーツィヤの開発は、大元をたどると欧州宇宙機関(ESA)との宇宙船の共同開発計画から始まった。

ソユーズの後継機を開発しようという構想は、ソ連崩壊前にも、そしてロシア連邦の成立直後にも存在したが、いずれも予算不足などで実現しなかった。しかし2000年代に入ってロシア経済が持ち直したことを受け、徐々に本格化し始めた。しかしそれでもロシア単独では開発資金が心もとなく、また西側の最新技術も欲していた。

一方、独自の有人宇宙船をもっていなかったESAも、2000年代に入って少しずつ宇宙船への興味を持ち始め、さらに国際宇宙ステーションのモジュール「コロンバス」や、無人補給船「ATV」の開発などを通じて、必要な技術を徐々に獲得していった。しかし、大気圏再突入や着陸といった、宇宙船の実現に必要不可欠ながら獲得が難しい技術は、依然としてもっていなかった。

こうした両者の利害が一致し、2005年から宇宙船の共同開発に向けた検討が始まった。当初はロシアが主導する形で開発が進んでいた小型のスペース・シャトルのような宇宙船「クリーペル」を共同開発する検討をしていた(当時日本にも共同開発の打診が来たという)が、開発が中止となり、その後ESAのATVとロシア製カプセルの組み合わせによる「ACTS」宇宙船に姿が変わった。しかし最終的にはESAが共同開発から抜け、振られた形となったロシアは単独で開発を進める道を歩むことになった。

ESA側が抜けた理由は、宇宙船の開発という大事業に関して、ESA参加各国の全面的な合意が得られず、本格的な開発へ移行するのに消極的だったためだという。また、欧州単独でも宇宙船は造れるという意見も強く、このころATVを発展させ、有人宇宙船に改造した「発展型ATV」の構想も発表されている。

ただ結局、ESAは単独での開発という道には行かず、その後2013年になり、米国航空宇宙局(NASA)と共同で次世代宇宙船「オライオン」を開発することで合意した。オライオンはもともとNASA単独で開発が行われていたが、ESAの参加により、NASAは宇宙船全体の設計や宇宙飛行士が乗るクルー・モジュールの開発を行い、一方のESAはオライオンのサービス・モジュール(太陽電池やエンジンが収められた部分)の開発を担当することになった。

ESAにとっては、開発にしくじればオライオンが飛べなくなるほど重い責任を背負うことになるが、オライオン開発の根幹に深く関わることで、その仕様や、搭乗する宇宙飛行士の選定などに対して、大きな発言力をもつことができるようになった。オライオンは将来的に、月周辺にもってきた小惑星への有人飛行や、2030年代に計画されている火星への有人飛行などに使われる予定だが、その際にオライオンに搭乗する宇宙飛行士の中に、必ず1人はESAの飛行士が含まれることになろう。

○ロシアの有人宇宙開発の未来はどうなるか

一方ロシアは、ACTSからPTK NP、そしてフィディラーツィヤと名を変えつつ、現在まで単独で次世代宇宙船の開発を続けている。現在のところ、当初の計画からはやや遅れてはいるものの、徐々に形になってきており、前述のように2021年に無人試験飛行、2023年に有人飛行といった飛行の目処も立ちつつある。

ただ、今後も開発が順調に進むか、そして月や、あるいは火星に行けるかどうかは、注意深く見守る必要があろう。

ソユーズ以来、ソヴィエト・ロシアは既存の宇宙船の改良を重ねているだけで、まったく新しい設計の有人宇宙船を完成させたことがない。細かいことを言えば、ソ連末期にはスペース・シャトル「ブラーン」を開発してはいるものの、しかし有人で飛んだことはない。ロシアがフィディラーツィヤをそもそも完成させられるかどうかは、まず疑われるべき点である。

そして、ロシアの有人宇宙計画もまた、将来は未知数である。たしかに有人月探査を行う計画はあるものの、実現に必要な予算と、そして必要性が乏しいことを考えると、今のところ実現は厳しいと見るべきだろう。

またロシアは現在、2024年の国際宇宙ステーション計画の終了後に、設計寿命が残っているロシア側モジュールだけを切り離し、独立した宇宙ステーションにする構想ももっている(米欧日のモジュールは廃棄予定)。これが実現すれば、2020年代以降にロシアは独自の宇宙ステーションの運用と有人月探査の両方を行うことになるが、それだけの余裕はおそらくなく、また独自宇宙ステーションの実現、運用のほうが比較的簡単であるため、やはり有人月探査の実現は難しいだろう。

そうなると、フィディラーツィヤの必要性も薄れる。ロシア単独の宇宙ステーションは規模的に現在の国際宇宙ステーションよりも小さくなるため、フィディラーツィヤの性能は役不足で、必ずしも必要となるわけではない。また有人月探査を行わないのなら、やはりフィディラーツィヤは必要がない(そもそもソユーズでも設計上、有人月探査は可能である)。

また、フィディラーツィヤを打ち上げるアンガラーA5Vロケットはまだ存在せず、もうひとつの打ち上げ機として見込まれているソユーズ5に至っては影も形も存在しない。そして両者のうちどちらかでも完成しなければ、フィディラーツィヤを打ち上げる手段はない。

ロシアの有人宇宙開発にとってフィディラーツィヤの必要性が薄れれば、あるいは打ち上げロケットの開発が遅れ、足並みが揃わなければ、フィディラーツィヤが完成するかどうかにも大きく影響する。そうなれば、ソユーズMSを2020、30年代以降も使い続けるという選択肢も出てくるだろう。

ただ、月周辺にもってきた小惑星への有人飛行や、2030年代に火星への有人飛行も計画しているNASAと、それに宇宙船の開発協力という形で参加するESAに、ロシアが真っ向から対抗するという方針が固まれば、有人月探査計画が最優先事項となる可能性もあろう。またロシアは近年、宇宙開発分野で中国との協力を進めており、共同で欧米の小惑星・火星探査と対抗するということになれば、フィディラーツィヤの完成、そしてそれを使った有人月探査、さらにその先の火星探査が実現する可能性は高まることになる。

フィディラーツィヤの開発は、こうしたロシアの有人宇宙計画がどうなるかによって、その要否、あるいは完成時期、そして飛行先が左右されることになるだろう。

【参考】
・PTK NP (PPTS/ACTS) spacecraft
 



・Uninternational space station
 

(鳥嶋真也)